第30話 もったいないおばけ襲来の危機

 お肉は切り分けた塊全部、ぐるっと全面焼き色をつけてからオーブンに入れる。

 石窯オーブンって使ったことがないけど大丈夫かしら……。

 オーブンはずっと使ったことがないのか、埃っぽかったし物置みたいに使われていたのを、せっかくのお肉様のために掃除したのだ。

 このオーブンも魔石で動くらしい。

 すごいや、ログハウスに見える癖にオール電化だよ。

 いや、電化じゃなくて魔化かしら。

 あとはお風呂に入りたいけど、ロイが「清浄化クリーンでよくない?」っていうから、この世界に来てからずっとお風呂には入れていない。

 どういう原理なのか、毛穴までスッキリしている感じがあるのはいいんだけど、やっぱりお風呂には入りたい。

 でも、お風呂の支度をこなすのには、いかんせん私の身体が小さすぎるんだよ。

 室内みたいに踏み台を用意して上ったり下りたりを繰り返すのには、さすがに水場の清掃は事故が怖い。

 私にも魔法が使えれば、そのあたりスッキリ解消するんだけどなー!

 お風呂掃除をしてお湯を沸かして、湯船につかるのを魔法でやりたいわ。


「ふう。すーぷができあがるくらいに、やけたかどうかかくにんしよう」

「スープまで作るの?」

「おにくだけだと、えーよーがかたよるからね! いろいろたべるのだいじ!」

「えーよー……栄養、か。スープに色々入れるのなら、わざわざ肉を焼く必要はないのでは?」


 もう、また面倒くさがる!


「いままでは、もらったおにくどうしてたの?」


 私の質問にロイは目を逸らした。

 これやましいものがある反応だ。


「たべきれないぐらい、アレンもってきてたよね」


 私がいるの知らなかったから足りないかも、みたいなことを言ってたから、残していった大きな塊くらいのお肉をいつも持ってきていたはずだ。


「半分くらいは切ってスープに……後はペスにやって、それでも食べきれない分はいつの間にか食べられなくなってしまって……」


 無駄にしてしまっていた、と。

 ちなみに普段のペスのご飯はミルフェとほぼ一緒。

 庭に出る小さな魔獣を解体して、そのお肉をペスが、毛皮なんかの素材は町にもっていくか、必要ないものは処分する。


「もう! もったいないおばけにおそわれるよ!」


 やつら脅かすだけで襲いはしないけど。


「もったいなおば……とは? そんな魔獣、この大陸にいた?」

「もったいないおばけ! まじゅうじゃないよ」

「魔獣ではない……?」


 困惑した様子でロイが首を傾げる。

 いいよいいよ、困惑しておきなさい。

 それで食材に対する畏敬の念を学ぶといいよ。


 今まではロイのこれまでの食生活に準じる感じで、具沢山にしたスープにカチコチ黒パン、あとは果物と時々ナッツ、って感じだったんだけど、オーブン使えるようになったし、もう少しレパートリー広げられないかしら。

 あぁ、踏み台昇降せずに料理ができる身長と、もう少し大きな手が欲しい。

 踏み台も今はただの箱だから、上り下りするだけで一苦労なんだよね。

 大きな箱とやや小さめの箱で段を作っているものの、その小さな箱からして私の膝より高いんだもの。

 いちいち手を使ってよっこいしょ、って全身で上り下りしなきゃいけないんだから。

 あんまりロイの手を借りると、また食事をめんどくさがりだしそうだしな……。

 私は美味しいものを食べたいので、理想を言うならロイを放っておいても勝手に料理ができる環境が一番なのよ。

 今はスパイスを料理に使うっていうので、ロイの好奇心を刺激できてるからローストビーフ(ビーフではない)にも挑戦できたけど、次の食事の支度も付き合ってくれるかって言ったら、まあ怪しいよね。

 単野菜の水煮(あれをスープと呼ぶのは食文化に対する侮辱だ)を淡々と食べて、それで満足して干からびそうになる人が、そうそう食事の支度に熱心になるとは思えない。

 だからこんなに細っこいんだよ。

 干からびずにいられるのは、おそらく本当にアレンのおかげじゃないだろうか。

 今日焼いたお肉様はスパイスも効かせてるし、日持ちするといいな。

 じゃないと、今度またいつお肉様が食べられるかわからないもの。

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