第32話 お姫様ならぬお暇様

 ドレッシングってさ、要するに酢と塩と油なわけですよ。

 お肉様は、焼く前にフォークでプスプスしとくべきだったなー、とか、ロイにお手伝いしてもらうとしてどういう指示をすればいいんだろ、とか考え事をしつつ、トマト似のカラーシと玉ねぎ似のギョーギをなるべく細かく刻む。

 畑にオリーブそっくりのホルトイオという木の実があったので、使用法を聞いたところ、ほぼオリーブと判断して絞ってもらった。

 ホルトイオから取れる油は、練り薬の媒体にしたり、脂溶性の原料の触媒にしたりと、幅広く使えるらしい。

 つまり、体に害はないから食べられる!

 ホルトイオ油を食べるっていったら、やっぱりロイにはぎょっとされたけども、こと料理に関する限り、ロイの知識は当てにならなさそうだ、というのは、わかり切ったことなので気にしないことにした。アレだ、ロイは前世で言うなら、蒲鉾が海を泳いでいると思ったり、味噌が大豆からできてると知って驚くタイプだ、間違いなく。

 さすがに毒とかなら、薬師的な観点から教えてくれるだろうし、食べて害がないなら美味しければいいじゃない。

 常識とか知らん!

 そんなわけで、カラーシとギョーギのみじん切りに塩、パムの粉少々、紫蘇っぽいような爽やかな香りのするカボニという葉っぱ、アリンビルのみじん切り少々を、レモンによく似たネーモのしぼり汁とはちみつちょっぴり、ホルトイオ油を混ぜ合わせ、食べるドレッシングっぽい感じに仕上げました!

 自画自賛しちゃうけど、我ながらなかなかの出来じゃないかしら。

 何もローストビーフだからってグレービーソースにこだわることもないかな、って、ドレッシング仕立てにしてみた。

 このトマトドレッシングならぬカラーシドレッシングで、薄切りにした昨日の残りのローストブラッドホーンブルを和えて、葉っぱがチリチリのレタスっぽいカソクカキャと共に、薄切りにしたパンにのっければ、ローストビーフオープンサンドの出来上がりだ。

 贅沢を言えばマヨネーズも欲しいけど、作ろうと思ったらロイに手伝ってもらわなきゃならないし、ロイに手伝ってもらって上手く作る自信はないから、保留。

 卵なんてそもそも入手方法がまだわかってないしね。


「ぱん、なくなりそう……」


 厳密に言えば、もう一食分くらいはあるのだけど、これはもう夜にはなくなっちゃうでしょ。

 ロイ、町まで買いに行ってくれるかな?

 まだ干し肉もドライフルーツもあるから、嫌がるかな。

 そしたらしばらくはロッタを主食代わりにしよう。


「なくなりそう、じゃなくてなくなるぞ」

「ふぎゃっ!?」


 突然頭にポン、と手を置かれて飛び上がる。


「何故なら、俺も食うからだ。何だ、この肉。美味そうじゃないか」


 だから、 くーびーがー、おーれーるー!

 こちとらこんなにか弱い子供なんだから、ちょっとは力加減しなさいよ!

 そんなにグリングリン撫でるでない!


「あれん!」

「おう。何だ、チビの癖にすごいな、お前。この料理お前が作ったの? ロイには無理な芸当だもんな。手伝うどころじゃないじゃないか」


 持ってきたものをどん、とキッチンにおいて、アレンが私を抱き上げる。

 乙女に無断で触ろうなんて、ふてえ野郎だ。


「なにするの、おろして」

「はっ、可愛くねーガキ」


 ゲラゲラ笑いながら下ろしついでに、さっと空き皿を出された。

 当たり前みたいにスープをスープボールに注いでいるアレンを横目に、追加のオープンサンドはこれでもかとお肉山盛りにしてやった。

 それにパンも残り全部使いきってやる。

 残しておいても、夜同じもの食べるだけだし、アレンがまた何か持ってきてくれたみたいだから、残りモノはいきなりやってきた狼藉者が平らげればいいのだ。


「おお、サービスいいな。さては俺に惚れたか?」

「ねごとはねてからいって」


 変な冗談には取りあわずに、よっこいしょ、と踏み台を降りる。

 いつもなら、踏み台のところに一旦お皿を置いて、それからそっと踏み台を降りて、お皿を運ぶ必要があるけど、アレンがいるなら運んでくれるでしょ。

 お皿に気を遣わずに降りられるのってすごい楽!

 やっぱり、いったんお皿を置く用のサイドテーブル代わりになるモノを用意するのは急務だな。


「飯は向こうのテーブルに持っていってやるから、ちびは座っておきな」

「ありがと」


 あとはありがたくアレンにお任せして、私は私用の……んんんんん?


「あれん! いす!」

「ひっひっひひ、俺は椅子じゃねーよ」


 今まで普通の椅子に箱とかを積み重ねて無理やり座面を高くしていたのに、小さな踏み台に手すりを付けたような、子供向け椅子が置いてあった。


「どーしたの、これ」


 やっぱり積み重ねただけの椅子じゃ不安定だったから、これってかなりの感動モノだ。


「作った」

「つくった? だれが?」

「俺が」

「えー!?」


 ちょっとびっくりしすぎて、お礼とか言うべきだったんだろうけど、つい私はぽろっと言ってしまった。


「おうじさまってひまなの……?」

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