#4 カーライル

「なんですって?ウィレミナお嬢様がメイドを変えたい?一体ルアは何をしたの!」


 カーライルは驚きのあまり、声を大きくした。

 

 「とりあえず、詳しいことは聞かなかったがね、ルアはお嬢様に対して毎朝アクセサリーを勧めたらしい。アン、少しで良い落ち着こう」


 ドリーとカーライルとシンガーはかなり侯爵家の使用人の中で古株で、三人は互いに仲が良かった。カーライルとドリーは、仕事部屋の外や他の使用人を前にして、互いを名前で呼ばず名字で呼んでおり、シンガーはカーライルのことだけを下の名前で呼んでいた。


 アン・カーライルはもともとメイドとして侯爵家の使用人となった。あとで長期休暇とされたが、一度辞めたこともあった。アン・カーライルは働き者で責任感が相当強かった。彼女のそういったところが、ドリーは同僚として頼もしいと思っていた。


 「することは支度の手伝いだけで、勧めるのは仕事のうちにないわ。あの子はなんてことをしたの。屋敷に帰ってきてまだ一週間も経っておらず、生まれた場所とはいえ10年も離れていた場所に帰ってきたばかりのお嬢様に対して!」


 アン・カーライルは頭を抱えて、その場にあった椅子に座り込んだ。その椅子はドリーのお気に入りで、ドリーはその椅子を自分以外の誰かが座ることを嫌がったが、その時ドリーはカーライルに対して、立つようにとは言えなかった。

 

 「わたしの教育不足ね。どうしましょう。メイドを変えると言ったって、誰が適任なのかしら。歳が近いからという理由と、彼女が自分で立候補したから、適任と考えてルアにウィレミナお嬢様についてもらったけれど、他に誰がいるのかしら…

  セシルはダメだし、後はアイヴィーだけど、彼女は内気すぎるわ」


 カーライルの呟きに、ドリーは首を少し揺らして、反応した。


 「そうだ、アイヴィーのことだが、あの子はしっかりと仕事をしてくれると思うよ。アン、ウィレミナお嬢様のメイドは、アイヴィーに任せてみないか?」


 すると、カーライルは首を傾げてドリーを見上げた。


 「あなたがメイドのことで提案するなんて珍しいわ。どうしたの?」

   

 カーライルの問いに、ドリーは少し慌てた。別に慌てる必要もないが、彼は少し気恥ずかしく感じている。

 しかし、階下の使用人たちの上司として、しっかりと仕事に従事する人には、正当な評価を下さねばならない。


 「さっきアイヴィーがウィレミナお嬢様のシーツを変えると言って上に持って行ったんだ」


 「シーツ?取り替えはルアのやることでは?」


 「不思議だろう?ルアはウィレミナお嬢様にしっかりと仕えていない。アクセサリーの勧めはするがな」


 この時のふたりは仕事の話をしているが、良き友人の通しの会話のように見えた。


 「ちょっと待って、さっきルアはダイニングでお茶を飲んでいたわ」


 カーライルが言葉を放つ。

 そのカーライルの言葉に、ドリーは目を丸くした。

 そして両人は顔を見合わせて、同時に顔を険しくさせて、執事部屋を出た。


 この一瞬でカーライルはルアの元に、ドリーはアイヴィーの元に行くと、暗黙の了解が交わされた。


 同時に、ウィレミナ専属のメイドが決まったのだ。

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