第15話 昼のメモリー
教室に戻ると体育かいた汗を拭いてたり、脱いだジャージが床に投げ捨てられたりしてて、弁当を食べようと思える環境じゃなかった。しばらく未華の席で話をしながら、人が減るのを待った。
「なんか、今年のクラス、男子の方が多いみたいだね。去年は女子の方が多くてここまで教室散らかったらリしなかったからちょっと驚いた。」
「何故か知らないけど、うちのクラスに運動部所属の奴らが集まったからな。去年はジャージが床に落ちてるって言っても一人二人だったからいいものの、今年は体育後は教室が汗くさくなるし、騒がしくなるだろうな。」
まだ春先だって言うのに、教室の後ろの方で、何人かの男子が上裸で汗を拭いていた。
ああいうことするから風邪引くんだよな。さらに暑くても公の場で服脱いだりしないし、ましてや女子もいる。
うちの学校は偏差値は50そこそこだが、たまにバカが何人かいるんだよな。ちょっと問題行動したりて、未華が危ない目に合いそうだから正直そういう奴らは嫌いだ。
「でもそういうのもいいと思うな。青春って感じがしてさ。」
俺とは真逆の意見が飛んできて驚いた。
「青春ねえ、俺はあんまりそうは思わないかな。」
「ええ、光希は『ザッ男子』みたいなのやりたいと思わないの?」
ザッ男子っていうのは後ろではしゃいでるような奴らのことだろうか。
「思わないよ。俺は普通でいいかな。それに、あんまり元気だと、未華の体調の事考えずに無理させちゃいそうだし。」
「その時はちゃんと私が止めるから大丈夫だよ」
「そうか?一緒になってはしゃぎそうなイメージが俺にはあるけど」
「そんなことないよ」
「ふーん、ほんとかな」と言いながら辺りを見渡すと、教室にいる人が減って自分の席で本を読んでる人やお弁当を食べてる人など賑やかだった教室が静かになり始めていた。
「そろそろ弁当食べようか。教室の中も落ち着いてきたし」
「うん、そうだね。」
持ってきたバックからお弁当を取りだし、未華の隣の席を借りて机を繋げた。
「お弁当美味しくできたかな」
「朝あまり食べた時美味しかったから、冷めてもそんなに足が変わったりしないから心配ないだろ」
二人で「いただきます」を言って弁当を食べた。ちゃんと美味しかった。
「な?ちゃんとおいしいだろ。でも普段食べてる場所が違うと、違和感があるな。」
いつもは周りが賑わってるところで食べてるから、お昼だけ人が少なくなる教室だと少し緊張しする。
「私は全然そんなことないよ。それより、久しぶりに学校で光希とご飯食べられて嬉しいかな。一昨日は私が体調悪くなっちゃって一緒に食べられなかったし。」
「体調が悪くなっちゃったのは仕方ないよ。あと、学校で食べるのと、家で食べるのにそんな違いはないだろ。」
「確かにそうだけど、あと何回ここで一緒に食べられるかわかんないじゃん。だから、前までやって来た事を忘れないようにしたくって。些細な事でも楽しかった思い出として私の中で残しておきたい」
俺が思うに入院前と後であんまり変わった所はなく、いつもと変わらず元気に過ごしていると思っていたが未華自身は一分一秒を俺とすごした楽しかった思い出として記憶しようとしていた。
俺は絶対に忘れてはいけないことを忘れていた。
俺の中でなんの変哲もない学校生活の思い出だとしても、未華にとってはかけがえのないものだと言うことを。そう思うと、とてつもない焦燥感に襲われた。
「ごめん未華。前できてた事が今じゃ難しくなってるってことを俺は忘れてた。当たり前が当たり前じゃないって事を考えてなかった。ただただ俺は未華の心配ばっかりして、未華のやりたいことを叶えることばっか考えちゃって、それが未華とっての最後の思い出になるかもしれないって事をわかってなかった。」
弁当を食べる手を止めて、未華方を向き頭を下げた。
「人が少ないとはいえ、教室だから、頭下げたりしないでよ。それに、光希が私の事をそんなふうに大切に思ってくれてた事は知ってたよ。光希はこれからも人生が長いんだから、一生の思い出と思わないで、私との楽しかった思い出として残してくれれば嬉しいよ。」
「それよりも早くお弁当食べよ」そういわれ、気を取り直して未華と談笑しながら弁当を食べることにした。
弁当を食べ終えると、ちょうど鉋も友達と昼を食べ終えたようで、教室に戻ってきた。俺と目が合うと一人で俺の方に向かってきた。
「お前昼飯食わないの?」
心配した顔でそう言われたが、弁当を作って未華と食べたと言うと、今度は呆れ顔をされた。
「学校でもイチャイチャしやがって。家とか土日でいいじゃねえか。お前の惚気話を聞きたくないから、また二人で楽しんでくれ」
勝手なことを言いながら鉋は去っていった。
「そういえば鉋君と光希って去年初めて会って仲良くなったんだよね?」
「そうだよ。あいつから俺に話しかけて来たってのは話したっけ」
「なぁお前。名前なんて言うんだ」
急に席の目の前に現れ、初対面でお前呼ばわりか。
「初対面でお前呼ばわりする人にそう簡単に名前は教えないよ。まずは自分から名乗ったら?」
突っかかっていくような言い方になってしまったが、まぁ別にいいだろ。どうせすぐどっか行くだろうし
「先に名乗るのが筋ってもんだよな、わりぃ。俺の名前は 柊 鉋(ひいらぎ かんな)って言うんだ。」
「漢字だと、なんて書くんだ?」
「木へんに冬で柊。金へんに包むって書いて鉋だ。」
「それじゃあ二文字の名前になるのか。中国人かなんかと間違われそうだな」
「そうなんだよ。たまにふざけてるだろとか、中国人ですかって聞かれたりするんだ。」
「で、そんな柊は俺に何の用だ?」
やっと、本題に入ることが出来た。にしても感じに文字の名前なんて初めて聞いたな。
「用って程の事じゃないんだけど、お前見てたら直感でいいコンビになれそうって思ったんだよ。」
そんな訳の分からない理由で俺に話しかけてきたのか。
「コンビって芸人とか目指してるのか?そういうのだったら先に断っておくよ。俺はそういうのに興味はないから、他を当たってくれ」
興味はないし、そういう人たちがやる漫才が面白いと思わなくなっていた。馬鹿らしいとあしらってる気もしないでもないし。
「そうじゃねーよ。授業で作る2人組なんかをお前と組んだらなんか優等生っぽそうだし楽出来そうって思ったんだよ。」
なるほどな、理由が不純だな。それに俺は別に優等生でもないし、勉強を教えられるほど頭も良くない。
「俺は優等生でもなきゃ、勉強を教えられるほどの頭脳は持ってないよ。どれも普通ぐらいだ。」
するとそこに、未華が会話に参加してきた
「光希、この人誰?」
「お前光希って言うのか、それよりこの子誰?もしかして彼女?」
最初は俺の名前を聞いてきたくせして、未華の方が興味がでかいのか。
「えーっと、この変なやつが柊 鉋。今来たのは俺の幼馴染の荒良々木 未華」
なんだこれ。なんで二人を紹介してんだ。
「変やつ呼ばわりはダメだよ。高校初めての友達でしょ?」
「友達じゃないよ。こいつが俺と居れば勉強が楽そうみたいなこと言ってきて、俺が断った、それだけの関係だよ。」
「別にいいじゃんか、友達でも。なぁ?」
未華に同意を求めてそれに同調した。
「そうだよ。仲良くしてあげないとダメだよ。」
「わかったよ。友達とはいえ勉強はちゃんと自分の力でやれよ。特に課題は。」
「ちょっとぐらい教えてくれてもいいじゃん。まぁいいや。これからよろしく」
握手を求められたのでその手を握り、よろしくと言った。
それからよく一緒に行動するようになり、一年も経たずにお互いの考えてることがわかるようになっていた。ずっと一緒にいたみたいに。
「すごいよね、たった一年で息のあったことが出来るんだから。」
出会いこそおかしかったけど、話の馬が合うことが多かったからだろうな。
「人間関係って不思議だよな。最初は俺の嫌いなタイプだと思ってたのに、いつの間にか、それが無くなってる。さらにあいつとは意気投合できてるし」
「私も最初は光希がこんな感じの人といるなんて珍しいな、とは思ったけど鉋君の直感ってもしかして凄いのかな?」
「もしかするとな。そろそろ授業が始まるし席に戻るか」
席につき五限目の準備をした。するとまた鉋が俺の所に来た。
「わりぃ、光希。今度食べ物が美味しいとこ連れてくから課題見せてくんね。」
「わかったよ。忘れんなよ」
おう、と言って俺のノートを自分の席に持って行った。今度そこに未華も連れてってみようかな。
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