残り物の記憶③
休憩時間になり、次の講義がないことで少々暇になってしまった。
―――この後どうしよう?
―――明虎と何か約束をしていたりするのかな。
手帳には何の予定も書かれていない。 過去の自分に罵詈雑言を並べ、新しい予定を考えているうちに早速友達が集まってきた。
「美余! この後はどうする? 一緒にランチでも食べに行く?」
「うーん、どうしよう・・・」
「明虎くんと何か約束でもあるの?」
「それが思い出せないんだよね」
「あ、そっか。 ごめんね」
「ううん」
つい先程記憶が飛んだことを友達も思い出したようだ。 だが何をするべきかも忘れてしまっているため、もしかすると明虎に関係している可能性は高い。
―――ただ他の記憶が同時に失われている可能性もあるからなぁ。
財布の中を確認し、お昼を買うお金があることにホッとした。 元々どこかへ食べに行くつもりだったのだろう。
―――もしかして、明虎と食べる予定だったとか・・・。
―――それなら移動をするとすっぽかしてしまうかも。
―――明虎はまた来てくれるかな?
―――それなら彼氏を優先したい。
どちらにしろ昼食はとらないといけないためノート類を全て鞄に詰めた。 その時鞄の奥であるモノを発見する。
―――うん?
―――何だろうこれ・・・。
それは何故か隠すようにひっそりと置かれていたロケットペンダントだった。 だが見覚えはない。
―――私好みのデザインだ!
―――もしかしてこれって・・・。
ペンダントの裏を見る。 そこには二人の名前が刻まれてあった。
―――美余と明虎・・・。
―――こんな素敵なものを贈り合うような、温かい関係だったんだ。
―――どうして大切なもの程、忘れてしまうんだろう・・・。
―――友達の記憶なら消えてもいい、ということではないけど・・・。
だが恋人と友達を比べると恋人を優先したい気持ちはあった。 すると友達が美余の持っているロケットペンダントに気付く。
「あ、ロケットペンダントじゃん! それ、随分長いこと持っているよね」
「そうなの? それくらい私と明虎は付き合っているということ?」
「うん。 二人の関係は結構長いよ」
「どのくらい付き合っているの?」
「二年くらいかな? 付き合ってからすぐにもらったって、美余は喜んでいたよ」
「そうなんだ・・・」
二年も経っているというのにロケットペンダントには傷一つなかった。 自分は余程大切にそれを扱っていたのだろうなと思う。 だがそうなると疑問も生じてしまう。
―――どうしてそんな大切なものを、今まで身に付けていなかったんだろう?
―――汚したくなかったからかな・・・。
だとしてもバッグの中で隠すように放置されていたことが気になった。 明虎が来るのを一緒に待ってくれているのか、友達が何気なく質問をしてきた。
「あ、そう言えば美余。 どうして急に彼氏を紹介してくれるようになったの?」
「え?」
よく分からない問いかけに顔を上げる。
「付き合い始めた時は頑なに『彼氏は紹介できない』って言っていたのに」
「え、そうなの? そうだっけ・・・」
付き合い始めたばかりの記憶が美余に残っているはずがない。 思い出そうとしても思い出せないのはそういうことだ。
「そうそう。 突然彼氏を紹介してくれたんだもん。 何かあったのかと思った」
「ごめん。 記憶にない・・・」
だがそうなると何故自分は突然彼氏を紹介しようと思ったのだろうか。 その時のことも憶えていないため過去の自分がどういう心境に至ったのかまるで分からなかった。
―――明虎に何か問題でもあったのかな?
―――でも、さっきの感じからしてそうは思えないよね。
「憶えていないのも無理ないよね。 年上の彼氏だと思っていたから、同い年で驚いたよ」
―――・・・そう聞くと確かに不思議だ。
―――紹介できない理由があったならまだしも、どうして急に紹介をしたんだろう?
「あんなにいい彼氏なら、もっと早くに紹介してくれてもよかったのにー」
「はは。 私もそう思うよ。 もっと早くにみんなに伝えたかった」
「でしょー?」
友達と話しながら何気なくロケットペンダントを開く。
―――・・・ッ!?
だが中を見た瞬間驚いて慌てて閉じていた。 それを見ていた友達が言う。
「美余? どうかした?」
「いや・・・」
「ペンダントに何かあったの?」
「・・・」
ペンダントを握り締め首を振った。 乾いた笑いで誤魔化し改めて中を確認した。 やはり違う。 ロケットペンダントには美余と見知らぬ誰かが一緒に写っている。 どう見ても明虎ではなかったのだ。
―――え、何?
―――これは誰?
―――私と一緒に笑顔で写っていたのは明虎じゃない。
―――どういうこと?
―――ペンダントに刻まれている名前は確かに明虎なのに・・・。
ペンダントの裏に刻まれた名前を確認し、見間違いではないかもう一度確認した。 だが何度見ても中の写真が変わるはずもなく、静かに蓋を閉じた。 心臓がバクバクと鳴っている。
―――・・・明虎に、聞かなきゃ。
美余はそう決意をして走り出した。
「美余!? ちょっと、どこへ行くのさ!」
友達が心配するように声をかけてくるがお構いなしだ。
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