第6話 くらえ必殺0円スマイル

 ですよねー。

 やっぱり怪しいよね。

 ロイはやっぱりポソポソと小さな声で「拾った」と答えている。


「薬師殿が子供を……?」


 門番さんは疑わし気なままだ。

 よし、ここは私に任せておけ!


「こんにちは! わたしチーロです。ロイさんのおうちでおせわになってます!」


 どうだ、これが私の0円スマイルだ。

 日々の業務で培った営業スマイルをとくと見よ!


 にっこりと元気よくご挨拶すると、門番さんはちょっとびっくりして、それから笑い返してくれた。


「なんだ、元気がいいなぁ」


 お、笑うとなかなかの好青年じゃないですか。

 よしよし、笑顔は大事だね。

 だけど、青年はふと心配そうに表情を曇らせてしゃがんだ。


「どうだ、薬師殿のところで何か困ったことはないか?」


 おお、しゃがんだのは私に目線を合わせてくれたのね。

 ますます好印象。

 でも、心配はご無用ですよ。


「ううん、ロイやさしいよ。きょうもふくかってくれるんだって」

「そっか」


 プルプルと首を横に振ると、お兄さんはくしゃくしゃと私の頭を撫でてくれた。


「足止めして悪かったな。ずっとひとりで暮らしてたあんたが突然子供を連れてきたから心配になったんだ」

「あ、いえ……」


 ロイってばコミュ障なんだね。

 門番さんが心配するのもわかるよ。

 いかにも訳ありっぽいもんね。

 薬師殿、って呼んでたし、態度からしても、領主の一族なのは内緒にしてるのかな?

 ロイは私を抱っこして、そそくさと門を離れ大きく息を吐いた。

 門番さんが眩しかったんだね、わかるわかる。


「それじゃ、まずは教会に行こうか」

「きょーかいってあれ?」

「よくわかったね」

「ほかのたてものとぜんぜんちがうもん」


 キリスト教の教会みたいに十字架が飾られてるわけじゃないけど、教会は丸っこい屋根のてっぺんにサーベルみたいなものがぶっ刺さった形をしている。

 この世界の宗教的シンボルなんだろう。


 教会の入り口にはまた憲兵さんみたいな人がいかめしく立っていて、大事な施設なんだろうな、っていうのが伺える。


「ほぇええ……」


 中に入ると、出入り口の両脇に鏡が設えられていて、続く廊下には様々なポーズの石像が柱の合間合間に置かれている。

 横目でちらりと見た鏡に映った私は、子供の頃の私とは似ても似つかなくって、もう少しよく見てみたかったけど、その前に荘厳な雰囲気に圧倒されてしまった。


 教会っていうか神殿?


 ここで身元不明者のことを調べられるって、役所的なものも兼ねてるのかな?

 日本でいうところの檀家制みたいな、感じで、人間の生死と人口の流出入を教会が管理してるとか。


「お待ちしておりました」


 祭壇のある部屋で声を掛けてきたのは優しそうなお爺さんだ。

 ロイは私をいったん下ろして、ボウアンドスクレープっぽい感じで軽く膝を曲げた。


「えっと……わたしもごあいさつしたほうがいい?」


 ロイを見上げて聞いてみる。

 門番さんには軽く挨拶できたけど、ここだと礼儀作法とかありそう。

 だけど、この世界のあいさつの方法なんて知らないよ。

 あとでロイに教えてって頼んでみよう。

 人間関係は挨拶からだよね。


「ほっほ、ではお名前を伺ってよろしいか? 私はヴァンツァネル。このカプスの教会の司祭をしておる」

「チーロです! よろしくおねがいします!」


 くらえ、0円スマイル!

 今後ともスマイル攻撃は、無差別にしていく所存。

 日本人の伝統芸能、笑ってごまかせの術だ。


「ほっほっほ、これは礼儀正しいお嬢さんだ。では、こちらへどうぞ」


 祭壇の方へと促され、恐る恐る階段を上る。

 司祭様と似てるけどそれより装飾の少ない格好をしたお兄さんが、踏み台を持ってきてくれて、説教台の上が見えるようにしてくれた。

 そこには大きな水晶玉が置かれている。

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