第9話 食べ歩き

鍵、財布、スマホ、ポケットティッシュにハンカチ、あとは水、もう1回財布の中身を確認して

「よし、俺は準備できたぞ」

「ちょ、ちょっと待って」

いそいそとバックの中に必要なものを入れていく

「私もできた!」

2人で家を出て、玄関の施錠を確認して映画館へ向かう

最初は休憩しながら歩いて向かう予定だったが、未華の母親が送ると言ってくれたのでお言葉に甘えて、送って貰うことにした

映画館に着くとちょうど「恋路の旅路」の上映開始時間だった

だが俺たちはそれを狙っていて、先にチケットを買っておき次の上映時間になるまで近くの商店街で食べ歩きをする作戦だ

「チケットも買ったし、何から食べよっか」

俺に向けた言葉だろうが、「何から食べよっか」に関しては半分自分に言ってるようなものだった

「とりあえず、食べたい店とその向かいにある店のものを買って食べ合うのはどうだ?」

「賛成!じゃあ、早速あの店に行こ。光希はあっちのたい焼きの宇治抹茶あんを買ってきて!」

わかった、と言う頃にはもう未華は走り出していた

こんな調子で始まり、あっち行こ、ここは帰りがいい、もう1回あれ食べたい、この組み合わせ良い、など商店街を満喫していると、すぐに映画の上映時間10分前となった

「そろそろ映画館に戻ろう」

「うん!」

踵を返して映画館のある方に歩き出すと、未華の足がもつれた。咄嗟に支えて転ぶことはなかったが、一瞬心臓が止まった

「大丈夫か?まだしばらく休んでいこう、時間に余裕を持たせたかっただけだから、今すぐに行かなくても間に合う」

「びっくりした、支えてくれてありがと、この歳になって膝に擦り傷なんて恥ずかしいもんね。あと、あんまり心配しなくて大丈夫だよ、ほんとにただ転びそうになっただけだから」

にかっと笑って、安心の言葉を言ってくれた

「未華が大丈夫でも、俺が心配なんだよ、ほんとにただ転びそうになっただけだな?」

「もう、心配しすぎ。映画が始まっちゃうよ」

そう言って、未華は俺の手を握った。これで心配はないでしょ、行こ、と歩き出す。俺は少し出遅れて歩き出した。

映画館に着いた頃に上映も終わったようで、人が出てきた。俺たちは人の流れに逆らうように、歩いていき、映画の上映席指定された番号の椅子に座った

楽しみだね。言葉と同時に館内の電気が消され

映画が始った


「いやー面白かったねえ」

「うん、意外に面白かった」

「最初は面白いか疑心暗鬼だったけど、見てみると案外ストーリーにのめり込んだな。」

「でしょ?、また映画見ようね」

うん、と返事を返してまた、商店街に足を運んだ

「あんまり、食欲ないな」

「うそ、私まだ全然食べられるんだけど」

「観る前に結構食べたのにもうお腹すいたのかよ」

「いいじゃん、美味しいんだもん」

2人で商店街で話しながらも未華はキョロキョロと食べ物を見て回った。食べたいものがあったのか、スーっと何も言わずに店の方へ誘われるように行った。

戻ってくると、2つ買ったらしい串焼きのひとつを俺に渡してきた

「それ食べたら、俺は食べないよ、お腹いっぱいだから」

貰った串焼きを頬張り、食べ終えると未華また別のものを買ってきていた

「ん」と言いながら俺に渡してくるが、俺は断ったが未華は食い下がってきた

「これだけでも、ね?美味しいから」

「わかったよ」

食べてみるとかなり美味しく、思わず口から「うまっ」と言った

未華はそれを聞いて、でしょーと言ってまたどこかえ買いに行った。

さっきから未華に貰ってばっかりだな

店前に立つ未華の横に行き、また2人分買うみたいで、財布を出そうとした未華の手を止め、俺が払った

「俺も食べるから、これからは、未華が食べたいヤツを一緒に食べよう」

途端にパァっと顔が明るくなり今日最高の笑顔でうん、頷いた。どうやら一緒に食べたかったらしかった

それからはこっちのこれはこの味が美味しい、ここのはこれ、色々と俺に教えてくれた。未華がここにこんなに詳しいなんて知らなかった。

中学の部活終わりにここでよく、買い食いしたんだと話してくれた

2人ともこれ以上入り切らない状態になるまで食べて、未華が母親に迎えの電話をしてくれた。

帰るまでの間、未華から俺の知らなかった中学の話をずっと聞いていた

友達に誘われて、バドミントン部に入り、その部の友達と商店街でどっちがより美味しいものを買ってこれるかの競走をしたり、友達の家で料理を振舞ったり、告白なんかもされたらしい。中学の関わりが少なかったから、学校での未華のことを聞けて嬉しかった。

うちの前に着き、未華の母親にお礼を言って、家に入った。

帰ったはいいがやることがないな。結構ハイペースで商店街のものを食べたのが原因かもな。ほとんど、食べ終わったら次、の繰り返しで味の感想以外ではあんまり話さなかったし。

「トランプやろうよ」

これから何するか考えてた俺は突然かけられた言葉に俺は「え?」と聞き返した

「トランプやらない?神経衰弱やりたい!」

「ああ、いいよ」

トランプか、思いつかなかったな。俺は一旦自分の部屋にトランプを取りに戻り、リビングに戻るとトランプを俺から取りどんどんテーブルの上に並べて行った。

並べ終えたトランプは少し不格好なハート型に並べられていた。

「賭け事しようよ。勝負で勝ったらその人のことを1日好きにできることにしない?」

イタズラな顔で俺を見ながらそう言ってきた

「ああ、いいよ、負けないからな」

「私が勝つもん」

初めて賭け事を申し込まれ、少しワクワクしながらゲームが始まった

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