第19話 かくして私は飯テロを決意した
「チーロ、大丈夫!?」
「ほぇ……?」
気持ちの良い睡眠からの美形ドアップ。
あんまり心臓には良くないね。
びっくりしたー……。
「ねてた」
「寝てただけ?」
「うん」
ロイの心臓にもよくなかったね。
変なところで寝てたから倒れてるとでも思われたか。
外はもうすっかり暗くなっている。
「ごめん、ほんとうにねてただけだよ」
「そっか……それならよかった……」
ほっとした様子でロイは私を抱え上げると、食卓に座らせて魔法で綺麗にしてくれた。
埃とか何とかで全身汚れてたからね。
うーん、便利。
この魔法はぜひとも覚えたい。
「それじゃ、食事にしようか。今日も恵みに感謝いたします」
「うん、いただきま……ぱん、だけなの?」
朝もパンだけ、昼もパンだけだったけど、夜もパンだけだとは思わなかった。
いや、居候の身でぜいたくは言えないけれども。
「干し肉もいるかい? 甘いのが良ければ干しアパムもあるけど」
アパム、っていうのはリンゴそっくりな果物だ。果肉の色だけがほんのり赤いけど、しゃりっと感はそっくり。香りはやや南国っぽいコクのある甘さの香りだ。
干すと酸味が抜けて、ねっとりとした甘さに変わる。
それはいいけど、干し肉もドライフルーツも保存食じゃない?
「やさい、たべないの? やさいすーぷは?」
「……? 食べるものがあるからね。わざわざ作らないよ」
言われていることが理解できない、とばかりにきょとんとされてしまう。
「こんごのさんこうに、ろいの、いままでのしょくせいかつについて、きいてもいいかしら?」
「食生活……?」
「いつも、なにたべてるの?」
あの野菜スープ、まさか他に食べるものがないから食べてた、とかじゃないよね?
「うーん……パンがあるときはパンだけど……パンがなくなったら干し肉を食べて……干し肉に飽きたら干した果物、それとナッツ。あとは適当に庭や畑にある果物や野菜を食べるかな」
はい、予想通りの回答ありがとう。
「もしかして、ぱんがあるあいだはおりょうりしない……?」
「他に食べ物がある間は料理しないよ。薬だけではおなかが膨れないんだよね」
残念そうに言うことじゃないでしょ。
「おやさいはたべなきゃだめ!」
「食べているよ。町に出た時に買ってきたものがなくなったら、ほぼ野菜しか食べないくらいだ」
「まちにはどのくらいのひんどでいくの?」
「ふたつきに1~2回くらいかな? 薬を納品するついでだから、ふたつきに一度20日あたりに足を運ぶよ」
「おにくは……」
「町に出た時に。普段は干し肉だね。もらった時は、その肉も食べるけど、肉は捌くのが面倒だし、生肉は料理するにも血なまぐさくてどうもね……」
肉も野菜も足りてない!
かっさかさになるわけだよ。
異世界チートおなじみの美容液とかクリームとか、私が開発出来たところで、無駄でしょ。
このままじゃ砂漠に水を撒くようなものだ。
この世界に飯テロ革命は必要ないかもしれないけど、少なくともこのテーブルには必要なことが痛いほどわかった。
このテーブルを革命しなくては、ロイと一緒に私までかっさかさになってしまう!
潤いは内側からじゃないと……。
「あのね、ごはんはちょっとずついろんなものをたべるのがいいんだよ!」
「干し肉と干しアパムも出そうか?」
微笑まし気にロイはキッチンから干し肉と干しアパム、ナッツを持ってきた。
さては子どものワガママ、好みの問題だと思っているだろう!?
「ろいも! ろいもたべるの!」
ロイの皿に干し肉と干しアパムとナッツを一握りずつ乗せる。
子供の小さな手だからほんのちょっとしかないけど、それでも食べないよりはましだろう。
「えぇ、こんなに食べられるかな……?」
夜もパン1個で済ませるつもりだったの?
パンだけにしたって少なすぎない?
いくら腹持ちがよくて栄養価が高そうな堅いパンだって言ったって、だからそんなに痩せてるんだよ!
「あしたはやさいもたべよーね」
「え、野菜も食べたいの? 子供なのに変わってるね。わかった、明日のお昼は野菜スープを作るよ」
ロイは不本意そうに約束してくれた。
子供なのに変わってる、っていうことは、さては野菜も好きじゃないな?
明日からの食事には、絶対に手出し口出ししてやるんだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます