第12話 日頃の感謝
幸せな夢を見た。光希と私の結婚式の夢。
「病める時も、健やかなる時も、喜びの時も、悲しい時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす事を、誓いますか?」
「「はい」」
いよいよ、キスだよね?緊張するな。
お互い向かい合うと、光希が抱き寄せてきた。
あれ?キスじゃないの?抱き寄せられるなんて知らない
「あ、え…」
困惑する私をよそに光希は私の頭を撫でてきた。
「大好きだよ。未華」
光希に「大好き」と言われて目を覚ました。目は空いてるはずなのに目の前が暗い。それに誰かに頭を撫でられていた。
あれ?もしかしてこれってまだ夢なのかな?
「光希?」
試しに名前を呼んでみると、私を撫でる手が止まった。抱かれていた頭も解放され、頭を撫でてる主を見るとやっぱり光希だった。
「おはよう」
「うん、おはよう。びっくりしたよ、目が覚めたら頭撫でられてて。」
「ごめんごめん。まだ、朝早いから寝てていいよ。今日は俺が朝飯作っとくから。」
「光希が早起きなんて珍しいね。ご飯は一緒に作ろうよ。 それよりなんか怖い夢でも見たの?」
本当に珍しいから少し心配になりながら聞いてみた。
「いや、たまたま早く起きただけだよ。久しぶりに未華の寝顔を見てたら可愛くて、撫でたくなっただけ。」
「そ、そうなの?ありがとう」
照れる様子もなくはっきりと言われて、私の方が少し恥ずかしくなってしまった。
時計を見るとまだ6時前で、本当に朝早い時間だ。光希は昨日はバイトで疲れていつもより早くに寝たから、その分早く起きたのかな?
「ご飯作るまで時間あるし何かしようよ」
「何かって何する?家でやる事と言えばテレビ見たり、トランプとかしかないけど。」
トランプはもう飽きちゃったからなぁ、テレビもなんかなぁ。なんか面白いことないかな。あ、そうだ!
「ねぇ、朝の散歩しない?こんな早起きしたんだからちょっと行ってみようよ。」
「散歩?別にいいけど、春とはいえ朝はまだ寒いから暖かい格好で行かないとな。」
「そうだね。じゃあ着替えるから、光希も着替え終わったら玄関で待っててね。」
自分の服や私物が置いてある部屋急いで入った。
あった。モコモコのお気に入りのセーター。これ着てけば寒くないかな?あとは寝癖直して。これでよし。
「じゃあ行こうか。」
光希が手を出してくれた。私はその手を握ると、冷たかった手がだんだん暖かくなっていく。
「うお、手冷た」
「光希の手は暖かいね」
少し霧の立ち込めた人気のない住宅街を2人で歩いていく。なんだか不思議、もう少し時間が経つと人が沢山出てくるのに、ちょっと早いだけでこんなに静かなんだ。
「なんだか私たち2人だけの世界みたいだね」
「そうだな。でも、向こうで犬連れた人が歩いてるよ」
指を指した方を見ると霧の中に微かに人影があった
「もうちょっと雰囲気楽しもうよ。私は言われるまで気づかなかったよ」
「たまたま見えちゃって、気づいたら言ってたんだよ」
そのまま真っ直ぐ歩いていき、普段あまり通らない道を歩いてみることにした。
「この道ってどこに繋がってるんだろうね」
「俺も通ったことないから分からないな。そのうち知ってる道に出るんじゃないか」
「そんなもんかな?」
「そんなもんだろ」
ただひたすらに歩き続けていても、いつまで経っても真っ直ぐのままで、左右は田んぼ、曲がり道のひとつも見当たらない。
「ねえ、これほんとに大丈夫?なんか怪しいけど」
不安に耐えられなくなり光希に聞くと同じこと思ってたらしき、2人で戻ることにした。
家に着くと、2人でさっきの道のことを話しながらご飯を作った。
「なんかあの道不思議だったね、どこまで続いてたんだろ」
私たちずっとここに住んでるけどずっと真っ直ぐな道なんてあったかな?結構歩いてると思ってたけど実はそんなに歩いてない?
「多分お互いゆっくり歩いてたから、結構長い道だと思ったんだと思う。でもそこまでゆっくりだったわけじゃないし…」
途中からブツブツと独り言を話始めたみたいなので私はご飯を食べるのに専念することにした
「今日は私も学校に行くよ」
お皿を洗いながら光希に言うと、心配されたが、大丈夫だよ、と言うと仕方なさそうに頷いてくれた。
ほんとに大丈夫なんだけどな。
「だけど、俺から離れんなよ。気分が悪くなった時とか苦しくなった時背負ってやるから。」
「わかってるよ。言われなくても私は光希とずっと一緒にいるつもりだから。」
そっか、と照れていた。かわいい
「ねぇ、光希いつもお昼は学食でしょ?私も1年の時は学食だったけど、一緒にお弁当作ってみない?」
「お弁当か。大変そうだけど大丈夫か?」
「とりあえずなんか作って詰めてみようよ。まだ学校まで時間があるし。」
「弁当箱はどうする?俺1個しか持ってないけど。」
確か私も家に1個あった気がするけど恥ずかしいな。
「私も一応お弁当箱持ってるけど、ちょっと恥ずかしいかな…。」
幼稚園で使った以降はお弁当は使ってこなかったから
今じゃ恥ずかしい柄だな。
「私が言ったのにあれだけど、お弁当はまた今度にしよ」
「じゃあ、今日か明日の放課後にでも買いに行こうか。その時についでに弁当に詰めるものも買おう。」
「お金大丈夫?」
いくらバイトをしてるからとはいえ、無理に出費は増やしたくない。少しぐらいお金の方でも手助けしてあげたいな。
お年玉いくら位溜まってたっけ?光希には言えないけど、死んじゃったらお金はあっても意味ないから、出来れば誰かのために使ってあげたい。
「心配しなくていいよ。バイトとはいえ働いてるからそれくらいの金はある」
「それでも私もちゃんとお金出すよ。私がお弁当作ろうって話したんだから、光希だけに払わせるなんてやだよ。」
ゆっくり手が伸びてきて、私の頭をクシャッと撫でた
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ。未華がそう言ってくれるなら俺は嬉しいけど。ほんとに無理しなくていいよ。そのお金は未華の両親に使ってあげて欲しい。」
「お父さんとお母さんにはちゃんと使ってあげてるよ。それに私の家族に光希はもう入ってるの。だから両親だけじゃなく、光希にも私は使ってあげたい。奢られてばっかりや貰ってばっかりは嫌。ちゃんとお返しもしたいの。これからは一緒に色々分け合っていきたい」
「わかった。一緒に分け合っていこうか。それとは別に、未華からいつも、温もりや元気を貰ってる。貰ってばっかりなのは俺の方だよ。それに、未華は俺が生きる希望でもあるんだ。いつもありがとう。」
「私だって光希にはいつも楽しませてもらってるし、笑わせてくれる、優しくだってしてもらってる。そんなのじゃ割に合わないよ。私だって光希がそばに居てくれるから生きよう、って思えたんだよ。いつもありがと。」
言い終えたあと少し沈黙が続いた。
「なんかスケールの大きい話になっちゃったね。お弁当の話だったのに」
「そうだな。でも日頃の感謝を言えたからいいんじゃないか」
いつもそんなこと思ってくれたんだ。嬉しいな。
「わたしもそう思う。これからたまに日頃の感謝言い合っていこうよ」
これだと意識させちゃうかな?でもそんなこと関係なく光希は言ってくれそうだな。たまに恥ずかしい事とかさらっと言うから。
「そうだな。あとそろそろ家出てもいい時間だし学校行こうか。」
時計を見るともう少しで8時だった。
「そうだね。」
準備が終わると玄関で光希が待っていた。
「お待たせ。行こっか」
うん、と頷いて、2人で手を握って、私は元気よく光希と一緒に「「行ってきます」」と、言って家を出た。
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