第44話 異世界産調理器具
購入した二口コンロは、アレンが触れたら消えた。
「え、すっご! なにそれ! きえた! いまのなに?」
思わず興奮してアレンの手の掴み、裏返したり撫でたりする。
あんなに大きなものを消してしまうなんて、どんな手品なんだろう。
「ぷふ……なんだよ。マジックバッグを初めて見たみたいだな」
「はじめてみた!」
町で買い物をした時は普通の麻袋みたいなのに入れてもらってた。
便利そうなのに、何でロイはマジックバッグを使ってないんだろう。
アレンは驚いたみたいにロイを見て、それから「あー」と納得したみたいな声を上げた。
「そういや、食いモノ買う時はマジックバッグは絶対に使うな、って言い聞かせておいたっけ」
「なんで? たべものいれたらだめになるの?」
食べ物を入れたら毒になるとか、そういう副作用(?)があるのかな。
「買っただけで放置しやがるから」
端的な回答に、私は納得せざるを得なかった。
なるほど、ロイに限っての注意ならそれはきっとすごく正しい。
「ろいってそういうとこある」
「だろ?」
「仕方がないじゃないか。見えるところにないと忘れてしまうんだから」
ロイが真面目な声であほを言っている。
22歳児、若年性健忘症でも患っているんだろうか。
「せっかく美味いものを持って行ってやったのに、次の美味いものを運んで行ったら前回のが丸々残ってて、こいつが萎びかけているむなしさがわかるか? なんで! 食い物がそこにあるのに、飢え死にしそうになってんだよ!」
「あ、それはろいがわるい」
「……ひどいな」
「だろー!」
お爺さんも顔を顰めてロイのことを見ている。
「そういうわけで多少不便だろうが、食料を買うときはマジックバッグを使うのを禁止してるんだ」
「なるほど……けど、まじっくばっぐあったらかいおきはかどるね」
「そうか、チーロがいるならマジックバッグを使っても平気そうだな」
「まーかせて!」
一人暮らし独女に買い置き、作り置きスキルは必須だからね。
そんな便利なものがあるなら有効活用させていただきますよ。
「で、そんな家にまともな調理器具はあるのかい」
お爺さんが疑わしげに、アレンとロイをじろじろ見た。
「ただでさえこんな小さい子を下働きにしようというんだ。お貴族様なら、さぞかし口が奢っているんだろう? 料理ひとつするにも平民にゃコンロとナイフだけじゃろくなものは作れやしないよ。まぁ、貴族様にはわからん話だろうがね」
「あー……」
アレンがシステムキッチンを作ってくれたのから察するに、王侯貴族の方が魔力が高い傾向にあるのかもしれない。
それでもって、ロイの普段の言動とか、昨日聞いたムシュトの作り方からすると、魔力がある人はたいていのことを魔力任せでどうにかしちゃう、みたいな。
「ちょうりきぐ、みたい!」
「よしきた」
お爺さんが揃えてくれたのは、大きなスプーンと、しゃもじみたいなのと、大型の黒板消しみたいなのと、ボウルがいくつか。
あぁ、ボウルね。
ボウル、めっちゃ必要。
今までは食器で誤魔化してたけど、本格的に料理をするつもりなら、ボウルもいくつか欲しい。
けど、これなんだ?
「これなに?」
どうやらふたつ一組らしい黒板消しに似たものをつついてみる。
黒板消しに似てるって言っても形だけで、素材としては堅くて布は付いていない。
「平民がロッタを潰してムシュトを作るときに使う。こいつであらかた潰して、あとは鍋に入れてへらでこねる」
なるほど、潰す道具!
はぁ~びっくり力業。
お爺さんの説明には思わず目を見開いてしまった。
シンプルというか、素朴というか、原始的というか……持ち手がつけられているだけ、ささやかに文明的なのかもしれない。
「平民には潰したり混ぜたりするほどの魔力がないからな。それに、鍋とは別に器があると魔力で支えなくてもいいから混ぜるのに便利だ」
逆に言うと、魔力のある人は器も必要ないってことか。
「おろしがねとか、まっしゃーとかはないの?」
「なんだ、それは?」
お爺さんが興味深そうに聞いてきた。
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