第一章 はじめまして異世界
第2話 見知らぬ天井
「まぶしい」
瞼の裏が明るくなって、小さく声を出してみた。
喉が震える感じがあったから、多分これは現実。
ゆっくり目を開けてみると、梁がそのまま見える天井があった。
「……は?」
どこだ、ここ。
木製のログハウスっぽい天井って、どこの野戦病院だよ。
目だけで室内を見渡せば、カントリーっぽいというとイイ感じに言いすぎる素朴な設えが見て取れた。
少なくとも頭を打った人間を収容していい設備じゃないよね。
装飾っぽいものも床に打ち捨てられた茶色のラグしかない。
「よかった、目が覚めた?」
うっかりすると聞き逃しそうなくらいに小さな声で話掛けてきたのは、プラチナブロンドっていうんだろうか、色のうっすい金髪を長く伸ばしてサイドに流し、顎の下あたりで緩く結んでいるお兄さんだ。
着ている服は腰でひもを結んでいたりして、どこかの民族衣装っぽい。
「てんし?」
ここ、天国なのかしら。
それにしてはやけに地味な内装の部屋だけども。
しかしなんだ、こう、目がちかちかする美形。
整いすぎて作り物なんじゃないかってくらいの現実感のない美しさ。
ただちょっとはかなげ、というか、風が吹いたら消えてしまいそうなくらいに頼りなくて、そこがまた人間っぽくない。
二十代くらい、かなぁ?
美形すぎるし、海外の人っぽくていまいち年齢が掴めない。
「はは、私からしたら君の方がよほど天使に見えるけどな」
お世辞ですかね? それとも嫌味? いや、嫌味なんて考えたこともなさそうなお育ちのよさげな雰囲気だけど。
しっかし、さっきから声小さいな!
もう少し元気出そうよ、お兄さん。
お兄さんは持ってきたものをサイドテーブルに置き、私が寝ているベッドに腰掛けた。 ……んん?
縮尺、おかしくないですかね?
近くで見るとお兄さん、妙にデカいような……。
「どう? どこか痛いところはない?」
「……ない」
あれぇ?
私階段から落ちたよね?
なのに、何でどこも痛くないんだろ。
不思議になってもぞもぞ身体を動かし、布団から手を出そうとすると、お兄さんの顔が近づいてきた。
……傍で見ると結構肌荒れてるな。
かさかさしてる。
ちゃんと保湿した方がいいですよ、お兄さん。
「っ……」
って、近い!
近いですよ、お兄さん!
「うん、熱はないようだね」
思わず目を閉じた私の髪を掻き上げると、こつんと額を重ねてきた。
えぇ……見知らぬ他人に普通こんなことする?
距離感の近すぎるお兄さんを押しのけようと手を伸ばして、私はぎょっとした。
なに、このムチムチお手て!
短い指に丸っこくて小さな爪がついた小さな手はまるっきり子どものもので、私は、どうやらお兄さんが大きいのではなく、私が小さくなっているのだということを認めざるをえなかった。
わけのわからない状況に、伸ばしたままの手をぐーぱーしていると、お兄さんは体を起こして、私を座らせてくれた。
「どう、喉は渇いていない? 水は飲めるかな?」
木をくりぬいたこれまた素朴なコップを差し出されて、私は両手で受け取る。
入っている水は生温かったけど、やっぱり喉は渇いていたらしくて、口の端から溢す勢いで飲んでしまう。
「ぷはぁっ」
言われてみると確かに声とか慣れ親しんだものより少し高いわ。
微妙に舌回ってない感もあったし。
「ありがとうございます」
お礼を言ってコップを返すと、お兄さんはコップをサイドテーブルにおいて、私を抱きかかえた。
「ひぇっ」
「おなかも空いているだろう? ご飯の用意をしてあるんだ」
腰が引けて悲鳴を上げた私の背中を、お兄さんはトントンとあやしつけてくれる。
いい人すぎてびっくりするわ。
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