四日目 希望と絶望 後編

 五限、六限が終わり、掃除の時間が始まった。掃除をしていると先生が教室に来たので俺は先生の方に行った。周りはまじめに掃除を行ってる者、ふざけている者いたが、俺と先生の周りには近くはいなかった。


 「先生」


 「どうした?」


 「俺あの後、伝えました。陽菜ひなにほんとの事を全部」


 「そうか、よかったな。これで少しは気が楽になったんじゃないか?」


 「そうですね。けど、まだ妹や和真かずまには伝えていないので、それがまだ ちょっと...」


 「ああ、なるほどな。けど、吉田よしだに伝えられたならその二人にも伝えられるんじゃないのか?」


 「妹に関しては今日、陽菜ひなが手伝ってくれるらしいので伝えようかなと思っています。ただ、陽菜ひなには側にいてもらうだけで、自分の力で頑張ろうかなと」


 俺は五限と六限でずっと考えていた。俺がこれからどうしていけばいいのか、どう行動していけばいいのか。


 俺は今日陽菜ひなと約束していたことを考えた。


 陽菜ひなに手伝ってもらってばっかいいのか、それで俺は変われるのか。いや、変われない。多分陽菜ひなに手伝ってもらってばっかりじゃ俺は変われない。今まで通りの俺のままだ。一人で伝えるってなった場合、また逃げるかもしれない  そう思った。


 だから、俺は陽菜ひなに側にいてもらうだけでいいと思った。陽菜ひなが隣にいるだけで勇気がもらえる。だって陽菜ひなはとても心強い俺の





 彼女だから。






 「そうか。それでお前ができるならそれでいいと思うぞ」


 「頑張ってみようと思います。ただ、和真にはどう伝えようか悩んでて。先生はどう思いますか」


 「そうだな。俺が仮に和真かずま側だったら、俺は一対一で話してほしいと思う。他の人とか交えずにな」


 「そうなんですか?」


 「ああ、だって男通しの会話に女がいるってのも変だし。なによりお前らは親友なんだろ? だったら二人で話したがいい。何事も打ち解けあう仲。それが親友ってもんだ。だから、お前は二人で話すべきだ」


 「そうですね。わかりました。ありがとうございます」


 俺は先生から勇気をもらった気がした。



 けど、それでもほんの少しだけ、勇気が足りないようにそう感じた。







 掃除のチャイムが鳴ったころ、私は自分の掃除場所に来ていた。私の掃除場所は教室とは別の棟の科学教室前の廊下だ。もう一人、私と一緒の掃除場所の人がいるが、それは、、


 「おい、陽菜ひな。お前に聞きたいことがある」


 「何かな? 和真かずま君」


 私と和真かずま君の二人がここの掃除である。科学教室の中には他の掃除をしている生徒もいるが廊下には私達二人である。


 「おかしいと思ったのは一昨日からだった。顔もいつも通りじゃねぇ。雰囲気も全然違ってた」


 「え、」


 「火曜日も顔色が悪かったが、それだけだった。態度が明らかにおかしくなったのは一昨日からだ」


 やっぱり和真かずま君も気づいていた。けど、


 「りょうちゃんに聞かないで私に聞くっていうのはどうしてかな?」


 「昨日、お前らが喧嘩したって亮哉りょうやから聞いた。一昨日の感じも喧嘩していたからなのかと思いはしたが、昨日のお前の朝の様子とか見てる限り喧嘩のことじゃないと分かった。そして、今日になってなんだか亮哉りょうやは少しすっきりしたように見えた。てことはだ、喧嘩とは言っていたが、あれは何かを隠したくてお前のことを傷つける何かを言ったんじゃないのか? 例えばそうだな “別れよ“みたいな。そして今日になったら仲良しに戻っていた。もちろん亮哉りょうやの様子でまだ変に感じるところはあったが。で、だ。陽菜ひな、お前には話したんじゃないのか? 亮哉りょうやが隠していることっていうのを」


 驚いたなぁ。まさかここまで分かってるなんて。


 「それを私の口から聞いていいの? 本人の口からきかなくていいの?」


 「あいつは話さないだろ。お前を傷つけてまで隠したかったことだろ? 今になって俺に話しに来ないってことはそういうことだろ」


 確かにりょうちゃんは話すことをためらってた。やっぱり伝えるのは怖いからだと思うし。さっきだって、


 「さっきだって、俺が亮哉りょうやに“ずっとよろしくな”と言ったことに対してためらう様子があった。ここから考えるにあいつはもうすぐしたらどっかに転校するってことじゃないか? 最悪の場合、、いや、これは無しで...とにかくこれが間違てるかもしれないが。そんなことを隠してたんじゃないのか?」


 私はただただ驚いた。和真かずま君がここまで考えていたことに。


 私は教えていいのか悩んだ。和真かずま君にはほんとのことを話したがいいと思ったから。彼にとってりょうちゃんはかけがえのない友人だから。それでも、


 「私からは教えられない。やっぱりそれはりょうちゃんから教えてもらって?」


 「そうか。分かった」


 そして、和真かずま君は背を向けえて廊下から外へ出ようとした。


 「も、もう少しだけ。 もう少しだけ待っていてほしい。もう少しでりょうちゃんは伝えられると思うから」


 私はそれを伝え、和真かずま君は出て行った。和真かずま君の背中はとても





 悲しく見えた。





 そして、科学教室から科学教室の掃除担当の大久保おおくぼ校長が出てきた。


 「廊下の方はちゃんと掃除やっていますか?」


 「あ、」


 「あれ、確か山田やまだ君でしたっけ? 見当たりませんね。彼はどこに行きましたか?」


 「あ、えっとーー」


 やばい。やばい。えっと。えっと。


 「彼はトイレに行きました。なんでもおなかが痛いらしくて」


 私はそう返した。


 「そうですか。けど、掃除中にトイレに行くのは感心しませんね。えっと、吉田よしださん彼に帰りのHRが終わったらすぐに、いいですかすぐにですよ? 校長室に来るように伝えてください」


 「あ、はい。分かりました」



 なんかごめんなさい



 と私は心の底から思った。







 掃除も終わったので帰りのHRが始まった。


 「明日のことだが、明日は土曜日だけど土曜授業があるから普通に学校来いよ。時間割は、、、後ろの黒板に書かれてるな。四時間目までだから弁当はいらないからな。それと、明日、サッカー部は遠征で学校には来れないことは聞いている。じゃあ以上だ」


 帰りのHRが終わり、俺は帰る前に少しだけ和真かずまと話そうと思っていたが、


 「ごめん、和真かずま君。実は・・・」


 陽菜ひなが先に話しかけた。


 「てなわけで、ごめんね」


 「まじかー。じゃあ行ってくるか。じゃあな亮哉りょうや


 「お、おう」


 そして、俺と陽菜ひなは学校を出た。


 「なんかごめんね。さっき話に行こうとしてしてたし」


 「ああ、まあいいよ。日曜に話すよ。電話よりも直接がいいし」


 「そうだね。直接がいいよ」


 「それに、今は梨花りかに伝えることも大事だし」


 「これから家で待っとくんだよね?」


 「そうするつもり。けど、陽菜ひなには、、」


 「分かってる。側にいるだけでいいっていうんでしょ」


 「正解。ありがとな」


 「いいよ。全然」


 「あと、寄りたいとこあるんだけどいいか?」



 俺はせっかくだから今までのお礼にプレゼントを買おうと思い提案した。陽菜ひなはいい案だと提案に乗ってくれてプレゼントを買いに行った。






 その頃・・・


 「えーだからね、こういうことだからね。また、あーだからこうなるってことを考えなきゃいけないんですね」



 あーくそ。こいつまじで、どんだけ話が長いんだよーーーーーーーー








 俺は陽菜ひなとプレゼントを決めて、買った後一通り買い物をしてから帰った。今日は俺が夜ご飯当番ということもあり、そのための買い物だ。


 「ただいま~」


 「おじゃましまーす」


 俺は家に入り手を洗った。俺は台所に今日買った食材などを並べ、料理の準備をした。陽菜ひなは俺のお父さんとお母さんに線香をあげてくれた。


 「じゃあ始めようか」


 「ああ、そうだな」


 俺と陽菜ひなは料理を作り、完成した料理を机に並べた。


 そして、俺と陽菜ひな梨花りかの帰りを待った。


 帰ってきたらちゃんと伝えよう。ほんとの事を。もう逃げない。絶対に。だからちゃんと伝えよう





 しかし、梨花りかは帰ってこなかった。





 七時を過ぎた。それでも、梨花りかは帰ってこなかった。


 俺は不安に思っていた。なんで帰ってこないのか。




 すると、家の電話が鳴った。


 「はい、山崎やまさきです。あ、先生どうしたんですか?」


 電話の相手は先生だった。だが、その声はとても弱弱しかった。そんな先生が俺に用心して聞けと言ってきて・・・



 俺は電話の奥から言われたことを聞いて信じられず、



 電話を床に落とした。


 「え、どうしたの? りょうちゃん」


 「・・・」


 俺は何も考えられなかった。すべての思考が停止した。事実を受け止められないでいた。


 「え、大丈夫?」


 陽菜ひなは何も反応しなくなった俺を見て何があったのか疑問に思い、


 「お電話変わりました。  はい  はい。  え、」


 陽菜ひなも電話から言われたことに信じれずにいたのか、そのまま動かなくなった。



 そのまま静かな時間がしばらく続いた。



 先生が俺の家に着いたのか、家のインターホンが鳴った。


 「ねぇ、とりあえず行かない?」


 そうだ。そうだな。嘘かもしれない。電話で言われたことは違うかもしれない。


 俺と陽菜ひなは立ち上がり、家を出て先生の車に乗った。



 いいか。亮哉りょうや。用心して聞けよ。お前の、、お前の妹は、、







 私は委員会で遅くなり六時になろうとしたくらいに学校を出た。


 「今日は、お兄ちゃんが当番だし、ゆっくり帰ってもいっか」


 そう思い、私はゆっくり帰った。いつもの道をいつものように帰っていた。


 私は横断歩道が赤になったので止まった。そして、スマホをいじって調べ物をしていた。


 明日の朝ごはん何しようか、明日の夜ご飯何しようか。そんなことを考えながら青になるのを待っていた。



 きゃああああああああああああああああああああ


 いきなり悲鳴が聞こえた。私は気になって正面を向いた。


 すると、横断歩道の上に赤信号に関わらず小さな少年が歩いていた。そして、道路の左から、トラックが走ってきていた。悲鳴はその子のお母さんらしき人物が言っているようだった。私はその少年を助けようとした。



 が、遅すぎた。今私が走りに行っても助からない。そう確信できるほどトラックはもう間近に来ていた。私は怖くなった。これから起こることに。そして、目を瞑った。



 やはり、気になったのか私は目を開いた。そしたらトラックは





 私の目の前に来ていた。





 少年の前でギリギリハンドルを切ったのかトラックは私の方に向かってきていた。トラックは止まる様子もなかった。



 


 ああ、私が死ぬのか。そっか...少年を見殺しにしようとした罰かな...


 私は世界がゆっくりに見える中、涙を流した。



 なんだろう。もう終わるのかな。あぁもっと生きたかったな。あぁ、





 お兄ちゃん






 大好きだよ。





 ドカーン!!


 大きな音がそこら中に響いた


 「おい、誰か引かれたぞ」


 「救急車だ。誰か救急車を呼べ」







 俺達は病院に着いた。先生が車を止めると同時に俺は陽菜ひなのいる病室に向かってダッシュした。先生が車の中でどこにいるか教えてくれていたので。場所はどこか分かっていた。


 梨花りか梨花りか梨花りか梨花りか梨花りか


 俺はエレベーターを待つ時間が惜しく、階段を駆け上った。そして、部屋の前まで来て。


 「梨花りか!!」


 俺はドアを開いた。


 ドアを開くと、お医者さんと警察の人、作業服を着たおじさん。そして、小さな子供とその母親がいた。そこには、俺の余命を宣告したお医者さんもいたそうだ。が、俺はそんなことに目もくれず、梨花りかくらいの背丈の人が白い布に覆われているのを見るだけだった。


 「ああ、ああああ」


 俺はベットに駆け寄って屈みこんだ。遅れてだが、先生と陽菜もやって来た。


 「亮哉りょうやくんですね。残念ですが妹さん。梨花さんは亡くなっています。本来なら親族であるあなたに一番に連絡するところでしたが、身分を証明できるもがなく、制服を着ていたので先に学校の方へ連絡をさせていただきました」


 なんで、なんでこんなことになってるんだよ。こんな、どうして。


 「先生。梨花りかはどうしてこんなことになっているんですか?」


 「それは、」


 「すみません。私が悪いんです。私が彼女を殺したようなものです」


 俺はお医者さんにどうしてこうなったのか聞こうと思ったが、一人の女性が話に入り込み、私が悪いと言い出した。


 は? 今なんて言った?


 俺はその女性の言葉を聞いた途端、体中から怒りが溢れ出て来た。


 「お前が、梨花りかを!!」


 俺は気づいたら立ち上がり、その女性へ殴る姿勢でいた。


 「亮哉りょうや!!」


 俺は先生の言葉により、体を止め、少しだけ冷静になって拳を降ろした。


 そうだよな。別にこの人だけが悪いんじゃない。先生からは事故って聞いている。概ねそこにいる少年が飛び出して来たところに、トラックが突っ込んできたんだろう。そして、それに梨花は巻き込まれて...


 「うう、ううう」


 俺はベットに寄りそり、座り込んだ。


 そして、警察の人がどういう経緯で事故が起きたのか詳しく説明してくれた。そして、バスの運転手の人、二人の親子がそれぞれ俺に真剣に謝って来た。


 俺にはその記憶はあまりなかった。何か言ってるように感じたけど。言葉は聞き取れなかった。




 俺は何も考えられずにいたから。





 ただ、何も、、





 しばらく経ったらしく、部屋には俺とお医者さんと先生と陽菜ひなしか残っていなかった。どうやら明日、葬式をするらしい。先生が俺の代わりに決めていてくれたようだ。俺は何も考えれていなかったのでありがたかった。陽菜ひなの顔は見れていないが、女性の泣いている声はずっと聞こえていたので、多分それだろう。その後、俺と陽菜ひなは先生の車に乗り家へ帰った。




 「じゃあここでだな」


 「ねえ、りょうちゃん。私も一緒にいようか?」


 陽菜ひなは俺のことを心配してくれていた。陽菜ひなだってつらいはずなのに。


 「いいよ。今日は一人にさせてくれ」


 「そっか。また明日も来るから。じゃあね」


 「ああ、また」


 俺は暗い声で陽菜ひなの提案を断った。俺は家に入り、先生は車で、陽菜ひなは歩いて帰っていった。


 

 俺は家に入りまっすぐ俺の部屋へ向かった。そして、ベットに顔をうずめた。


 梨花りかが死んだ。梨花りか梨花りか梨花りか梨花りかが。俺の妹が死んだ。


 「うわわあああああああああああ。くそっ。くそっ。なんでなんだよ。なんでなんで、なんで梨花りかが死ぬんだよ。俺がもう少しで死ぬ。それだけだったはずなのに。今日伝えようってそう思っていたのに。なんで、なんで」


 俺はひたすら泣き続けた。大きな声を出して。部屋いっぱいに声が響いた。


 夜はまだ長かった。長い長い夜に俺の声が響いた。ずっと...


 そして、自分が嫌になった。さらに嫌いになった。




 伝えなければいけないことを伝えられない自分に









 絶望した。

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