第17話 夜のエンプティ
家に着く頃にはほとんど夜といっていいくらいの空になっていた。時計を見ると、7時近くを指しており、すぐに夕飯を作らないといけない時刻だった。
今日は未華に休んでもらって俺が作るか。
「夕飯は俺が作るから、未華は休んでて」
リビングのソファで体を預けてすこしぐったりしたように座り、首を少しだけ傾けこちらを見た
「私も作るよ、ちょっと休めば元気になるから」
「元気になってすぐに体を動かしたら、すぐに疲れちゃうだろ」
「わかった。ちょっと部屋に戻って寝るね、おやすみ」
「出来たら起こしに行くから。無理に食べなくていいから、そのまま寝たかったら言ってくれ」
ゆっくり立ち上がって部屋に向かっていった。
久しぶりに一人で夕飯作るな。温め直す前提の料理の方がいいかな。そうなると、うどんかな?
うどんに具材乗せておけばあとは、温めたつゆをかければ出来上がるし、体調が優れなくても、ツルッと入っていけるだろう。それに短時間でできる。
うどんを茹でて、具材を切って、少し火を通して、つゆを作ったら、完成。
手抜き感があるな。正直温め直したらって考えてるの浮かんだのがこれ以外すぐに思いつかなかったから仕方ない。とりあえずできたし未華を呼びに行くか。
部屋に入ると、布団をかけずに眠る未華の姿があった。今日は比較的暖かいとはいえまだ春だ。風邪でも引くかもしれない。
「未華、ご飯できたけど食べる?食べやすいうどんにしてみたけど」
「うーん、もうちょっと寝てるから、先食べてて」
「わかった。起きたら冷蔵庫にうどんが入ってるから、鍋の中のつゆを温めて食べて」
目を閉じたまま、頷いてすぐに寝息を立てた。相当疲れたんだろうな。学校からカフェまではそう遠くないけど、家までとなると遠いからな。布団をかけて部屋から出た。リビングに戻って、久しぶりに一人で食べるが、すごく部屋は静かで寂しいと思った。最近はいつも未華がそばにいて、一緒に笑いながら食べてたから、急に誰もいなくなってすごく寂しい。いつまでも、この生活が続かないと思うと、寂しい。思い出の詰まったこの家。俺だけが取り残されて、みんなどこかへ行ってしまう。自分一人時間には慣れてたはずなのに、小さい頃から一人でいることに離れてたはずなのに、この歳になって寂しいと感じるなんて。
「はぁ、風呂に入るか」
食べ終えたうどんの皿をシンクに入れ、洗うのが面倒に思えて、そのまま服を持って風呂場に向かった。
なんで俺こんなに暗くなってんだろ。この先の事を考えて、すごく不安になる。俺は未華がいなくなったあとも生きていけるのだろうか。風呂に入ってる間ずっとそんなことを考えていた。
風呂から上がり、再びリビングに戻ると未華が起きていた。俺が部屋に入ってきたのに気づくと笑顔でおはようと言ってくれた。未華の笑顔を見ると、人恋しさが耐えきれなくなり何も言わずに未華を抱きしめた。
「どうしたの急に。寂しかったの?」
問いには答えずに無言で抱きしめる。未華はまだ乾ききってない俺の頭を撫で始めた。
「昔から光希は寂しがり屋さんだね。でも、光希のそういうところも好きだよ。それを隠して強がるところは可愛くてそこも好きだよ。大丈夫、光希はひとりじゃないよ。私がずっと一緒にいてあげる。だから元気だして」
俺を慰める言葉に聞き覚えがあった。
たしかその時も俺は泣いていて、未華に頭を撫でてもらっていた。母さんがなくなってた日と同じように俺はまた未華に慰めてくれている。
抱きしめるてを解いて今度は逆に俺が未華を撫でる。
「ありがとう。びっくりさせちゃってごめんな。弱虫だな。俺は」
「そうだね。光希は弱虫だね。それなのに強がりだから、一人で抱え込んじゃう癖があるから直した方がいいかもね。」
「強がってなんかないよ」
「私から見たらそう見えるけどな。それよりうどん美味しかったよ。あと、心配かけちゃってごめんね」
「俺にだったら心配はいくらでもかけてくれて構わないよ」
「そっか。じゃあ私もお風呂に入ってくるね」
未華は俺が洗わずにいた、皿も洗っていてくれていた。もうちょっとちゃんとしないとな。少しの時間とはいえ、あんなに落ち込んでちゃ未華に心配かけちゃうし。弱虫な所も直さなきゃだしな。でも、俺って弱虫だったのか。自分を客観視してみても気づかないもんなんだな。
今日は珍しく暗くなることが多いな。昼の時といいさっきといい。元気出さなきゃな。それに明日も学校なんだし心配かけられない。
「よしっ!明日はちゃんと起きて一緒に弁当作ろう。」
明日の弁当の中身でも考えてるか。
しばらくあれこれと、考えていると未華が風呂から上がってリビングに入ってきた。
「一人で唸ってて何してたの?」
「明日の弁当の中身考えてたんだ。」
「お弁当のおかずか。その事なんだけど、私一人で作らせてくれない?お弁当の中身はお昼までお楽しみ。お弁当の中身が分からないと、開ける時ワクワクするでしょ?」
一人で作らせてくれと言われてドキッとしたが、直ぐにその理由がわかって安心した。
「そういうことならいいよ。さっきちゃんと朝起きて一緒に弁当作ろうって自分の中で決意したところだったけど」
「あっ、そうだったの?それなら明日も一緒にお弁当作る?私一人で作るのは明後日からでも別にいいよ」
「いいよ。未華が楽しみにしてることを先延ばしにしたくないし。俺も楽しみにしたいって気持ちがあるし」
「そっか。じゃあちょっと冷蔵庫の中身みてくる」
冷蔵庫を開けて少しうーんと唸っていたがなにか思いついたようで、冷蔵庫を閉めて楽しそうにこちらに戻ってきた。
「楽しみにしててね。少し早いけど私寝くなっちゃったから寝るね」
そう言って部屋から出ていった。
一人でやることも無いし、課題が出されてたと思うからちょっとやるか。
部屋に戻ると、さっきと同じようにすぅすぅと寝ていた。今度は布団をちゃんとかけて寝ていた。
机に座り、カバンから課題だした。思いのほか難しい問題が多く、時計を見て11時になので、課題を諦めて寝ることにした。
ベットを見ると未華が壁際に居てベットの大半が空いていた。横に寝ると思いのほか未華が壁の近くで寝ていて、一人で寝てる時に近いくらいのスペースがあった。そのまま寝ようかと思ったが、またもや寂しさを感じて未華を自分の方に抱き寄せて、抱き枕を抱く感覚ってこんな感じなのだろうかと考えながら、眠りに落ちていった。
まだ、空が暗い頃に目が覚めた。眠い目で時計を見ると、うっすらと時計の針が見えた。目を凝らしてみるとまだ4時半だった。私結構寝てたんだな。でも体はそんなにだるくないし、元気かも。横を見ると、私の素敵で優しいけどちょっぴり子供っぽい旦那さんが寝ていた。昨日の夜の寂しそうな顔を思い出したからなのか、寝顔がすごく子供の寝顔みたいに可愛かった。
頭を撫でると、少し笑顔になった。体は大きく育ったてもまだまだ中身は子供だな。
朝早いとはいえもう眠くないし朝ごはんを豪華にしようかな。そう思い、ゆっくりとベットから降りてリビングに向かった。
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