第31話 上手に焼けました?

 ロイに魔法で作ってもらった金串を刺して、ローストビーフの火の通り具合を確認する。


「んむぅ、ちょっとひをがとおりすぎたかしら」

「……どうやって火の通り方を判断したの?」

「くしをぶすぅってさして、ちょっとまって、くしがあったかいかどうか、かくにんしたの」


 幼児の肌はどこでも敏感だろうから、別に下唇で判断する必要はないけど、漫画か何かでそうするものだって読んだから、その通りにした。

 金串が温かければ火が通っていて、冷たいとまだ生、熱かったら焼きすぎ、なのよね、確か。

 あっつ、ってなったのは私が幼児だからじゃないと思う。


 生よりかはいいかなぁ……実際牛じゃないし、生っぽい状態で食べていいのか微妙なんだけど、アレンはレア気味のステーキに焼いていたのを信じたいところ。

 どうせ焼くなら、一緒にロッタとかカローテを焼いてもよかったな。

 玉ねぎによく似たギョーギもいいかも。

 丸ごとレンジアップした玉ねぎが美味しかったから、きっとオーブンで丸焼きにしても悪くはないはず。

 アリンビルもホクホクしていいかもね。

 うぬぬ、もっと使い勝手のいい踏み台があれば、もっとオーブンが活用できるのに。

 天板を取り出した時に置いておけるサイドテーブルも欲しいな。

 踏み台を上り下りするときに、あっつあつの天板を落としたりしたら大事故間違いなしだからね。


 オーブンから出したお肉様を休ませている間に、ロッタを茹でてこふき芋にする。

 バターがあればじゃがバターにしたいところだけど、バターもないのよね。

 パンにもバターをつけたいなぁ……。

 ミルフェ先輩からお乳が出ればいいのに。

 あ、でも山羊乳って癖があるんだっけ?

 シェーブルチーズとか、結構臭かったような記憶があるわ。

 そんなに食べたことがあるわけじゃないけど、忘年会の二次会で先輩社員に連れていかれたバーで出てきた気がする。

 ほんの小さな欠片が結局食べられなくて……どうしたんだったかなぁ。


 パンを切って、昨日の残りのムシュトと粉ふきロッタをお皿に盛って、温めなおした肉団子のカラーシ煮の残りもお皿に盛り付ける。

 うーむ、ローストビーフ以外はほぼほぼ昨日と同じメニューになってしまった。

 スープだって、せいぜいカラーシを入れてトマト味にするかどうかくらいで、かわりばえしないしね。

 レパートリー不足は深刻な問題だなぁ。


 最後にローストビーフの一番大きな塊を薄切りにすると、確かめたとおりにかなり火が入ってしまっている。半分以上が茶色くよく焼けていて、桃色なのはごく内側がほんのりだ。

 大きい塊がこれだと、残りの中くらいのと小さい塊は、中までこんがり茶色くなっちゃってるかな?


「おぉ、中まで火が通ってる……真ん中はまだ赤いけど、生じゃない?」

「だいじょぶだよー。きのうあれんがやいてくれたおにくも、なかあかかったでしょー?」

「そういえば……」


 できればローストビーフにはソースを添えたいなー。


「ろーい、あかいおさけちょびっとちょうだい」

「飲むの?」


 ぎょっとした様子でロイが聞いてくる。

 どっかの国では子供でも薄めたワインを飲む、みたいな話を聞いたことはあるけど、あれってどこの国のことだったんだろう。

 もちろん、私はこの体で飲酒する気なんかない。

 この小ささでお酒なんか飲んだら何が起きるかわからないもの。


「ううん、コップにいっぱいぐらい、このてっぱんのうえにたらして、おこげとかをとかすようにして」

「……? 洗うのなら」

「あぁ、だめー!」


 止める間もなくロイは肉汁のこびりついた鉄板を|清浄化≪クリーン≫してしまった。

 あぁ、せっかくの肉汁が……。


「駄目……? 何で止めようとしたの?」

「おこげは、おにくのおいしいあじがのこってたのです。それをおさけでとかしてそーすにするはずだったの……」


 肉汁がどんなものか、詳しくは知らないんだけどさー。

 お肉焼いたときはそうするものだ、みたいな固定観念がね……あるのよ……。

 職場では水ぶっかけてスクレーパーでゴリゴリこそげとっていたけども。

 ハンバーガーパティの肉汁をソースにはしないからね。

 あぁ、清浄化クリーンがあれば、きっと週に一度のグリス清掃も楽だっただろうな。くっさいのよね、あれ。

 でも、ファストフード店はめちゃめちゃ油使うし、清掃しないわけにいかないもんね……。


「なんか、ごめん……?」


 ふと遠い目をしていると、腑に落ちない感じでロイが謝ってきた。

 ううん、いいの。

 ちょっとね、前世を思い出していただけだから……。

 ただ、今日のローストビーフはソース抜きね?

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