第11話 抱きしめて

「お先失礼します」

バイト先の店長に挨拶してバイトを終えると、夜の9時となっていた

明日からまた学校だし、今日は早く帰って寝たいな

未華がご飯作ってくれてるって言うからありがたいな。一人の時は作るのがしんどくて弁当を買って帰ってたりしたから、その分の食費が浮くのは嬉しいな


「ただいま」

「おかえり。ご飯とお風呂どっちにする?」

「先にご飯食べようかな」

「はーい」

「じゃあ私、先にお風呂入っちゃうね。食べ終わったら流しに置いといてくれれば洗うよ」

「洗わなくて大丈夫だよ。俺が洗うから」

未華はお礼を言って階段を昇って行った。なんかほんとに夫婦みたいだな。飯と風呂の用意ができてるなんて、今まで一人でやってきた事が誰かにやってもらうなんて、ちょっと申し訳ないけど嬉しい。家の事を未華に任せてるけど、無理はしてないのかちょっと心配になる。けど、未華自信が頑張ると言ってくれたんだから、信じない訳にはいかない。

「お風呂から上がったよ。ご飯美味しかった?」

「美味しかったよ。いつもありがとう。」

さっきで思っていた心からのお礼を未華に伝えた

「いつもって言うほどまだ作ってないよ。それに光希も手伝ってくれてるじゃん。私の方こそありがとう。」

お互い。感謝を伝える形になったのは予想外だが、未華からお礼を言われて嬉しかった。

俺は風呂に入り、先にベットの上でボーッとしてたら、いつの間にか眠っていた。


目が覚めて、当たりを見るとまだ少し暗かった。時計を確認するとちょうど5時針が動いた。

あのまま寝ちゃったのか。隣を見るとまだ未華がすぅすぅと寝息をたてている。久しぶりに見たな、未華寝顔なんて。ゆっくりと手を伸ばし未華の頭を撫でる。瞼が少し動き、起きてしまったかと思ったが、起きなかったので、そのまま撫で続けた。

いつも未華に朝食を作らせていたから、今日ぐらいは俺が作ろうかな。

そういえば、未華の好物ってなんだったっけ?なんでも美味しそうに食べるから気にしたこと無かったな。そろそろ誕生日も近いし知っておきたいな。

朝食を作ろうとは言ったがさすがに早すぎるな。

リビングのドアを開け、ふと、ソファに目をやると一瞬俺の母親が座っていたような気がした。何かに呼ばれるようにソファに歩み寄り座った。

母さんとの思い出が1番詰まった場所、それがこのソファだった。


幼稚園から帰るといつも母さんは、編み物をしていた。何を作ってたのか分からないけど帰ってくるといつもそのソファに座っていた。俺が駆けつけるのと途中の編み物をテーブルに置き、俺を抱きしめてくれた。その時に香るお日様の様な匂いが俺は好きだった。

そこでいつも俺に本を読んでくれた。話の内容は今じゃあんまり覚えてないけど、本を読む優しい声が俺は好きだった。

他にも、一緒に編み物をやったり、お絵描きをしたり、俺の好きなテレビ番組や母さんの好きな番組を一緒に見たり、映画を見た感想なんかを言ったり、母さんと過ごした日々は俺はずっと楽しかった。つまらないなんてことは1度もなかった。母さんはいつだって笑っていた。

俺が喧嘩した時は「そうやって、自分の意見を主張する事も大切だもんね。でも、相手も光希と同じような思いで、光希に言ってるんだからちゃんと聞いてあげなきゃダメよ。」いつも中立で、俺に色々なことを教えてくれた。相手への思いやり、感謝の言葉。母さんはいつも「情けは人の為ならず」、そう俺に教えてくれた。

そしてある日、家に母さんは居なく、おばあちゃんが、俺の家にいた。そして連れられるまま、大きい病院に行き、母さんとあった。ベットの上ではいつもと変わらない姿の母さんがいた。

「お母さんちょっと体の調子が悪いみたいだからしばらくここで治すことにしたの」

俺はその言葉の深さを知らずに今までどうり過ごした。

何度目かのお見舞いで母さんは俺に、笑顔で居続けてと言うようになった。言葉どうり誰に対しても笑顔を絶やさなかった。

ある日幼稚園児の俺でもわかるくらい、顔色が悪い日があった。

「光希、今から大切なことを言うから、今は意味がわからなくても、覚えといて欲しい」

「もし、お母さんがいなくなって悲しくても、私のために泣かないで欲しいの。笑っていて欲しいの。だってそれは終わりじゃないから。光希達からしたら私にはもう会えないから終わりなのかもしれない。でも死んだらまた何かが始まる、そんな気がする。だから新しい世界での人生の始まりを思って笑っていて欲しいの。そして、私だけじゃなく、光希の周りの人な死んでも、ありがとうって。優しくしてくれて、色々なことを教えてくれて、ありがとうって、感謝の言葉で見送ってあげて欲しいの。無理にとは言わない、だってそれはお母さんのエゴだから。でも、感謝の言葉だけは言ってあげて。これがお母さんから教えられる最後の事。ごめんね、あんまり一緒にいてあげられなくて、光希の成長を一緒に見てあげられなくて、私が弱いせいで、光希に苦労させちゃうかもしれない、ごめんね。」

母さんはそういうとゆっくりとベットのに横たわり、目を閉じ大きく深呼吸をして、目を覚ますことは無かった。

母さんと俺が話したのはそれが最後だった。おばあちゃんが部屋に入ってきた。母さんを見て扉の前で大きな涙を目から一雫だけ静かに流して、俺を抱きしめた。その頃の俺は訳が分からず、母さんの周りにたくさんの医者達が集まっていたのを覚えてる。


気づくと母さんとの思い出の一部始終を思い出しており涙を流していた。そして無性に誰かを抱きしめたくなった。

俺は部屋に戻り、未華の眠るベットに一緒に寝転がり、抱きしめるのは無理なので、未華の頭を自分の胸に寄せた。抵抗することなく未華は俺の腕に収まり俺は撫で続けた。

「大好きだよ。未華」

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