『積みプラふたつめ:ノーリプライ!重性器エロガイムの巻!』

オレの名前は、『雲寺 積土 (くもでら つんど)』  


またの名を、『積みプラ狂四郎』と呼ばれている!


今日も棚からこぼれ落ちそうなほどの絶版プラモを、フタを開け説明書を見てニヤニヤしているのだ!


いつか作る! そう夢見ながら、数十年。気付けば48歳。素人童貞。


でも、オレの積みプラスピリッツはまだまだ燃えているのだ!



プラモシュミレーションのチャンピオンとなったオレは、今日も新たなチャレンジャー達と戦い続けていた。気が付けば、棚の積みプラがどんどん減っていった。そしてついに残りひとつになってしまった……


「うわぁーーッ! オレのキットがぁーーーッ! ガシャン!」


どすん。オレはベッドから転げ落ちて眠りから覚めた。いやな夢だったぜ……いや、本当に夢だったのか? そう思い部屋の棚に目を向けると、そこにはこぼれ落ちそうなくらいの絶版キットの山が所狭しと積まれていた。


「よかった……夢だったか……積みプラは無事だ」


オレは冷汗をぬぐうと、1週間ほど着続けているチェックのシャツに袖を通し、一階の台所にいる母親に見つからないように玄関へと向かう。ギシッ……ところがささいなきしみ音に気付いた母親が鬼のような形相でオレを睨んできた。


「またアンタは昼まで寝ていたかと思うとどこに行くつもりよ!? たまには家のお手伝いでもしなさい!」


「いや、今日は新しいプラモの発売日なんだよ、カーチャン。あ、いっけね、もうこんな時間だ!」


オレはスニーカーのカカトを踏んだまま急いであわてて飛び出すように家を出た。


「もう! まったく、誰に似たのかしらね……フフ……」


「ふぅ。あぶないあぶない。今日はHGエロガイムのバージョンアップキットの発売日なんだ。売り切れる前に急ごう!」


オレは走って近くの量販店であるダマヤ電機へと急いだ。

空は晴天。雲ひとつない青空。風をきる音が心地よい。

駅前の商店街に目をやると、昼飯時であわただしく移動するスーツ姿のサラリーマンが大勢いた。


「あいつら……やってんだな……仕事……それなのにオレは……」


オレの足が一瞬とまってしまったのは、ちゃんと働いている人に対するジレンマなのかもしれない。


「おっと、いっけね! 急がなきゃ! うおおおぉッ! ウキャアァ!」


オレは目をつぶって頭を振り乱しながら大声で奇声をあげて逃げるようにそこを去った。


「あれ、つんどくんじゃないカナ……あんなに一生懸命走って、フフ……つんどくんらしいわね」


そこに、幼馴染のみろりちゃんが目撃していたとは、夢にも思わなかっただろう。


「マスター! アレ入っている?」


「おそいよ! もうエロガイムは全部売り切れだよ」


「えぇ、そんな!? じゃあ再販版のA級セットは?」


「とっくに完売さ。残っているのはゴーイングメリー号だけだな」


「なんじゃそりゃ? クソアソートじゃんかよ! バンザイめ!」


「よう、つんど。俺の自慰アーマーを2割増しで売ってやってもいいんだぜ?」


そこに自転車に乗って現れたのは、積んどくモデラー仲間の、ハゲ山健だった。


「いらねぇさ! そんなザーメン臭いキットなんてよ!」


「いわせておけばこのやろう! 勝負だ!」


「まてまてふたりとも。ここは積んどくモデラーらしく正々堂々と勝負するんだ」


ダマヤ電機のマスターがふたりの間に割り込んだ。


「ちっ! マスターに勝負方法をまかせたぜ」


「うむ。それでは絶版キットの古さと状態のキレイさで勝負するんだ。シミやカビの生えている物はもちろん、ビニール袋開封品も減点だからな」


積んどくモデラーの勝負方法はとても厳しい。

ただでさえ古くて見つかりにくいキットなのに、JANコード無しの初版の物が当然ポイントが高い。また、『セメンダイン』と書かれた接着剤が入っているのも高得点なのだ。さらに、初版中の初版にだけあるボックスアートのミス等の物があれば得点は跳ね上がる。詳しく説明すると、メカの色指定が間違っていたり、パイロットの名前が間違っている等だ。これはエラーボックスアートと呼ばれレア度が高い。


「それで、キットのお題は?」


「フフ……ずばり、1/24 酸っぱいラル風呂ーだ」


「げええッ!? す……酸っぱいラル風呂ーだってぇッ!?」


ここで、酸っぱいラル風呂ーのキット説明をしておこう。

バンザイがエロガイム人気に便乗して発売した主人公機の搭乗用風呂メカだ。主人公のガバ・マイルーラとヒロインでもあり13チン臭のガウ・ハ・レンチのフィギュアが付いているお得なキットで、裸にして風呂に入れる改造が流行ったが、当時は全く売れずにそこらへんにどこでも転がっていた。しかし、現代になってエロガイムの再販人気にあやかって人気上昇しているキットだ。(参考価格・当時500円 現在2500円ほど)


「うぅ……やばい、このキット持ってないぜ……」


「どうした、青ざめた顔しやがって? 勝負は一週間後、場所はラッキー竹田の家だ!」


補足しておこう。ラッキー竹田とはアメリカから帰ってきた積んどくモデラーのひとりで、お金持ちに生まれたのをいいことに絶版キットを買い漁っているボンボンなのだ。たまに状態の悪い絶版キットがもらえたりするので彼には誰も頭があがらないのだ。しかし、 積みプラ狂四郎は心の底では憎んでおり、いつか復讐してやろうと心に誓っていた。彼は恐い性格なのだ。


それから6日が過ぎた。

積みプラ狂四郎は近くのリサイクルショップやネットショップを覗いていたが、どこにもキットはない。当然だ。エロガイム人気が急上昇して再販頻度の低いキットは狩り尽くされていた。さらに、人気キャラのガウ・ハ・レンチのフィギュア欲しさに輪をかけてプレ値が上昇していた。


「くっ! ……あんな物に9千円だと? 正気の沙汰じゃねぇ……」


積みプラ狂四郎は以前、このキットを所有していたが、その時は『性戦士チンボイン』のキットをコレクションするのに夢中で、それなりの値段で手放してしまったのだ。欲しいキットの為に不要のキットを売却する。それは、積んどくモデラーではよくある事だった。


「タイムマシンを使えば入手するのは簡単だ。だけど、エロガイム人気でマイナーキットが再販する可能性が出てきた……タイムマシンの使用回数には限度があるんだ……まだ使いたくない」


彼は、以前マラグナーでタイムマシンを使ってしまった事を後悔していた。

この先の人生でマラグナーが再販される可能性は高い。メタボロボット魂版が発売予定なのを考えれば当然の事である。転ばぬ先の杖。石橋を叩いても渡らない……無職ニートのくせに、意外としっかりしていた。


そして勝負当日。ラッキー竹田邸にて二人は集う。ダマヤ電機のマスターは食あたりで欠席だった。


積みプラ狂四郎は震える手で風呂敷を開けようとした。結局キットは見つからなかったので、ハゲ山健に許してもらおうと思い、彼の好きなキャラであるガウ・ハ・レンチの当時のアニメ雑誌の切抜きを渡して勝負を水に流そうとする作戦であった。とんでもなく卑怯な性格だった。


「まて、まずは俺からだ!」


ハゲ山健がキットの箱を開けるとそこには……!

なんと! キレイに塗装されて完成されたキットが入っていた。しかも、本来ならば、ガウ・ハ・レンチのフィギュアが付属している筈なのだが、チンネリア・アムに改造されていた。


魔改造……マ・カ・イ・ゾ・ウ!


「ハゲ山健ーーッ! これは一体どうゆうことなんだ!?」


ハゲ山健はニヤリと笑う。そして薄い頭髪から頭皮が覗きピカリと反射する。


「へへっ……久しぶりにエロガイムのビデオ見返したらさ、俺、ガウ・ハ・レンチのファンだったのに、この歳になって恥ずかしいんだけどチンネリア・アムの貧乳に目覚めちまってさ……それでこれってワケよ。勝負は俺の負けだ……じゃな……」


ハゲ山健の作成したチンネリア・アムは風呂場で上半身裸になっており、貧乳が垣間見れた。


「おまえってヤツは……おまえの絶版プラモスピリット、そして貧乳フェチ、しかと心に刻んだぜ!」


積みプラ狂四郎は辛くも勝利を手にした。しかし、その勝利は何とも後味の悪いものだった。


その夜、ハゲ山健はラッキー竹田とともにアメリカに旅立った。

さらなる好敵手として成長する事を祈って、そして、さらなる友人として戻ってくる事を願って。


さらに追記。

ハゲ山健とラッキー竹田はラスベガスのスロットですってんてんになってヒドイ目にあいましたとさ。


つづく。

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積みプラ狂四郎 しょもぺ @yamadagairu

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