第9話 別に料理チートは求められてない

 ほどなくして届いたのは、お肉と玉ねぎっぽいものを炒め合わせたものと、いろんな野菜と肉のかけらが入ったスープと、丸っこいパンだ。

 パン、あるんじゃん!


「おいしぃー!」


 少し千切ったパンを口にいれたら、ほっぺたがきゅうってなった。

 黒っぽくて少し酸っぱいけど、穀物の甘みがある。

 噛み応えがあって、噛めば噛むほど甘い。

 しばらくぶりに食べた食べ物らしい食べ物に、舌が喜んでいる。


「うぅ、おにくもぱんもおいしいよぅ……」


 続いて口に入れたお肉も、獣臭さはあるものの、脂っこくてしょっぱくて、生きてるって感じがする味だった。

 ただ筋張っていて、噛んでも噛んでも口の中からなくならない。

 しまった、欲張って頬張り過ぎた。

 口から溢れそう。


「はは、そうやって美味しそうに食べてもらえると、料理人冥利に尽きるねえ」


 口の中に入れたものをこぼしてしまわないように、両手で口元を押さえながらもぎゅもぎゅしていると、奥から出てきたおかみさんが話しかけてきた。

 まだ若くて、とても小学生くらいの娘さんがいるようには見えない。

 30歳手前くらいかなぁ……。

 絶対私よりも若いよね。

 おかみさんはよっこいせ、と私たちが座るテーブルの向かいに腰を下ろして、ロイに探るような目を向けた。


「……んで、薬師さん。その娘っ子は親戚か何かかい?」

「いや」


 小さく首を振ってロイが答える。

 途端におかみさんは盛大に顔を顰めた。


「まさか攫ってきたんじゃないだろうね」


 私は慌てて口の中のモノを飲み込んだ。


「ちがうの。ろいはわたしをたすけてくれたの」

「たすけた?」

「森で拾った」

「……」

「……」


 いや、それでおしまいかーい!

 あるじゃん! どういう状況だったか、とか、私に記憶がないらしい、とか!

 言葉が足りないと変な疑いかけられるでしょうが!


「ロイってのがあんたの名前かい。ずいぶん長く付き合いがあるけど、名前も初めて聞いたよ」

「そうなの!?」


 町の住人でもない、ろくに名乗りもしない胡散臭い男が、突然見知らぬ幼女を連れてきたら、それは警戒するわ。

 まして自分にも娘がいたら、警戒しないわけがない。

 やっぱり、ここは私が少しでも印象を良くしなくちゃ。

 食らえ、私の0円スマイル!


「チーロです! ロイといっしょにくらしてるの!」


 昨日からだけどね!

 危ない人ではないと思うよ、多分!

 まだ私も保証できるほど|為人≪ひととなり≫を知ってるわけじゃないけど!


「そうかい。あたしはアイナ。ここの店主だよ」


 0円スマイル大盤振る舞いでご挨拶した私に、おかみさんはにこっと笑い返してくれた。


「いくつだい?」

「よんさい!」


 手で4歳をアピールするのはあざとかったかな。

 いや、でも、ロイの愛想のなさと足して割ったらちょうどいいかもしれない。


「へえ! 4つかい。うちには11歳と9歳と6つの子がいるよ」

「さっきのこ?」

「そう、モス。モスリーンてんだけどね、あの子が真ん中で9歳さ。下の子はマックってんだけどね、6つにもなって手伝いもせずどこで遊び歩いてるんだか」


 マック、って男の子かな?

 6つじゃしょうがないんじゃないですかね。

 私が6つの時はどうだったかなぁ……。

 9歳でちゃんとお手伝いしてるモスちゃんが偉いんじゃないかしら。

 そのモスちゃんはといえば、そわそわした様子でこちらを見ている。

 にこっと笑いかけると、やっぱりにこぉって笑い返して小さく手を振ってくれた。

 かっわいい!

 小さい子気になるよね!

 自分より小さい子がいたら気になっちゃうよね!

 でも変に構おうとしないなんていい子だな。

 お母さんがここにいるからかもしれないけど。


「わぁ! このすーぷもおいしいなぁ!」


 はしゃいだ振りをして、スープを口に運ぶ。

 実際、美味しいんだ。

 小さく切られた野菜や肉からいい味が出ていて、昨日今日と飲んだロイのスープが何だったのかと思うくらい。

 あのあまりおいしくないスープは個人の問題だったのね。

 これだったら、料理チートとか必要ないかしら。

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