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もう、確実におかしくなっていることは分かっていたし、自分達が正常な地点まで戻ることは困難だと分かっていた。しかし、姫乙の言葉にクラスがざわついた。あまりにも姫乙が嬉しそうに言うものだから、それに現実感が伴わなかったのだ。
「私はぁ、小さい頃から思っていたんですぅ。ヒーロー物とかで、怪人がやられるとね、最期は盛大に爆発するんですよぉ。それどころかぁ、戦隊物のヒーローなんてメンバーが揃ってポーズを決めるだけで、後ろで大爆発が起きるんですぅ。だからね、私は幼い心ながらに思ってたんですよぉ――爆発し過ぎじゃね? ってねぇ。その頃からですよねぇ、私が爆発に性的興奮に似た何かを抱くようになったのは。ですのでぇ、爆発は私が付け加えさせて貰いましたぁ。純粋なるアベンジャーへのご褒美は、アベンジャーを除くクラスメイト全員の餓死――というところまでですぅ」
勝てばアベンジャーの追放。負ければ――結局のところ死。これから行われる【糾弾ホームルーム】で真相を暴くしか、クラスメイトのみんなが助かるすべはないということか。
「さてぇ、これが【糾弾ホームルーム】の簡単なルールになりますぅ。もし負ければ、ベッタベタなデスゲームあるあるの全員死亡というフラグぅ。しかも、そこに追い打ちをかけて爆発するわけですぅ。子ども達に大人気のデスゲームアンチとしてはぁ、アベンジャーにはもちろん、諸君らにも頑張っていただきたいと思っているのですぅ。言っておきますが、私達はいたって公平。アベンジャーの復讐のお膳立てはしますがぁ、特に【糾弾ホームルーム】においては公平な立場にある。ですからぁ、安心して挑んでいただきたいぃ」
姫乙は便箋を封筒の中に戻すと、それを胸ポケットに差し込む。見た目はごく普通の封筒のはずなのに――あれには恐ろしいほどの悪意が纏わり付いている。
「これで大まかな説明は終わったしぃ、そろそろ【糾弾ホームルーム】を始めようと思いますぅ。ただ、その前にもうひとつだけ――」
姫乙は教室の出入り口のほうに視線を向ける。すると、兵隊らしき奴が道を譲るかのごとく引き戸から離れた。それを見て「どうぞ! お入りください!」と、声をかける姫乙。すると、廊下のほうが少し騒がしくなった。
「本番行きまーす! 5、4、3――」
外から男の声が聞こえ、そしてカウントダウンのようなものが途中で消えてからすぐのこと。今度は綺麗で透き通った女性の声が聞こえてきた。
「みなさん、こんにちわ。大日本帝国報道局の
これまで以上に教室がざわついた。そこに入り混じる不安や恐怖、そして
「これは私達を含めぇ、大日本帝国政府の間でも揉めたのですがねぇ、諸君らがモデルケースの第一号というのもあり、大々的に国民のみなさまに、超法規措置『正当復讐法』のことを知っていただきたいと思いましてねぇ――【糾弾ホームルーム】をリアルタイムで全国放送させていただくことになりましたぁ。と言っても、国が運営している大日本帝国報道機関の独占放送になりますがねぇ」
狂っているし、発想がぶっ飛んでいる。これから生き死にをかけた議論を交わそうとしているのに、それを一部始終、全国放送するというのか。となると、最悪の結末まで、密着取材されてしまうこともあり得るだろう。
「それでは、早速これより教室のほうに失礼させていただこうと思います」
きっと、カメラの向こうの視聴者に向けて言っているのだろう。アナウンサーらしき女性の声が聞こえ、しばらくもしないうちに引き戸が開いた。
「お取り込みすいませーん。私、大日本帝国報道局アナウンサー、池川アンジョリーヌです。――あ、早速ですが、ご覧ください。亡くなられた7人の生徒の机には、菊の花が挿された花瓶が置いてあります」
アンジョリーヌは、かなりの頻度でテレビに出ているハーフのアナウンサーだから知っている。大日本帝国政府お抱えのテレビ局の人気アナウンサーでもあるから当然であろう。そんなアンジョリーヌに続いてカメラマンに音声、そして照明などが教室に入ってくる。どういうわけだか、アナウンサー以外は大きなマスクにサングラス、それにお揃いの黒のニット帽で顔を隠していた。アンジョリーヌはカメラ越しの視聴者に向かって話しかけるようなスタンスで続ける。
「これまでの事前放送でお分かりのように、法案施行におけるモデルケースとして選ばれた、大日本帝国大学附属高校2年4組の教室で復讐が果たされました。そして、この中に法案の恩恵に預かり、7人ものクラスメイトを殺害したアベンジャーがいるのです。それをこれより【糾弾ホームルーム】にて明らかにしていくわけです。では、せっかくですからお話を聞いてみましょう」
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