第45話 料理なんて朝飯前

「んーとね、おろしがねっていうのはね……きんぞくでもとうきでもいいんだけど、かたいとげとげをいっぱいつくってすりおろせるようにする」

「陶器……? 割れちまうんじゃないか?」

「あ、とげとげがかたければどうぶつのかわとかつかってもいいよ」


 前世でもお高級なわさびおろしなんかはサメ皮が使われていたはず。

 こっちの世界なら、そういう魔獣いそう。


「固いとげとげ……? こんな感じか?」


 アレンが不思議そうな顔をしながら作ったのは前世でメイスとか呼ばれてた武器に近い。

 なんっでだよ!


「凶悪そうな武器だね」

「こいつでぶん殴られたら、傷が治りにくそうだ」

「ちがーう! もっとちいさくてへいめんにもっとこまかいとげとげをいっぱい」


 このくらい、と手で示すと、棘の生えたブロックみたいなのを作られた。

 これでもすりおろせないことはないだろうけど、使いづらそう。


「もつとこがないよ。もつとこをつけて、つかうときはこういうふうにつかいたい。それととげはもっとこまかく、かるくさわるだけならざらっとしてるぐらい」


 おろし金を使うジェスチャーをして見せると、アレンが首をひねりながら形を整えてくれた。


「そうそう、そんなかんじ」

「新手の武器っつーか、拷問器具か?」

「ひでぇことを考えやがる」


 アレンとお爺さんがぶるっと震えた。


「ちがうよ! おりょうりにつかうっていったでしょ! うーん、てにもつタイプじゃないほうがべんりかな……えっと、うつわにふたをつけて、こう、あなをあけてね……」


 試行錯誤の末、おろし金とおろし器とマッシャー、ついでにすり鉢と泡立て器ができた。

 私が欲しかったのは魔力なしでも使えるように、完全手動の器具なんだけど、ついでだから前世であったみたいな家電タイプの物も作ってもらった。

 そっちはミキサー、フードプロセッサー、ハンドブレンダー、電動泡だて器みたいな感じだ。

 電気の代わりに魔力を使うんだけど、それでも一から全部魔力でやるよりも、ずーっと小さな魔力でおろしたり、混ぜたりができるらしい。


「継続動作させるには、平竈と同じ術式を組み込めばいいのか……」

「そこにつけると力の伝わり方に無理が出ないか?」

「おぉおおおおお……これは革命的かもしれん。平竈以来の大発明だぞ」


 アレンはもう目をキラキラさせながら出来たものをあちこちいじくっているし、ロイも熱心にアレンの手元を覗き込んでるし、お爺さんは感動した様子で、台所から持ってきたカローテを切り刻んだり、すりおろしたりしている。

 ……そんなにカローテにんじんばっかり細かくしてどうするんだろう。

 確かにおろし金なんかを試してみるのにちょうどいいお野菜かもしれないけども。


「……あれ?」


 お店の中に照明が灯った。

 気が付けば外はもう暗くなっている。


「あれん、もうおそとくらいよ?」


 一応、予定としては服とか食料の買い足しとかするはずだったんだけど、この時間でもお店ってやってるのかな?


「やべ!」


 あからさまに『しまった!』って顔をして、アレンが顔を上げた。


「うわ、もうこんな時間か。何も買い物終わってないじゃないか!」

「かいぐいと、ひらかまどはかったね」

「それしか買えてないだろ……」

「あと、ちょうりきぐもかおう! これぜんぶほしい!」


 作った調理器具の中で手動の物を抱えると、お爺さんが魔動の方も押しやってきた。


「こっちも全部持っていきな」

「え……?」


 今作ったものだから値札は付いてないけど、コンロの値段なんかから察するに、安くはないと思うんだよ。

 さっき買った二口コンロが金貨3枚だった。

 ここに来る前に見たお店でちょろっと聞いた値段がその2~3倍。

 銅貨100枚で銀貨、銀貨10枚で金貨ってことだから、屋台とかごはん屋さんの値段から考えて、銅貨一枚百円ぐらいだとすると、二口コンロの値段は30万円だ。

 二口コンロは安価な方らしいから、これらの新製品なんて前世の家電なんか目じゃないくらい高いはず。

 多分、食べ物なんかはかなり安くて、家電みたいなものは高いみたいだから、必ずしも前世と同じような貨幣価値ではないだろうけど。

 そんなわけで、いくら王子様やお貴族様だって、これらの調理器具は早々買えるものじゃないはず。


「おう爺さん、いくらだ」

「とれねえよ、お貴族様。あんたが作ったもんだ。持っていきな」


 作ったのは基本的にアレンだけど、材料はあれこれお爺さんのお店から出ているんだけど……。


「その代わりと言っちゃなんだが、あんたが作ったもん、うちでも作っていいかい。お貴族様より、庶民こそ欲しがるもんだろうよ」

「ちゃっかりしているな。チーロ、それで構わないか?」

「え? え?」


 意味も分からないまま、こくんと頷くと、お爺さんはガッツポーズを取った。


「お嬢ちゃん、儂の名はガヴァスだ。子供扱いして悪かったな。こんなものを考え付くぐらいだ。料理なんざ朝飯前だろう。お前さんは天才だ!」


 そう言って、ガヴァスさんは機嫌良さそうに私の頭をガシガシ撫でた。

 もう!

 好きなものが似てると性格まで似るの?

 アレンみたいなことをするんだから!

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