第12話 生活能力ない疑惑

 おかみさんのお店を出た後、ロイは約束通り服を買ってくれて、それから、山盛りのパンと、ナッツと、ドライフルーツと、干し肉を買った。


「ずいぶんかったね」

「うちになくなってたから」


 買ってくれた服は、シンプルな貫頭衣みたいなワンピース2枚と、腰ひも1本。着てるのと合わせて3枚あると洗い替えになるから助かる。防寒用にチョッキみたいなの1枚。パンツが3枚に、なぜかハンカチを10枚に刺繍道具。

 何でパンツよりもハンカチの方が多いんだ。

 ハンカチは別に欲しいと強請った覚えもないんだけど『あぁそうそう、ハンカチも買わなきゃいけないよね』みたいな強迫観念から来たようなセリフと共に追加された。

 購入基準が謎すぎる。


「なくなった、ってことはかいおきしてないの?」

「買い置き?」

「おうちにたべるものないとこまるよ」


 ひとり暮らしに買い置き、作り置きは大事でしょ。


「食べるものがなくなったら、畑で作っている野菜を食べるよ。昨日もそうだっただろう?」

「そっかー。でも、びょうきのときとか、あめがひどくておそとにでられないとき、どうするの?」

「我慢してじっとしてる」


 そっかー!

 そっかー……。

 え、この人かなり駄目じゃない?

 ひょっとして生活能力、あんまりなくない?


「きょう、いっぱいかったでしょ? なくなるまえにかいにいって、まえにかったほうからさきにたべるでしょ。そうやっておうちにたべるものがなくならないようにしたほうがいいよ」


 ロイはきょとんとして、それからほわっと笑った。


「なるほど、チーロは頭がいいね」


 駄目だー、駄目な人だった。

 いや、これがこの世界の常識なんだろうか。


「そういえば、薬草なんかの素材は使ってもなくならないように、余分に備蓄しているよ」


 でしょうね。あのおうち、やたらに葉っぱがいっぱい干してあったもんね。


「たべるものもおなじこと」

「うん、考えておくよ」

「かんがえただけじゃだめ。そうして」


 お話をしながら町の出入り口まで戻る。


「よう!」


 門番さんは来た時と同じ人で、私と目があうと親しげに手を上げてくれた。


「可愛い服、買ってもらったか?」

「うん! はんかちもいっぱいかってもらった」


 いや、シンプル極まりないけどね。

 幼女が着たらなんだって可愛いでしょ。


「そっかそっか、よかったな」


 門番さんもニコニコしながらゴルドのところに案内してくれる。


「ごるどー、いいこでまってた?」


 のんびり干し草を食べていたゴルドは、私たちの顔を見ると、すり、と顔を寄せてくれる。


「そっかー、いいこでまってたかー」


 買ってきたものを左右に振り分けてゴルドに括り付けると、ロイは私を先に乗せてくれた。


「世話をかけた」


 ロイの小さな声は門番さんに聞こえたかな?


「またねー」


 私がぶんぶんと手を振ってご挨拶すると、門番さんも手を振り返してくれたし、それから別の門番さんも笑って手を振ってくれた。


 しばらくして町が見えなくなると、ぼそりとロイが言った。


「今日はたくさん人と話した」

「……え?」


 いや、話してないよ。

 それなりに会話したんじゃないか、っていうのは司祭さんとぐらいで、あとは声が出ないのかなってぐらいに身振り手振りで済ませてたじゃない。


「そっかー……そんなにおはなししてないと、しゃべりかたわすれちゃわない?」

「忘れた……かもしれない」


 何がおかしいのか、ふふふ、とロイは小さく笑う。


「チーロは知らない人ともお話しできてすごいなぁ」


 ロイの言葉が、何故だかちょっぴり苦いものを噛み締めているみたいに聞こえた。

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