第46話 山猫亭のにゃんにゃ
とりあえず調理器具を作っていたら遅くなってしまったから、王都で宿を取ろうということになった。
そんで、明日の朝は朝市でいろいろ買い込むんだ!
「おとまりか。あさいちもたのしみ」
「そっか。それならかえって良かったかもな」
こっちの世界に来てそれほど時間が経っているわけじゃないけど、普段と違うところに泊まるんだって思ったらちょっとワクワクする。
前世ではおひとり様を極めてたから、一人旅とかホテルステイとか好きな方だったな。
非日常感がいいんだよね。
魔法があるこの世界じゃ毎日が非日常みたいなものだけど。
「ここ、評判いいらしいぜ」
アレンの案内でやってきたのは、山猫亭というこじんまりした宿屋さんだ。
一階が食堂になってるのがいかにもって感じでいい。
「こーんにーちわぁー」
「はーい、いらっしゃい」
「わ、にゃんにゃ!」
「にゃんにゃ……?」
そこ! アレン、不審な顔で突っ込まないで!
私もやっちまったな、と思ったとこだから!
お泊りのワクワク感プラス、受付にいたのが猫獣人らしきお姉さんでテンションが上がって口が滑ったの!
別にウケ狙いとかで幼児語が出たわけじゃなくて、あるでしょ……道端で思いがけず猫に遭遇したらつい話しかけちゃうみたいなさー……。
にゃんにゃはさすがに自分でもイタかったとは思うけど、口から出ちゃったものはしょうがないじゃない。
街中にも獣人はいたけど、目の前にいらっしゃったらまた別な話なわけで……しかも、このお姉さんが猫耳が生えてるだけとかじゃなく薄めのキャッツみたいな絶妙な獣人具合だったんだよ……。
4歳児ならワンチャンいける……?
いや、さすがに4歳にもなってワンワンニャンニャンはありえない……?
子供持ったことないから適切な発達度合いがわかんないよ。
友達の子供とか、いくつくらいまでワンワンとか言ってたっけ……保育園とか幼稚園とか行くぐらいの子って意外にしっかりしてるし、めちゃくちゃ喋るからビビった記憶もあるよーな……。
「はぁい、山猫獣人のミーニャさんだにゃ? お客さんはお泊りかにゃー?」
思いがけず飛び出した幼児語に恥ずかしくなっていると、お姉さんの方から声を掛けてくれた。
このお姉さん、歌のお姉さん的なプロ意識を感じる……多分普段の語尾は『にゃ』とか言わないところを、突然現れた幼女(私)に合わせてくれたぞ!?
ミーニャ、は本名かな?
髪の毛はふわふわした明るいオレンジ色で、猫部分はキジトラっぽい毛並みをしている。吊り気味で明るいグリーンの目は大きくて、かなりの美猫さんだし、美人さんだ。
獣人の年齢とかわかんないけど、うちの22歳児達よりはお姉さんかな、という雰囲気をしている。
「あぁ、部屋は空いているか?」
「ええーと……ご夫婦?」
ミーニャさんは私たちの風体を確認して首を傾げた。
「あ?」
アレンは一瞬言葉を失ってから、呆れた様子で言った。
「どこをどう見たらそうなる。どう見たってこいつはガキだろうが。こんなガキと夫婦だと言い張るような輩は衛兵に突き出せ」
「あ、いえ……」
「ちがうとおもうよ」
「は?」
何を言われているのかわからない、と言いたげにアレンは腕の中の私を見て、ミーニャさんを見て、それから私をもう一度見た。
「冗談にしたってタチが……」
「じゃなくて、あっちあっち」
ちょんちょん、ともう一人の同行者を指さす。
ロイはやり取りに口を挟むことなく佇んでいた。
「はぁー?」
アレンが上げた大きな声に、私もミーニャさんも、ついでにロイもびくっとした。
「あのかっこうじゃ、せいべつどころかしゅぞくもあやしいもの」
こくこくとミーニャさんが頷く。
さすがに私とアレンを夫婦だと思うわけがない。
分厚い眼鏡に口どころか鼻先まで覆うストール、とどめに頭からフードを被っているんだから、本当に不審者として通報されないだけでもありがたいくらいだ。
ついでにいうと道行く人を見た限り、横にも縦にももっとズドーンとでっかい人もいたりして、ロイぐらいの体格で女性っていうのも充分ありうる話なんだよね。
「あ、あぁ……そっか……」
っていうか、明らかに怪しい格好の人と連れ立って歩いてるあたりで、身内認定されたんじゃないだろうか。
「夫婦ではないのね?」
「うん、あれんとろいはおともだちだよ?」
そこで変な勘繰りをされるのもめんどくさそうなので、にっこりとスマイルの売り出しバーゲンセールをしておく。
私も! 一応スマイルのプロでしたから!
「ちーろもあれんとおともだち。ねー?」
「お、おう……?」
色々突っ込まれても面倒だから、お父さんのお友達に抱っこしてもらってるんですよ、っていうのをアピールしておく。
いちいち説明するの、めんどくさいんですよ!
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