第24話 飯食うぞ!
「お前さー、子供できたなら知らせろよな。おかげで足りないかもしれないだろ」
「たりない……?」
アレンは立ち上がると、封筒を何通かロイに押し付けて、ずかずかとバスケットを手にしたままキッチンに向かった。
勝手知ったるって感じだな。
「これスープじゃん。驚いた、この家に人間の食い物がある!」
昨日のスープの残りのことかな。
えらい言われようだ。
アレン、キッチンで何する気なんだろ。
「お、うめえ。しかも食える。え、やっぱり子供産むと変わるもん?」
だから産んでないって。
ロイは突っ込むこともなく溜息をつくと、受け取った封筒をそのへんに投げ出し、地下室に戻っていった。
もう、そういうことしてるから部屋が散らかるんでしょ!
仕方がないから、私はキッチンへアレンを見に行った。
「お、つまみ食いに来たか? いいぞー」
「つまみぐいしてたの、あなたでしょ」
「あれ、ばれてた?」
アレンはバスケットから荷物を取り出して広げる。
小鍋と、白くて柔らかそうなパンからはいい匂いがしている。
「……いいにおい」
「今あっためなおして、こいつも焼いてやるからな」
「おにくさまだぁ!」
アレンが広げて見せてくれた包みの一つは、お肉だった。
赤身で、脂肪の層がはっきりと分かれた塊肉だ。
ひえええ、ありがたい。お肉様だぁ!
「おいしそう……」
「だろ? ブラッドホーンブルは美味いんだ。期待しておけよー」
アレンは迷いのない手つきでスパッスパッと塊肉を厚めに4枚切って、3枚に塩と胡椒を振って軽く抑えると、フライパンと小鍋をコンロに掛けた。
胡椒! 胡椒あるんじゃん、やっぱり!
「いまなにかけたの?」
「んー? 塩とパムの粉。あ、しまった。ガキにはパムは控えた方が良かったか?」
「わかんない」
この体だと、味覚が敏感で苦みや辛味に弱いような気もするんだけど、まだ加減がわからないのよね。
「そっか。食べられなくても俺が食ってやるから心配すんな」
「たべられるもん」
多分。
「しかし、なんでこんなところに箱が置いてあるんだ? 邪魔でしょうがねえ」
アレンがキッチンに置きっぱなしになっている木箱を軽く爪先で押しやる。
「それ、わたしのふみだい。おりょうりするときつかうの」
「チーロはお手伝いすんのか。えらいなー」
アレンはそう言いながら、熱くなったフライパンの上に、三枚のお肉を載せた。途端にじゅっといい音がする。
塩胡椒しなかった一枚は、ペスのエサ皿に乗せられ、いつの間にか近くに来ていたペスが美味しそうにお肉にかぶりついた。
小さな器には付け合わせなのか、ロッタ(ジャガイモ)のこふき芋っぽいのと、緑のペースト状っぽいのが入っている。
アレンはそれらを皿に盛り付けて、お肉を裏っ返した。
やばい、いい匂い。
おなかが空いてきた。
じゅわじゅわじくじく言っているフライパンの横では、お鍋がふつふつ言い始めた。
あ、あ、こっちからもふんわりいい匂いがする……。
「パン向こうにもってっといて。せっかくだから、スープもあっため直すか」
「うん」
私はパンを抱えてテーブルに戻った。
テーブルでは、地下から戻って来たらしいロイが手紙を読んでいた。
「おてがみ?」
「家族から」
短く答えるロイの眉間には深いしわが刻まれている。
お片付けする時にちらっと読んじゃったんだけど、家族はあんまりロイが一人暮らししてるのを歓迎してないみたいなんだよね。
不自由はしていないか、誰それが寂しがってる、会いたがっている、季節の挨拶にだけでも帰ってくる気はないか、貴族の義務を果たす気はないのか、よい縁談の話がある、とかなんとか……。
手を変え品を変え、戻って来い、それだけを主張する手紙が何枚もあって、放りだしちゃいたくなる気持ちもわからなくはない。
私はロイの事情を知らないからなんとも言えないんだけど、手紙を読むだけでもこれだけ顔を顰めているってことは、よっぽど帰りたくないんだろうな。
私までロイと同じ顔になっちゃうよ……。
「おらー、飯食う前にそんな顔してんな。とりあえず、飯食うぞ、飯!」
どん、どん、と小鍋ごと置かれた何かの煮ものに、ステーキの皿。
「あ、おてつだいする!」
「いいから座っとけ」
そこ上って座るの大変だろ、と笑って、アレンはキッチンとテーブルを往復した。
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