第13話 放課後の憧れ

「おはよう、光希。おお、荒良々木さん、元気になったんだ。おはよう」

いつものように鉋は俺たちより早く来ていた。未華がいることに多少驚きながらも、気軽に挨拶してくれた。

「おはよう、鉋君。心配かけちゃったね。私は元気になったからもう大丈夫だよ。」

元気になったとはいえ、運動は危ないこと言っとなきゃな。知らないところで倒れでもされたら俺も倒れそうだ。

「一応学校に来れてるけど、体力の面をもあるから、運動はあんまり出来ない」

「そっか。まぁでも学校にこれただけ良かったな。」

「うん、これからもまた同じクラスでよろしく」

おう、と鉋が言うと、ホームルームの鐘がなった

「今日の日程だと体育はないから心配はしなくて大丈夫そうかな」

「体育がある日はちゃんと見学するから心配しなくて平気だよ。」

「男女別になる可能性もあるから俺は心配なんだ」

「その時は、先生に助けてもらうよ」

「わかった。我慢だけはするなよ。」

頬を膨らませながら、わかってるよと言って、自分の席に帰っていった

まだ、学校は始まったばかりだ。未華の身体がどれくらい耐えられるのか分からないけど、油断は出来ないな。

三限目までは終わったけど、未華がちょっと苦しそうにしてたな。

「未華、大丈夫か?」

呼吸も少し荒い、ずっと座ってるからストレスも溜まるだろう、だからかもしれないな

「大丈夫だよ。ちょっと時間が経てば治るから」

安心させようとしてるけど、未華の言葉を素直に受け取って、このまま授業を受けせて倒れたら元も子もない

「大丈夫でも、保健室に一回いこう。」

俺の方を見ながら、苦しそうに首を横に振った

「あと一時間だけ、お願い。」

どうして未華は、そんなに頑張れるのか。見てる側が辛くなってくる。

「本気で無理だと思ったら、俺の方を見ろ。そうすれば俺が未華を保健室に連れてくから。」

未華の席は前の方俺はひとつ左の列の後ろ側だから、普通にしていれば、未華の顔が見えることは無い。

だから、未華が振り返ってくれれば離れてても、合図になる。

頷き、次の授業が始まるまで未華は机の上で突っ伏していた。

授業中、俺は未華が心配で授業に集中出来なかった。

幸いにも未華は倒れる事なく、昼休みに入れた。

「よく頑張ったな。未華がまだやれるとしても、一度保健室に行こう。」

頷いて、立ち上がった時未華の身体が、フラッと倒れそうになった。俺は急いで未華を支えた。

「大丈夫か?歩ける?」

「ごめんね、心配させちゃって。ゆっくりだけど、歩けるよ」

俺に半分体を預ける感じで、ゆっくりと歩き出した。

保健室の中に入ったが、先生がいないので、勝手にベットを使わせてもらうことにした。

ベットにゆっくり座らせた。

「今先生呼んでくるからちょっと待っててくれ」

保健室から出ていこうとすると、制服の裾を引っ張られた

「ここにいて。光希がいてくれれば元気になるから。お願い。」

わかった、と言って未華の隣に座って頭を撫でた。

「そういえばそれ、私が苦しい時いつもやってくれるよね」

それ、とは何を指すのか分からず「どれ?」と聞き返した

「今、頭撫でてくれてるでしょ」

これか、確かに未華が苦しそうな時とかに良く撫でてる気がする。

「私、光希に頭撫でられると、苦しいのがだんだんなくなってる気がするんだ。そんなことは無いはずなのにね。」

「そうなのか。俺も分かるなその気持ち。未華が教えてくれたから。」

キョトンとした顔で俺を見てきた

「小一の時よく俺の頭を撫でてくれたろ。その時撫でられてて、俺は1人じゃないんだって思えて、だんだん心が軽くなっていったんだ。だからその時の感謝を込めて俺はいつも未華の頭を撫でてるんだ。」

「そんな事思って私の頭撫でてたんだ。ありがとう。」

話してるうちに気づくと未華の呼吸は穏やかになっていて苦しさもなくなってるように見えた。

「ありがとう。おかげで元気になったよ。」

元気よく、立ち上がると保健室のドアが開いて先生が入ってきた。事情を説明すると、先生は未華を一時間保健室で休ませると言った。未華は大丈夫と言っていたが身体の安全のためと言って一時間未華は休むことになった。

五限目が終わると教室に元気になった未華が入ってきた。

「ただいま。元気になったから次の授業受けられるよ!次の授業は…」

時間割表を見てた未華の顔が暗くなった。

「私まだちょっと体調悪いかも…」

スーっと俺から離れようとする未華。時間割表を見て俺は納得した。そこには『数学』と書かれていた。

すぐさま腕を掴んで、逃げようとしてる未華を捕まえた。

「一時間保健室で寝て、元気になって次の授業は受けれるって言ってたよな?」

愛想笑いをしながら、俺の掴んでる手を振りほどこうとしてる

「そんなこと言ってないよ。聞き間違いじゃないの。

「そろそろチャイムがなるから、教室から出ないで座った方がいいんじゃないのか」

直後、授業開始のチャイムがなった。未華は絶望したような顔になりながら、とぼとぼと自分の席に戻っていった。ほんと、昔から数字が苦手だよな。小学生の時だって算数の宿題が解けないって俺に泣きついてきた時があったっけ。

「暗気、早く立て」

小学校の事を思い出していると急に先生に呼ばれてびっくりすると、周りの人達が全員立っていた。

ああ、号令か。急いで立つと未華と目が合い笑っていた。

授業が終わると未華が笑いながらこっちに来た。

「ぼーっとしてて何考えてたの?」

「未華は昔っから算数ができてなかったなって思ってたんだよ」

「できないんじゃないよ、苦手なだけだもん。」

拗ねたようにプイっと後ろを向き自分の席に戻っていった。

帰り支度が終わり、未華と一緒に校門を出た。

「久しぶりに一日学校だったなあ」

伸びをしながら言った

「結構疲れてるだろ。」

「確かに疲れたけど、楽しかったかな。病室の窓から制服姿で学校から帰って行くのを見ててさ、羨ましいなって思ってたから」

学校帰りにお見舞いに行った時、俺を見て少し暗そうにするのはそういうことだったのか。だから学校に行きたいなんて無理も言ったのか

「今こうして一緒に帰れて、良かったな」

「うん。今日あったこととかを誰かと話しながら一緒に帰ることが私のやりたいことでもあったから。」

嬉しそうに俺らと同じ制服を着て帰ってる人を見てた

「あと、あの時無理言ってごめんね」

「別にいいよ。俺はあの時最悪早退も考えてたから。未華がまだ頑張るって言ってくれなきゃ今頃は家にいただろうから。」

「早退はやり過ぎだよ。良かったあの時頑張っといて。そのおかげで光希と一緒に帰れてる」

はにかみながら未華は俺の手を握ってきた。俺はその手を握り返した。

未華は明日も学校に行くと言うだろうか。今日元気とはいえ、この先毎日となると精神的に辛くなってくると思う。適度に学校に通うのが一番だが、たぶん未華は毎日行くと言うだろう。

「私、明日は学校休もうかな」

「え?」

予想外のことを言われてもう一度と聞き返した

「今日疲れたから。明日は学校休んでおうちにいようかな」

「未華はそれでいいの?」

「うん。だって毎日言ってたら私がもたないし、第一に光希に迷惑かけちゃうでしょ?四限目の時授業に集中できてた?」

図星を付かれてしまった。なんて言い返そうと言葉を探してると未華がまた話し始めた

「私が元気な時に行った方が心配することも少なくなるしいいかなって」

未華はちゃんと考えててくれた。時間が少ないのに、自分のやりたい事ばかりじゃなくて周りの人のこともしっかり考えて行動してる。俺がそうしなくても、未華は未華なりに考えてる。

「そうだな。また元気になったら一緒に学校に行こうか。」

「うん。すぐに元気になって学校行くから、私と一緒に行く日を楽しみに待っててね。」

二人で話しているとあっという間に家に着き、二人でただいまを言い家に入った。

「お弁当箱は明日私がお母さんと買ってくるから、明後日までお弁当は我慢してね」

「弁当の中身も任せちゃってもいいか?作る時は一緒に作るから」

「私が起こさないと光希起きないんだから、寝てて大丈夫だよ。」

「頑張って起きるよ、朝から未華に頼りっぱなしは嫌だから」

「起きれたら手伝ってね」

起きれたら…か。起きれるかな俺。頑張るとはいえ起きれなきゃ意味ないよな。やって見なきゃ分からない。

「起きてやるさ」

ふふっ、と笑いながら頑張ってといい、未華は部屋に入っていった。

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