第二章 自分の居場所を作りたい!

第18話 子供は突然ぱったり寝る

「うっわ、ほこりがじゅうたんみたいになってる……」


 朝、ご飯を食べてロイの庭仕事、畑仕事を見学した後、私はおうちの中を探検することにした。

 見学は本当に見学だった。

 ……なにもすることがないんだもん。

 お手伝いするよ、と申し出てみたのに、ロイときたら魔法でぶわっとなんかして、あっちもぶわっとして、こっちもぶわっとして、それからぐるっと境界を確認して、はい、おしまい。ってなもんよ。

 庭仕事も、畑仕事も、経験も知識もないから、何をしたのかよくわからないけど、多分雑草抜いたり、水撒いたりしたんだと思う。あと、土をひっくり返したり?

 私に手伝えるようなことは何もなかった。

 それから厩舎も同じようにぶわっとやって、ロイは仕事をすると地下室に向かった。


 お仕事はお薬の研究で、何かあっては困るから地下室には入室制限をかけているのだそうだ。

 地下の研究室とかめちゃくちゃそそられる。

 いつか見せてもらえるといいな。

 中にいても声は聞こえるから、何かあったら呼んで、とは言われてるけど、ロイって絶対集中したら他のことが耳に入らなくなるタイプだと思うのよね……。


 そんなわけで、私はいらない布、と言って下着代わりにするのに貰った布を片手に、おうちの中をひっくり返している。

 いらない布シリーズは色々あったけど、中には総刺繍! みたいなゴージャスなヤツもあったのよね……どこの誰がそんなものを下着にするんだか。

 結局今のところ活躍しているのは一番シンプルな、染めもしていないひと巻きだ。同じように染めていない布には、絹のようなやたら手触りのいいのやらもあったけど、そっちはお高そうだったから、なんとなく綿と麻の間っぽい植物繊維っぽい奴に落ち着いた。

 最初に切り取った分は私の下着となり、その残りが、今、雑巾となっている。

 雑巾なんて、使い古しの布を転用するものなんだろうけど、この家に存在する雑巾にできるような使い古しの布って、多分ロイの下着しかない。

 いくら中身はアラフォーでもね、他人様の下着を手にするのはためらいがあるっていうか……拭きたいものは本とかもあるのに、元下着擦りつけるのもどうよ、とか、そういうもろもろの葛藤の末、綿と麻の間っぽいやつを贅沢に使用することにしたわけで……。

 ちなみに昨日ふんどしにした分は、リメイクして私のパンツにするつもりだ。


 なんでこの家に雑巾がないかというと、ロイが何でもかんでも魔法でやるせいじゃないかと推測される。

 一応、顔や手を洗った時に拭くためのタオルっぽい布は存在しているし、ハンカチは山のように存在してるんだけど、どれもとても素晴らしい刺繍がしてあって、雑巾に使うにはちょっと……。

 汚したものはロイが魔法できれいにして乾かして、厩舎の掃除なんかも魔法でぱっぱと片付けてしまっていたから、雑巾の出番がないんだ。

 だったら、うちの中も魔法できれいにしてしまえばいいのに、多分、家の中のことにはそこまでするほどの興味がないんだろう。


 ほら、片付けが苦手な人って、自分には最適な配置にモノが置いてあるっていうじゃない?

 だから、勝手に片づけたり配置を触ったりするのもどうかな、とは思ったんだけど、積みっぱなし、開きっぱなしの本にも埃が溜まってたりするから、このあたりは手出ししちゃっても構わない、と勝手に決めた。

 でなきゃ、落ち着いて本も読めないよ。

 ロイが生活してるっぽい範囲はともかく、ちょっと何かを持ち上げようとするたびに埃が舞い上がるんだもん!

 自分は、魔法できれいにできるからって、厩舎の方がまだ綺麗、ってなんなのさ。


「うひぃい、じゅうろうどう……」


 力が大人並みにあるのは実感した。

 大人並み、どころか、多分力持ちの類に入ると思う。

 持ち上げるだけなら、重いな、って感じるものは何もなかった。

 でもね、腕! 短いの! 指! 短いの! 背! 低いの!

 言いたくないけど、足も短いの!

 いや、年相応だとは思うんだけどね。べつに取り立てて短足でもないけどね。

 ものを移動しようとしても、大きなものになると、手が回らないのよ。

 だからかさばるものなんかは、移動するだけでも大変。

 それに、テーブルの上とか、本棚とか、高い位置で何かしようと思ったら、踏み台になるものを持ってこなきゃいけない。

 踏み台を移動して、上って、作業して、降りて、踏み台を移動して、上って、作業して、降りて……。

 

 そして忘れちゃいけない。

 腕力はあっても、体力はきっちり四歳児並みしかないのよ……。

 気が付けば、私は倒れ伏して眠っていた。

 あぁ、これっておこちゃまによくある電池切れ状態。

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