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「はいぃ、次はぁ、
姫乙はそれだけを告げると再び教室の引き戸を閉めた。ピシャリと音が響き、そして小雪が立ち上がった。名前の通り小柄であり、ナチュラルなメイクでも充分すぎるくらい可愛らしい顔立ちをしている。正真正銘の御令嬢であり、たまに常識を知らない立ち振る舞いをする時があるのだが、男子生徒からの評判は良い。ただし語尾に「ですわ」とつけてみたり「ごきげんよう」などとは言ったりはしない。
小雪が出て行ってしばらく。力なく教室の引き戸を引いた小雪の顔は、ただでさえ透き通ったような白なのに、さらに血の気が引いていた。顔が真っ青になっていると表現すべきか。
「次ぃ、
伊勢崎が戻ってくると、
こうして、着々と個人面談が続けられた。戻って来た時のリアクションはそれぞれであったが、ネガティブな方向のリアクションばかり。でも、そんなマイナスの表情を見せておきながら、実はアベンジャーに選定されている人間が、すでに混じっているかもしれない――そう考えると、誰もが怪しく見えて仕方がなかった。
千奈美の次に呼ばれた
安藤は片桐がいないと困るし、片桐は安藤がいないと困る。クラスでのヒエラルキーが低い2人は、なかば共依存のような関係だった。そんな片桐が、教室を出る時に安藤へと視線をくれてきた。しっかりとアイコンタクトをしてやる安藤。個人面談に向かったところで命は取られないし、淡々と姫乙から残酷な事実を知らされるだけだ。しかし、どうにも家族を戦場に送り出すような気分になってしまうのは、それだけ現状が異常な状態だということなのであろう。
当然だが何事もなく片桐も帰ってきて、実にテンポ良く個人面談は続いた。
「次ぃ、進藤舞さーん」
少しばかり時間が空いてしまったが、それには一切触れずに姿を現した姫乙。個人面談なんて嬉しいものではないはずなのに、なぜだか彼女が胸をなで下ろしたかのように見えた。
坂崎の後で少しばかりもたついたが、その後の個人面談はスムーズに進められた。
昼休みから始まって、いまだに非現実的な空間の中にいる。ここから解放されるのは、果たしていつのことになるのだろうか。
姫乙が戻ってきた。恐らく廊下での待機を命じられたであろう管理委員会も一緒だった。姫乙の後に続き、教壇に彼が立つと、その脇で小銃を抱えてカカトを打ち鳴らす。なんだか動きがたどたどしくて、不慣れであるように見えた。新人だろうか。
「さてぇ、これで個人面談は終わりですがぁ、その中で質問がありましたからぁ、諸君らがこうして集まっている間にぃ、それにお答えしようと思いますぅ。ただ、その前にぃ――」
間延びした喋り方はなんとかならないのだろうか。この状況下には間違いなく合わないし、なんだか小馬鹿にされているような気になってしまう。
「個人面談にこれだけ時間がかかるとは思っていなかったでしょうから、喉が渇いたことでしょう。ご要望がありましたのでぇ、こちらで飲み物を用意しましたぁ」
言われてみれば確かに、個人面談だけでも数時間が経過している。もちろん、喉はカラカラだった。喉の渇きを覚えた者もいただろうが、なんせ管理委員会が教室の出入り口にて小銃を抱えている。安藤と同じように我慢していた者もいることだろう。まぁ、水分が摂取できないことで尿意を覚えなかったのは幸いだったが。
姫乙が手をパンパンと叩くと、新人っぽい管理委員会の人間が教室を出て行く。そして、しばらくすると小銃の代わりに、小さな牛乳パックが沢山入ったケースを抱えて戻ってきた。相変わらず動きがたどたどしいし、ケースを持ったまま教壇を上ろうとして蹴つまずいた時にはひやりとした。ことなきを得たわけだが危なっかしい。
「牛乳でぇぇす。やはり学校での飲み物と言えば牛乳ですよねぇ? 身長はぐんと伸びますし、女子なんかは特に――ね。特に大切ですから。牛乳というやつはね。あぁ、具体的には言いませんがぁ、やはりぃ、男子は大きいほうが好きなのでぇぇす。大は小をかねますぅぅ」
よりによって、どうして牛乳なのか。この際、喉の渇きが癒せるなら何でも良いが、贅沢を言うのであればシンプルに水とかお茶のほうが良かった。
「ではぁ、早速誰かに配っていただきましょう。そうですねぇ、独断と偏見でぇ、ここはやはりぃ、出席番号1番に損をしてもらいましょうかぁ。出席番号1番は基本的に損をする運命にあるのですぅ。その代わり、名前も覚えてもらいやすいぃ。安藤奏多くーん。出席番号1番の安藤奏多くーん」
挙げ句の果てに、どうして自分がみんなに牛乳を配らねばならないのか。思わず姫乙のほうに視線を移して溜め息。
「いや、ほらぁ――こんなことを言うと失礼だと思うんですけどぉ、安藤くんってぇ、パシられ属性があるように見えましてぇ。むしろ、それがデフォルトなんじゃないかと思いましてぇ」
それを否定できない自分が嫌だった。自分はクラスでのカーストも低いし、頼まれごとという形であるが、使いパシリの真似事は何度もしたことがあったからだ。
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