第53話 黒い豆腐
「おなかすいたかも……」
「もうこんな時間か、屋台でいいか?」
「やたいめし!」
カムカムですよ!
せっかく王都に来てるんだし、レストランなんかも行ってみたいけど、買い食いの楽しさもそれはそれで格別だよね。
「おいしそうなもの、いっぱいあるもんね! せっかくえんろはるばるきたんだから、めいぶつをたべなきゃ!」
テンションが上がって力んでいたら、通りすがりのお姉さんに「かわいー」なんてぷーくすされた。
うう、はしゃいでしまった。
恥ずかしい……。
「名物、名物かぁ……ま、今朝は朝からウロウロ歩き回ったし、座れた方がいいだろ? 席取っといて」
「あ、うん」
屋台がいっぱい立ち並んでるとこのテラス席に陣取って、ロイとアレンの帰りを待つ。
なんだか、ここはフードコートみたい。
ちょっと周囲に距離を取られているのは、ロイの風体が異様なせいだと思う……。
瓶底眼鏡に口元まで覆うストールに深くかぶったフードだもんね。
アレンとロイの薄めたワイン、私の果実水と、果物をいくつか席の間を回っている売り子さんから買って待つ。
「……ナスだぁ」
「なす?」
何種類か買った果物のうち、ロイの庭では育ててなくて初めて見るものがあったんだけど、それがランカベリだった。
このランカベリ、ナスにとても良く似ている。表皮は白いから白ナス。
齧ってみると、果肉は中まで赤いんだけど、やっぱり形状はナスに似ていて不思議な気持ちになる。
これがあの甘酸っぱくて美味しいジャムになるのか……。
生で食べても甘酸っぱいんだけどね。見た目で脳が混乱するのよ。
ちなみに汁は服につくとなかなか取れないから気を付けるように言われた。
異世界、奥が深い。
「ほいよ、お待たせ」
アレンが買い込んできてくれたのは、何か黒い豆腐みたいなのが入ったスープに、焼いた腸詰、鶏肉っぽいのと野菜のスパイス炒め、何かを薄く焼いた卵で包んだ奴、謎の楕円形をした揚げ物、それにパンだ。
「ふぉおおおおおお!」
「他にも欲しいものがあったら言え。チーロは俺の皿からいいだけ摘まむといい」
「ありがと!」
色々食べてみたいけど、身体が小さいせいか胃も小さいからね。
アレンの申し出は願ってもない。
さりげなくすっと押し出されたのがスープだから、多分これがおすすめなんだろう。
私は素直に手を付けた。
「んんん? なんだろう、これ」
食べたらわかるかな、と思ったけど、食べてもやっぱりわからない。
黒い奴は豆腐っていうか、もっちりしてるからゴマ豆腐? 舌触りは繊維感はなくて、コクがあるけど、味らしい味はない。
「モニトゥは初めてか。今日は運よくモニトゥが出てたからな」
「これ、もにとぅっていうの? このすーぷがもにとぅ? それともこのくろいのがもにとぅ?」
「黒いのがモニトゥだ。これは汁の具になっているが、酒飲みはタレをかけてそのままつまみにしたりもするな」
「へぇー、ますますとうふみたい」
「とうふ?」
「うん、とうにゅう……まめのしぼりじるをかためたやつ。そのまましょーゆかけてたべたり、しるにいれたり、あ、あとあぶらであげたり……?」
「豆の絞り汁を固めるのか。それは確かにモニトゥに似ているかもな」
「あ、これなにかをかためたものなんだ」
なるほど。それなら繊維感がないのも頷ける。
野菜でもお肉でもないんだもんね。
「血だ。ボアの血を固めてつくる」
「え、ち? ちってけつえきのち?」
思わずびっくりして聞き返す。
「血は新鮮じゃないと食えないからな。市場でだっていつでも食えるわけじゃない。体にいいらしいから、チビはしっかり食え。ロイもだぞ」
「へぇー、ちかぁ……」
材料からイメージする生臭さみたいなものは特にない。
言われてみれば確かに鉄っぽい味な気もするけど、スープに使われている
鉄分豊富そうだし、ロイに食べさせたい気持ちはとてもよくわかる。
アレンが買ってきてくれたものはどれもこれも美味しかった。
ほんと、この世界に料理チートは求められてないな。
……いや、私の乏しい知識でチートなんてできそうもないけどね。
調味料もあるし、揚げ物も存在してるし、それこそ、ホイップクリームで打ち止めですよ。
「で、この後はどうする?」
アレンが聞いてきた。
私とロイは顔を見合わせる。
「買い物は終わった?」
「うん。だいたいほしいものはかえた!」
仕上げにたっぷりと卵も買ったし、ほっくほくだ。
これで私の数少ないレパートリーを何とか生かせそうだ。
粉類にお米も買ったから、黒っぽいパン以外の主食も楽しめる。
へっへっへ、ここは異世界食テロ定番の、おにぎりの出番ですかね……。
「他に欲しいものはないのか? 本当に?」
「なんでびっくりしてるの?」
ええー、粉類にミルクに卵、ついでにお肉も買ったし、野菜は庭で育ってるし、この世界独自の謎調味料もいくつか買った。
他にいるものなんてあったっけ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます