第43話 鮮血の儀式
買い食いの後、アレンが連れてきてくれたのは家電売り場みたいなところだ。
しかも展示販売してる系の奴。
売り物自体が少ないから売り場を広く取らなきゃいけないのか、それとも顧客が限られているから高級路線なのか。
「いらっしゃいませ。この度はどのようなご用向きで……」
「あぁ、いい。勝手に見る」
話しかけてきた店員さんに素っ気なく返して、アレンは売り場を流し見していく。
近寄ろうとするとすっと離れるので、店員さんは話しかけあぐねて変な緊張感を滲ませている。
別に身構えてはいないけど、カバディが始まりそうだ。
「うーん」
この売り場に置かれてるものって実用品なのかしら?
あきらかに高級品でございます、っていう魔法IHっぽい奴はキラキラしい装飾が施されていたりするけど、その装飾邪魔じゃないのかなぁ……。
「お嬢様、興味がおありですか」
「なんだ、催したか」
「なんてことをいうんだー!」
ぐにぃ、とほっぺたを摘まむけど、アレンはニヤニヤしている。
私をダシにして営業トークをしようとした店員さんは、すごすごと引き下がった。
人前でレディに向かって言うことじゃないでしょ、まったくもう。
「邪魔をしたな」
ざっと見て望みの物がなかったのか、アレンはとっととお店を出てしまった。
嵐のように来て去っていった私たちに、お店の人たちはポカンとしている。
「近年急激に台頭してきた魔道具屋という触れ込みだったんだが、俺が欲しいものはなかったな」
「細工は見事だったねえ」
「うん、きれいだった」
部屋に置いて飾っておく分にはいいかもしれないけど、欲しいかと言われると別に。
お姫様のお部屋とかで使うのにはよさそうな気がしないでもない。
「最初っからこっちに来たら良かったな」
次に入ったのは、昔ながらの金物屋さんとか瀬戸物屋さんっぽい感じの内装をしたお店だ。雑然と売り物が置かれていて、板やインゴット、金属線なんかの一見関係がなさそうなものもあちこちにある。
「なんだい。また来たのかい」
「おう。ちぃとお姫様にプレゼントを探しにな」
片眼鏡をかけて何かをいじっていたお爺さんが、顔を上げてちらりとこちらを見た。
「うちの店に、そんな気の利いたもんがあるとは思えないがね。振られてもうちのせいにはしないどくれよ」
ふっ、といじっていたものに息を吹きかけて、お爺さんが忠告してくれる。
うん、ここのお店にプレゼントにするようなものはないんじゃないかな。
ましてやお姫様にプレゼントするようなものなんて……。
プレゼントに家電っぽいものを探してるあたり、アレンってば王子様の癖にかなりズレてない?
大丈夫?
ルームランプとかならまだアリかなぁ……。
「あったあった、これだ。お爺さん、これをくれ。ついでにユニーク登録もしといてくれ」
アレンが見つけたのは、レンジ台っぽいやつ。
しかも二口!
「え、あれん。かいにきたのって……」
「おう、チーロ用の平竈だ。つけたり消したりするものを安定させるのには、腕がいるからな。俺が作ってもよかったけど、火の魔石の持ち合わせがなかったし」
わぁわぁ! ロイのおうちにあったやつ、一口コンロだったから同時進行作業が出来なかったんだよね!
これでスープを煮込みながら、とか、ちょっと手のかかるものも作れそう!
「なんだい。あんたらお貴族様だろう? 何で直火式の平竈なんか……」
呆れた様子でお爺さんが片眼鏡をはずす。
「使うのはこいつなんだ。あまり魔力がなくってな」
「呆れた。いくら魔力がないからって、そんな小さい子を下働きにする気かい? これだからお貴族様は……」
お爺さんは侮蔑するみたいに大きく息を吐いた。
「まってまって、ちがうの!」
せっかく私のことを考えてくれてるのに、アレンが誤解されちゃう。
私はお爺さんの誤解を訂正すべく、大きな声を出した。
「わたしがおりょうりしたいの! だっておいしいものがたべたいもん!」
お爺さんが疑わしそうな目で私を見る。
こんな時のためのスマイル0円作戦だ!
「チーロ、4さいです! おりょうりはとくいだよ! えへへ……」
しまった、今回は年齢いらなかったな。
つい、勢いで……そこはあざとさ全開の笑顔で誤魔化しておく。
「4歳で料理が得意、ねえ……」
お爺さんが首を振りながら、二口コンロを受け取る。
「うちのものを子供のおもちゃにするのも気に食わないが、お貴族様のおっしゃることにうちら平民は逆らえんからね……」
お爺さんはぶつぶつ言いながら、コンロのつまみ側の板を外して、また片眼鏡をかけた。
「ユニーク登録はこの子だけでいいのかい?」
「あぁ」
へえ、コンロってこんな構造なんだ。
意外にシンプル。
火をつけるところに、魔法陣の中央に埋め込まれた魔石から線が伸ばしてある。
空いていた場所に何か細かい図案をさらに書き込んで、お爺さんは私に言った。
「んじゃ、ちょいと指を貸して。はぁ……こんな小さい子に」
言われるままに手を差し出すと、お爺さんは言葉とは裏腹に何の躊躇もなくぷっすりと刺した。
「いったぁああああああ!」
「ちょっと、あんたらちゃんと説明してんのかい?」
顔を顰めたお爺さんが、不機嫌にアレンとロイに言う。
「そういや言い忘れた」
「ユニーク登録は初めてだったか……」
これ、血がいるってやつ!?
もちろん聞いてないよ!
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