第5話 あ、やっぱり怪しいですよね
服がないのですよ。
昨日はお風呂に入れなかったのは、気候とが文化的に仕方がないのかな、とも思うけど、やっぱり日本人的にはこまめにお風呂に入りたいし、お風呂に入ったら洗った服に着替えたいじゃない。
服がないから服はそのままだけど、下着は仕方がないから適当な布を貰ってふんどしだ。
着ていた服は草木染っぽいアースカラーのワンピースと、下着はひもで縛るかぼちゃパンツみたいなの。
お手洗いに行くたびに縛りなおさなきゃいけないのがめんどくさいし、短パンをそのまま履いてる感じですかすかして落ち着かない。
せめて紐がループになってればいいんだけど、パンツと紐は別々に分かれてる。
これ、パンツ全部そうなら、ふんどしの方が楽かも?
お手洗いは、どういう構造なのかわからないけど、ぽっとんの割には匂わない。
柔らかい葉っぱで拭いて、おトイレにポイ。
おまるじゃなくてよかったけど、下水とかどうなってるんだろう?
「チーロ、ごはんできたよ」
私が朝の身支度をしている間に、ロイがご飯を作ってくれていた。
自分で食べられるとわかったからか、食卓の椅子の上には木と毛皮が重ねられ、座面を高くしてくれている。
用意されたのは、昨日と同じ、不揃いに切られた野菜を水から柔らかく煮込んだ塩味のスープ。
「いただきます」
「神よ、今日も恵みに感謝いたします」
居候の身でぜいたくを言えたものじゃないけど、スープだけじゃ少々物足りない。しかも入ってる野菜がキャベツっぽいのだけなんだよね……。せめて何種類か野菜を入れるとか、肉っぽいものを入れるとかすればいいのに。
ロイだって、淡々と作業っぽい感じで口に運んでいるから、絶対美味しいと思って食べてるわけじゃなさそう。
もしこの体が本当に子供なら、野菜スープだけじゃ栄養足りないだろうしな。
ロイってば、ベジタリアンの人なのかしら……。
「チーロ、今日は町に行くよ。教会に行って調べてもらえば、君の生まれもわかるかもしれない」
そう言いながら、ロイはこちらを伺うみたいに見ている。
多分、お家騒動に巻き込まれたのを疑ってるのかな。
それだと、調べて私がここにいるのわかっちゃったらまずいもんね。
けど、ここに来るまでの何も覚えてないから、ルーツ的なものがわかるんなら知っておきたい。
「うん」
「それに、君の服も買おう」
「いいの?」
「もちろん」
飴と鞭の飴ですかね。
でも、着替えほしいし、そのお申し出は非常にありがたいです。
ロイはすっぽりとフード付きのローブをかぶった。しかも分厚い眼鏡なんかかけちゃって、首にも何重にもストールを巻いて、すっかり綺麗な顔が隠れちゃってる。
あっやしー!
少し猫背気味なのも相まって、完全に絵に描いたような怪しい魔法使いだ。
その格好で私連れ歩いて大丈夫?
幼児略取誘拐疑われない?
「行くよ」
「うん!」
この家、馬がいるんですよ。馬!
あと、山羊が一頭。
馬がゴルドで、山羊はミルフェっていうんだって。
さすが貴族様、こう見えて裕福なのかな?
ロイはゴルドに私を乗せると、その後ろにひょいっと飛び乗った。
「え、かっこいい」
「そう?」
ロイの意外なカッコ良さにびっくりした。
てっきり運動できない子かと思ったら、馬に乗れるんだ……。
いや、だって、ロイほっそいし……背は高い癖に、かろうじて骨と皮じゃない、ってぐらいの細さなんだもの。
「うまにのれるの、ふつう?」
「貴族の子なら、だいたい乗れるんじゃないかな」
ほう、貴族の子ならではの基本技能って感じ?
けど、せっかくならゴルドもいるし、私も乗馬できるようになりたいな。
しばらく馬に揺られていくと、門みたいなのが見えた。
乗ってきた馬は町の出入り口のところで預けて、入場料みたいなのを払う。
町はぐるっと塀に囲まれてるってわけでもなくて、出入り口からじゃなくても入れそうなのが不思議だ。
きょろきょろしてると門番さんが不審げにロイに話しかけた。
「おい、あんた。その子はどこから連れてきた」
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