第51話  魅惑のホイップクリーム

 ハムショ・ナジェを食べ終えた私たちは、ハムショ売りのおじさんのところに戻り、30枚ほどハムショを仕入れた。

 小麦粉を買ったら自分でも作ってみようかとは思うけど、やっぱりプロが作った物にはかなわないだろうし、まずはお手本だ!

 ついでに近くで売ってたナジェ蜜とランカベリっていう果物とフツシュカって果物とアパムとサクトのジャムも買う。

 ランカベリはイチゴみたいな感じで、フツシュカのジャムはマーマレードっぽかった。

 今度ハムショを自分で作ったら、ハムショ・ナジェにしてみよう。

 それに果物に掛けたり、他にも色々使えそうだ。


「そんなもんで足りるか?」

「あれんはどんだけたべるきなの……?」


 チャパティと比べたら小さめだから、5~6枚で一人前くらいかな、って思ってるんだけど、ロイも私もそんなに食べないから、その分をアレンが食べるとして、これでだいたい2食分くらいのつもりでいた。


「ひとり10枚で足りるか……?」

「そんなにたべないよ! それにわたしたちがいっぱいかっちゃったら、これからしいれにくるひとたちがこまるでしょー!」

「……こちらが買う側なのに、他の人間のことまで考えるのか?」

「あたりまえ! きのうのまぐなっとすーなのおみせだって、ここからしいれてるかもしれないでしょ! そしたらあのおみせ、きょうはえいぎょうできないんだよ!」


 これだから金持ちは!

 片っ端から買い占めるとか憧れなくもないけど、普通に考えたら必要な人に行き届かないって迷惑以外の何物でもないじゃない。


「ふむ、そりゃ俺が悪いな」

「わかればよろしい」

「チーロは賢いなー」


 アレンががっしがっし頭を撫でるせいで、私を抱っこしているロイが少しよろめく。


「力加減をしろ、アレン。それじゃチーロも痛い」

「そだよ!」

「わははは、悪い悪い!」


 少し寄り道をしてしまったけど、何はともあれまずはミルクだ。

 朝一番で買いに行かないとって、おかみさんが言ってたもんね。


「くりーむくださいな」


 勢い込んで言うと、店番の男の子が心配そうに言った。


「おう、チビ。美味いからって飲みすぎると気持ち悪くなるから、飲むならクリームじゃないとこにしときな?」


 ……小学生くらいかな。

 今は私自身が小さいし、前世でも子供と縁がなかったからよくわからないけど、いつぞやのお店のモスちゃんぐらいの男の子が店番をしていた。

 初対面の幼女を心配してくれるなんて、いい子だなー。


「のむんじゃないから、とろっとしたとこがひつようなの」

「飲むんじゃない……? 飲まないってことは、自分ちでわざわざチーズやバターを作るのかい? うちで作ってるのじゃダメなのか?」

「わ、ちーずとばたーあるの!? それはそれでかう! とりあえず、くりーむじゃないところをいっぱいください」


 まずは味見に、クリームじゃないところを貸出コップに一杯入れてもらって飲んでみた。


「おいしーい」


 冷えているわけじゃないけど、ほんのり甘くて濃厚なミルクだ。

 うんうん、これだけ濃厚ならクリームも美味しいんだろうな。


「やっぱりくりーむのとこもいっぱいください!」

「二杯も飲む気かよ。ちびなんだから腹壊すぞ。やめとけって」

「悪いな、いいから売ってくれないか?」

「なるべくとろっとしたところね」


 アレンに言われて男の子はしぶしぶミルクを入れた缶の上の方を掬って渡してくれた。

 ひしゃくみたいなので掬ったところをマジックバッグから出したボウルに受け取って、アレンが泡だて器を身構えている。


「んで、こいつを泡立てるのか?」

「泡立てる……? やっぱりバターを作るんだろ……? そんな器で……?」


 アレンの言葉を聞いた男の子が首を傾げた。


「なまくりーむはね、むずかしいんだよ。あわだてすぎるともろもろになっちゃうから」

「ほうほう、泡立てすぎないようにその手前でやめろってことか」

「とりあえず、おさとうのかわりにじゃむをいれよう」


 生クリームにランカベリのジャムを入れて泡立ててもらう。

 確か、ジャムを入れると早く泡立つってテレビでやってた。


「……お、卵に比べたらあっという間だな」

「なんだ、それ。ミルクが固まった……?」


 ジャムを入れた生クリームはほんのりピンク色になって可愛い。


「それでは、あじみします」


 もったいぶって少し指で掬って舐めると、ものすごーく上品な味がした。

 ……つまり、とってもとっても控えめな甘さだった。

 このジャム、ひょっとしてお砂糖使ってないな?

 そういえば保存用じゃないから、ふたを開けたらすぐ食べきって、って言ってたな。


「どうだ?」


 ワクワクした顔をしているアレンを手で制し、私はハムショを取り出して、そこにたっぷり残りのランカベリジャムを塗って、それから生クリームを乗せて、さらにジャムを上にも飾り、くるんと花束みたいな円錐形になるように丸めた。


「さぁ、どうぞ。たべてみて」


 ミルク売りの男の子もね!

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