残り物の記憶⑨
美余視点
車が自分に向かっている時、美余は走馬灯を見ていた。 周りの景色がゆっくりと動き、散り散りになったパズルのピースが繋がるように一つになっていく。
―――・・・え?
―――何が起こっているの?
足が動かない。 “もう私は死ぬんだ”ではなく過去の出来事を全て思い出したことに驚いていた。
―――今のは全て、私の記憶・・・?
―――それに車が迫ってくるこの光景はどこかで見たことがある・・・。
―――この経験は初めてじゃない。
―――私は・・・。
「ッ、美余ー!!」
―――明虎、さん・・・?
―――あれ?
―――でも声が違う。
―――明虎さんじゃ、ない・・・?
誰かの声が聞こえたと同時に美余は誰かに突き飛ばされた。 どこか聞いたことがあるようなないような懐かしさを憶える声。 強い衝撃も悪意や敵意を持ってのものではない。
地面を転がったのと同時に誰かが車に撥ねられる。 誰か。 いや、それが誰か見て何となく分かった。 同時に美余は真っ青になり、ようやく現状を理解した。
「ッ、キャー!!」
車も速度を落とそうとしたのか明虎(?)は弾き飛ばされたが生きていた。 ただ道路が血で染まりほとんど動きがない。 美余が震えているうちに助けられ明虎(?)は病院へと運ばれた。
その場にいた付添人として美余も付いていった。 数時間後、未だにランプが消えない手術中の文字を見て美余は両手を握り締めていた。
―――・・・全てを思い出した。
―――私は明虎さんと別れたんだ。
―――私と付き合ったのは遊びだ、って言われて。
―――でも私は明虎さんがたくさんの彼女持ちだと知っていても、本気で好きだった。
―――だから別れたくなくてずっと傍にいた。
―――たくさん迷惑をかけていたんだな、私・・・。
美余は手術室へと視線を動かした。 今頃明虎(?)は中でどうなっているのだろう。 無事を願うことしかできなかった。
―――・・・それに今なら明虎さんだと偽っていた彼のことも思い出せる。
―――『俺が美余の彼氏だよ』って、目覚めた時にそう言われた。
―――当時は記憶から明虎さんのことが消えていて、彼が本物の彼氏なのか偽物の彼氏なのかも分からなかった。
―――だから疑わなかった。
―――あんなに優しくしてくれたから、自然と本物の彼氏だと信じ込んでしまったんだ・・・。
そうなると疑問を感じた。
―――・・・でも、それは今思えば不自然だ。
―――どうして急に彼氏が変わったの?
―――偽物の明虎くんとは面識もない。
―――一体誰なの?
本物の明虎と何か繋がりがあるのだろうか。 寧ろ本物の明虎は今どこにいるのだろう。 今手術されている明虎(?)のことも心配だが本物の明虎の行方も気になった。
―――友達の様子を見ると、偽物の明虎くんを疑っていなかった。
―――だから誰も本当の真相を知らないんだ。
―――よく分からない。
―――本人に聞くしか、確かめる術はないんだ・・・。
考えていると手術が終わったようだった。 手術室から一人の医師が出てきたため駆け寄った。
「あの、容態は・・・」
「大丈夫ですよ。 命に別状はありません」
優しい表情でそう言われた。
「よ、よかった・・・!」
「今は眠っていますがじきに目覚めると思います。 このまま個室の病室へ運びますね」
「はい」
医師は病室の番号を教えると去っていった。
―――無事で安心した。
―――私を庇って死なれたら嫌だもんね。
―――目を覚ましたらお礼を言わないと。
―――・・・それに、聞きたいことが山ほどあるから。
ふとポケットに違和感を感じた。 手を突っ込み取ってみるとそれはロケットペンダントだった。 ペンダントを開き中を見てみる。
―――・・・そう。
―――この人が本物の明虎さんだ。
明虎(?)の病室へ移動しようとした。 するとその時目の前に一人の女性が現れた。
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