第20話 チーロの3分どころじゃないクッキング
「てやぁっ、えいっ、えいっ!」
ロイと一緒にお外を回りつつ、ミルフェについて歩いて、小さな魔獣を倒す。
私の武器はロイに貰った私専用のワンドだ。
一昨日ロイに借りたのよりはシンプルなやつ。
あ、でももう折ったりしないよ。
力加減には気をつけてる。
「ふぅ……」
別に汗は掻いてないけど、額を拭う。
気分ね、気分。
スライムはともかくね、動物型のはイケるかなぁ、と思ったんだけど、ミルフェ先生が『見ていてやるからやってごらん』とばかりに私に譲ってくれるもので……。
私が倒した後、食べる? から、楽してるだけかもしれないけど。
ペスもやさしく鼻づらで背中を押したりして応援してくれるし、私多分、この家にやってきた一番下っ端の新人扱いなんだと思う。多分。
特にミルフェからは『何にも知らない子に教えてあげなきゃね』みたいな気概を感じる。
スライムには表情というか、目がなかったから気が付かなかったけど、向かってくる魔獣は敵意の塊で、これっぽっちも可愛くなかったから、倒すのにそれほど躊躇はなかった。
初めてミルフェが食べる?ところを見たドグウィーズルなんて、色は違うけど某白いイタチにそっくりだった。当時の子どもたちのトラウマだったという、某様……。
イタチ以外にも、兎や犬や猫みたいなのも見たけど、どいつもこいつも可愛くない。
呪いの何とかとか、魔の何とかとか、そういうホラー映画で災厄の前触れに出てきそうな造形をしていた。
だから魔獣っていうんだろうけど。
「チーロ、野菜は前と同じカーベージでいいかい?」
ロイが指さしたのは、まんまキャベツだ。
ただし、芽キャベツみたいに伸びた木みたいなのにびっしり実っている。
一個の大きさは大人の拳より一回り大きいくらい。
おおう、不思議生態……。
「ほかにはなにがあるの?」
「今食べられるのは、あとロッタとランゼぐらいかなぁ……」
「それは?」
私が指さしたのは、オレンジ色したトマトだ。
「カラーシは果物だろう? あまり美味しくないけど」
あぁ、そうね……トマトは果物か野菜か微妙なところよね……。
「ろった、ってどれ? らんぜは?」
「これがロッタ。芽が毒になるから、取り除かねばいけないけれど、毒を取り除けば食べられる。ランゼはこの茎を食べるんだけど、くせがあるし苦いかなぁ……」
じゃがいもとセロリですね。
「ぜんぶとっていこう! かろーても!」
カローテはゴルドの餌にもした人参だ。
一本一本はスティック人参かってぐらいに細い。
「そんなに食べられないだろう?」
「あじみしたいから、ぜんぶいっこずつ!」
「それでも多いんじゃないかなぁ……ロッタは暗いところに置いておけば持つからいいか……」
ロイはぶつぶつ言いながらも、私が言う通りに収穫をしてくれた。
キッチンに持ち込んだ野菜にはクリーンを掛けて、いざ調理……と思ったんだけど。
「ろい、もっとこまかくきれない……?」
「えぇ……?」
ロイは水を入れた鍋の上で、まずはカーベージをザンザンッと魔法で切った。
大きさはばらばら、鍋からはぼちゃんぼちゃんと水が跳ね返る。
「あと、かーべーじ、ちょっとだけちょうだい」
比較的小さく切れた一切れをもらって、少しだけ齧り、味を確かめてみる。
うん、普通にキャベツだ。あんまりくせもない。
これなら生でも食べられるな。
「ろい、おてつだいしたい!」
「えぇー?」
「いいでしょ? おりょうりする!」
手伝わせなきゃ駄々をこねるぞ。と、不退転の覚悟でロイを見上げると、ロイは困った様子で手を止めた。
よし、いける!
このまま押し通してやる!
私はロイが困惑しているのを尻目に、キッチンに昨日踏み台代わりにしていた箱だのなんだのを持ち込んだ。
「ほうちょうとまないたあったらかして。ほかのおやさいもあじをかくにんしたいの」
「ナイフならあるけど……手を切らないように気をつけて」
私の手でも使えそうな小さなナイフを貸りて、全部の野菜の一部を少しだけ切り、味を確かめてみる。
「あぁ、ロッタは毒だって……! カローテまで……!」
「ちょっとだからだいじょうぶ……たぶん」
ランゼはくせがあるどころか、甘みのある美味しいセロリだった。匂いにはくせがあるし苦味もあるけど、これも生でも食べられそう。
ロッタはちょっとえぐみがあるかなぁ。煮たらどうなるだろう。
カラーシはまんまトマトだけど、味が薄めの昔のトマトって感じ。青臭くて酸味が強い。そのまま生食だったら、たくさんは食べられないかな。ドレッシングが欲しい。
カローテはちょっぴり苦味が強い人参だ。もっとも苦いと思うのは、私の身体が子供で舌もお子ちゃま舌だからかもしれない。
私は丁寧にランゼの筋を取って細かく切り、ロッタも芽を取って皮を剥いて小さめに切って、カローテは皮を剥いてロッタより小さいくらいの賽の目にした。
じ、時間がかかる……。
手が小さいから、チマチマとしかできないの。
小さなおててでたどたどしくトントンしてるの、他人事なら微笑ましいけど、自分の手だとイライラする!
だけど、ロイは感心した様子で私を見守っていた。
「チーロ、器用だね」
「そうでもないよ」
元から料理上手じゃないけど、それでも、生まれ変わる前はもうちょっとできたはずなんだ。
足場も不安定だし、全体に小さくなってるから、仕方ないっちゃないんだけど。
「ろい、からーしのうすいかわだけこがせる?」
「……チーロは不思議なことをするね?」
じゅわっ、と火魔法でカラーシの薄皮が焦げた。
「そこですぐにみずかけて!」
「うん?」
不思議そうにしながらも水を掛けられたカラーシは思った通りに皮が剥きやすくなった。
皮を剥いたカラーシを細かく切って、それと干し肉も細かく切って、鍋に入れる。
「ろい、ほかにもいれたいものがあるんだけど……」
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