第3話 おっときました尋問タイム
お兄さんが立ち上がると、ベッドサイドにあった毛布みたいなのも立ち上がり、のっそりとついてきた。
犬か。
茶色いラグじゃなかったんだ。
似ている犬種を上げるとするなら、ニューファンドランドだろうか。カナダとかの海難救助犬やってるやつ。
でっかい犬だ。
今の私のボディなら、上に乗れちゃいそう。
隣の部屋の中央に置かれた4人掛けテーブルの上にはスープが二皿、湯気を立てている。
お兄さんは私を膝の上に乗せて腰掛けた。
「神よ、今日も恵みに感謝いたします」
お兄さんはお祈りをしてスプーンを手に取ると、少し迷っている素振りを見せた。
「あの、じぶんでたべられる……から……」
「そう?」
「いただきます」
自分でスプーンを持たせてもらい、スープを口に運ぶ。
私の身体を気遣ってくれたのか、キャベツっぽいものを水から柔らかく煮込んだだけ、という感じのスープは、塩味も薄くて、かなり味気ない。
それでもせっせと食べておなかが温まると、やっと一息つくことができた。
「ごちそうさまでした」
スプーンを置いて手を合わせる。
「もういいの?」
「うん」
「では、私も食事をさせてもらうね」
お兄さんは私を隣の椅子に座らせると、もう冷めてしまったスープを食べ始めた。
そのスープは私が食べていたものとまったく同じに見えた。
私はお兄さんが食事をするのを横目に、室内へ視線を巡らせた。
……このテーブルは四人掛けだし、食器は複数あるみたいだけど、何人家族なんだろう?
さっきのベッドも、大き目ではあったけどセミダブルくらいだったしな。
お兄さんサイズの人が二人寝るのは、ちょっと苦しそう。
本棚はあるけど、そこいらじゅうに本が積み重なっていて、肝心の本棚はスカスカ。羊皮紙みたいなものが重ねられた山もある。
それから目立つものといえば、葉っぱ?
干してあるのか、それとも飾ってあるのか、階段の手すりに束ねた葉っぱがずらっとぶら下げられている。
漢方薬っぽい匂いはその葉っぱからのものだろう。
薬草なのかな、とも思ったけど、ニンニクとかショウガとかトウモロコシっぽいのもあるから、食料の可能性も捨てきれない。
これって、漫画とか小説で見たことがある異世界転生って奴なんだろうか。
さっき食べたスープがこの世界の料理の基準なら、料理チートができてしまうかもしれない。
お兄さんはスープを食べ終えてしまうと、私を抱えてソファに移動した。
やっぱり犬ものっそりと付き従うみたいについてきたけど、この犬もまた大人しいな。
静かに私たちの足元で丸くなっている。
うーん、膝の上。落ち着かない……。
抱えていてもらわないと目線は合わないんだけども。
これって私が小さいのか、お兄さんの背が高いのか、どっちなんだろう?
それにお兄さんの声ちっさいから、抱えてでもくれなきゃちゃんと聞き取れない。
「私の名前はレクサノール=スクラネカ」
「れくさのーる、すくらねか?」
「ロイ、でいい」
何故、レクサノールがロイになる?
「このスクラネカ領の領主家の者だ、一応ね」
領主、ってことは封建制の世界なのか。
そんなお偉いさんが、いくら見た目幼児とはいえ、不審者とふたりっきりでいいものなんだろうか。
子供爆弾とか心配しないの?
それとも血縁関係にあるっていうだけで、実権はないのかな。
こんな自信なさそうな小さい声の人が権力者っていうのも考えにくいもんね。
あと、この家、あんまり偉い人の家には見えないしね。
どっちかというと、魔女の家って言われた方がしっくりくる。
「その子はペス。女の子だ」
「わふ」
伏せていた犬は、呼ばれた名前に応えて、垂れた耳を動かす。
うわ、賢いなこの子。
ちゃんと紹介されてるがわかるんだね。
「それで君は自分の名前、言えるかな?」
おっと、尋問タイムきましたよ。
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