第15話 はじめての戦闘
ゴルドを厩舎に入れ、労いのためにブラシを掛けてやる。
やるのはロイだけど。
私の手だと、馬用ブラシ掴めない。
代わりにおやつをあげるように頼まれた。
おやつになるのは、人参だ。
「ごるど、わたしのことものせてくれてありがとうね」
ぶる、という鼻息は、どういたしまして、って言ってるんだと思う。
撫でたらあったかくて、つぶらな目が可愛い。
「わたしがもうすこしおおきくなったら、ひとりでものせてくれる?」
こっそり小さな声で聞いてみると、わかったのかわかってないのか、尻尾を振って返事をしてくれた。
厩舎を出ると、放し飼いにされたミルフェがいた。
前足で、ぎゅっとイタチっぽいものを潰している。
潰されたイタチは断末魔の声を上げ、パシュッと黒っぽい霧になった。
「おぉう……みるふぇ……」
さっそく活躍しているところを見てしまったよ。
魔獣だと思うと、見る目が変わるね。
「まじゅう、しぬときえる……?」
先ほどの状況を説明してもらおうとロイを見上げる。
「モノによるとしか言えないな。レイスなどは基本死骸を残さないが、何割かの確率で核を残すし、今ミルフェが倒したドグウィーズルはミルフェに喰われたから消えた」
「くった……!!」
ミルフェの横長の瞳孔がどことなくドヤ顔に見える。
潰しただけで食べられちゃうなんて、もぐもぐする必要がないんだね。
グロ映像を見なくて助かったけど、それもそれでエグいよーな……。
「敷地の結界内に入り込めるような弱い魔獣は、こうしてミルフェが駆除してくれているんだ」
「すごい、みるふぇ……!」
鼠避けに猫を飼う、みたいな。
「どうしてもよわいまじゅうははいってくるの?」
素人考えだけど、強いヤツが入ってこられないんなら、弱いヤツはもっと入ってこられないんじゃないか、って気がするけどなぁ。
「完全に何も入ってこられないような結界だと、植物が上手く育たないから、あえてある程度以上の魔力を持つものだけを排除しているんだ」
「おぉ……」
受粉とか微生物とかの問題かしら。いや、知らんけど。
「だから、おにわにでるとき、きをつける……!」
「そう、そうしてほしい。チーロのこと頼むよ、ミルフェ」
「よろしくね、みるふぇ」
任せて、と答えたみたいにミルフェがべぇえええ、と鳴いた。
そして悠然と結界の境界に向かって歩む後ろ姿には、どこか風格のようなものが滲んでいる。
「ちょっと待って、ミルフェ」
「べぇええ」
職務を遂行しようとしてるのに何で止めるのよ、と言いたそうにミルフェがロイを振り返った。
ミルフェが目指していた先には、半透明のプルプルしたものが鎮座している。
「す、すらいむ……!」
「スライムは知ってるんだ?」
あの、スライムだ。
強すぎる表面張力で球体に近づきました、と言いたげなてろんとしたフォルムで、残念ながら愛らしい目はない。
生物には見えないけれど、転がっているのか、にじり寄っているのか、自走しているようだ。
ぶるぶる震えながら移動する様は、熱く熱した鉄板に落した水滴に似ている。
「ちょうどいい、戦ってみるかい?」
「いいの……?」
「あぁ。何も知らないうちに遭遇するより、こうして私が監督している間に魔獣がどういうものか知っておいた方がいいだろう」
ロイが腰につけていた棒を差し出してくる。
ワンドって奴だろうか。
ちょっと洒落た彫り物がしてある。
ロイの手ならばタクトみたいな持ち方ができそうだけど、生憎私の手だとぎゅっと持つしかない。
「……ほんとにいいの?」
私、魔力ないし、やるとすれば物理攻撃しかないんだけど。
このワンドってぶんなぐるのに使っても構わないような武器なわけ?
ロイが頷いたから、私は仕方なくスライムに向き合った。
スライムにも敵対意志が伝わったのか、うにょん、と一度伸び上がるみたいに変形して、私に近づいてくる。
「スライムの倒し方は、強い振動を与えること。打撃でも、斬撃でも、魔法でも構わない。しっかりと攻撃すればいい」
「わかった。……えい!」
すいか割みたいに思いきって大上段からワンドを振り降ろす。
勢いあまって、ぺきっとワンドがぶち折れた。
肝心のスライムはといえば……爆散したとしか言いようがない。
ワンドからの風圧でぶちゃあっと飛び散って、後には光る欠片だけが残った。
「……じょうずにできた?」
手応えはあったといえばあったけど、対処方法として正しかった気がしない。
不安になって振り返ると、ロイがぽかんと口を開けていた。
「……膂力386は伊達じゃないな。庭に出る程度なら問題なさそうなので、チーロに合う武器を用意しようか」
「わーい!」
しばらくは庭でレベル上げすればいいのかしら?
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