第29話 名選手は名監督ならず
「それじゃ早速魔法を使ってみようか」
「はい」
どんな魔法を教えてもらえるんだろう?
「……」
「……」
「……?」
若干ワクワクしながら次の指示を待っていたら、ロイに首を傾げられた。
「まほう、おしえてくれないの?」
「うん。教えてあげるから使ってみて」
「……?」
それってどんな禅問答?
ねじり鉢巻きにたすき掛けで「さぁここに虎を出してください」って言わなきゃダメ?
「……?」
「ろい。わたし、まほうのつかいかた、わかんない」
私の言葉にロイはポカンとして、あぁ、そうか、ふむ、などと考え込んでいる。
「チーロ、この世界には、火や、水や、風や、土や、光、金属、植物、そして命に時間、そんなものがひしめいているのはわかるね?」
「……?」
おおう、
突然の問いかけに
「魔法とは、変化だ。それらの要素に、自分の魔力を使って変革を促す。それこそが魔法の真骨頂なんだよ」
ちょっと待って、ちょっと待って。
真骨頂とかいきなりいわれても、まだ魔法というお山の裾野すら踏んでいないんですが。
「例えば光。光の恩恵を指先に集めれば、ほら」
ピカッとロイの指先が豆電球ほどの光を生み出す。
「ひかった……」
「あるいは炎、あらゆるものを赤き舌で嘗め尽くし、焼き尽くす熱」
光は炎に姿を変え、炎は蝶の姿を取って、指先をひらひらと舞い踊る。
「ほら、やってごらん?」
だから、無茶言うな!
とりあえず、まずは原理を教えてよ。
「んえー……?」
ひとまずロイと同じように指を立てて、光れー、と念じてみる。
もちろんそんなことで光ったら苦労はしない。
「何も起きないね?」
ええ、そうでしょうとも!
「えー? うーん……魔法を使うには……自分の中の魔力を意識して……」
「じぶんのなかのまりょく……」
おなかに向かって「魔力ありますかー」って聞いてみたい衝動に駆られる。
ステータスカードに表示された魔力はしょぼかったけど、そもそもそれも間違いで、魔力なんてはじめからないんじゃないの?
「意識した魔力は、おへその下、胸の中央、鼻の付け根の凹んだところ。どこでもいいけど、集めやすい場所に集める。らしいよ、私は特に意識したことがないけど」
「うぅ……わかんない……」
ひょっとしなくてもロイ、魔法の天才だったりしない?
子供の頃から特別何かを教わったりすることもなく、呼吸をするように魔法が使えた、みたいな。
だから感覚的にしか魔法を使ってなくて、説明とか指導が苦手、とかそういう。
「まりょくをあつめる……あつめる……」
「集めたところをグルッと回す感じで」
つかみようのないものをいったいどうやって集めて回せというのか。
「ひかんないよう……」
「属性には得手不得手があるらしいからね」
そういう言い方をするからには、さては不得手がないな?
光とか炎は対象物がないから難しいのかと思い、お皿にパムをいくつか転がして、粉末にしようと挑戦してみた。
ミキサーをイメージしたおかげか、丸っこいパムはころころとお皿の中を回り……私はそこでへばった。
だけど、気持ちだけは魔法で物体を動かせた、という達成感でいっぱいだ。
「チーロの魔法は無駄が多いね。魔力はほとんどないに等しいのだから、もっと上手く無駄なく使えるようにしなくは」
「はじめて、だもの。できなくてもしょーがないの!」
むぅ、と唇を尖らせると、ロイはくすくす笑った。
「まったくチーロの言うとおりだ」
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