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「ではぁ、すでに説明しておいた通りぃ、これより諸君らには【糾弾ホームルーム】を行なっていただきますぅ。これも説明不要でしょうが、実に7人ものクラスメイトを殺害したアベンジャーは、当然ながら諸君らの中にいるということになりますぅ。つーまーりぃ、これから行う【糾弾ホームルーム】は、アベンジャーが誰なのかを議論することを目的としているのですよぉ」
最初は何かの冗談ではないかと思っていた。仮に姫乙の言っていることが事実であっても、本当にクラスメイトを殺してしまうアベンジャーが出るなんて思いもしなかったのである。――覚悟しなければならない。そして、受け入れなければならない。これが現実であり、冗談でもなんでもないことを。
「制限時間はきっかり1時間。言うまでもありませんがぁ、諸君らには充分な材料を与えますぅ。ゆえにぃ、議論が行き詰まるということはない。正しく議論を繰り返せばぁ、必ずや真相にたどり着けるはずですぅ」
姫乙はそこで言葉を切ると、手をパンパンと叩いた。それがやけに教室へと響き、まるで耳鳴りであるかのように残響と化した。
「ホームルームの進め方は諸君らの自由。とにもかくにもぉ、1時間後に結論をひとつ出していただくぅ。すなわちぃ、アベンジャーは誰なのか。諸君らで力を合わせて答えを導き出して下さいぃ。まぁ、その中にぃ、アベンジャーも混じっているわけですがぁぁ」
このクラスの中にはアベンジャーという特殊な役割を与えられた人物がいる。そのアベンジャーは、すでに事前の調査で選出されており、選ばれた本人は自身がアベンジャーであることを知らされている。そして、安藤達の日常を壊した法案――超法規措置『正当復讐法』とやらによると、アベンジャーに選ばれた者は……限定的な範囲においての復讐が合法として認められ、そして罪に問われない。頭のネジがぶっ飛んだ法案であり、国民には非公開で話が進められたらしいが、そんな細かいこと、安藤達にはどうでも良かった。自分達のクラスが、その超法規措置『正当復讐法』のモデルケースとして選ばれたこと自体が問題なのである。
「なぜにぃ【糾弾ホームルーム】なる話し合いの場を設けるのかぁ。細けぇこたぁ気にするなぁ。ただ、強いて言うのであれば、これは諸君らに対する救い――
アベンジャーが学校という限られた範囲内で復讐を果たす。まさか本当にこんなことが起きるとは思っていなかったが、なんと7人ものクラスメイトが毒殺されるという最悪な形で、超法規措置『正当復讐法』が適応されたのが現実だ。
「私はぁ、この学校で起きたこと全てを把握していますぅ。もちろん、7人ものお友達を毒殺したアベンジャーがぁ、この中の誰なのかも知っていますぅ。よって、諸君らが導き出した答えが正しいのか否かを正確にジャッジすることが、でーきーまーすぅ」
姫乙は教壇を離れ、試験の時の先生であるかのように、教室の中を歩き出した。明らかな敵意を向ける者、
「もし、諸君らが復讐を果たしたアベンジャーを見事に当てることができればぁ、そのアベンジャーは追放されますぅ。デスゲームあるあるのぉ、問答無用で殺されるようなことにはならない。追放されるまでぇ、アベンジャーは『正当復讐法』の保護下にあり、その保護の下で果たした復讐に関してはぁ、合法なのですぅ。すーなーわーちぃぃぃ、仮に【糾弾ホームルーム】で正体を暴かれてしまってもぉ、アベンジャーは命を取られるわけではないしぃ、さかのぼって復讐を罪に問われたりもしない」
机の合間を歩き、後ろの壁に到達すると、歩く列を変えて教壇のほうに向かう姫乙。
「そもそもぉ、この法案は弱者のために提言されたものでありぃ、アベンジャーが優遇されるようになっているのですぅ。ゆえにぃ、正体を暴かれた時点でぇ『正当復讐法』の権利を失うだけで済むのですよぉ」
この法案におけるアベンジャーは、どういうわけだかひどく優遇されている。ただ、姫乙は法案のことを詳しくは話してくれない。安藤達が知っているのは、このクラスの中にはアベンジャーという特別扱いを受けている人間がおり、学校という範囲内に限っては、復讐という名の殺人が認められているということ。そして、アベンジャーが復讐を果たした後には【糾弾ホームルーム】が開かれ、アベンジャーを文字通り糾弾することができるということくらいだ。
「逆に諸君らが【糾弾ホームルーム】で導き出した答えが間違っていた場合ぃ、または答えを導き出すことができなかった場合はぁ、諸君らが追放される――ぬぁぁんて、甘っちょろいことにはなりませぇぇん。あくまでもぉ、優遇されているのはアベンジャーだけなのですぅ。たーだーしぃ。問答無用でアベンジャー以外全員死亡というのはぁ、デスゲームあるあるですのでぇ、ちょっと趣向を変えますぅ」
教室を往復して戻ってきた姫乙は、再び教壇へと立ち、そして胸ポケットへと手を突っ込む。そして、真っ白な封筒を取り出した。
「この中にはぁ、私が事前にアベンジャーに聞き取りをしておいた要望が書かれていますぅ。つーまーりー【糾弾ホームルーム】でアベンジャーが諸君らに勝った時のご褒美がねぇ」
姫乙は封筒を見せつけるかのようにひらひらとさせ、今度は懐に手を入れる。しかしすぐに手を懐から出し、スーツのポケットというポケットを漁りながらぶつぶつと漏らす。
「いやいや、デスゲームあるあるだとぉ、お仕置きだとか処刑とかの大安売りじゃないですかぁ。分かりやすくて、とにかくバンバン人が死ぬと子ども達が大喜びするんですよねぇ。でも、お仕置きとか処刑だとか、そのようなマイナスイメージを素晴らしき法案に抱かれたくないんですよぉ。ですから、逆の発想でご褒美というプラスイメージのものを――あぁぁっ! ペーパーナイフどこいった!?」
何度もポケットというポケットを漁った挙げ句、とうとう声を荒げる姫乙。しまいには諦めてしまったのか、小さく溜め息を漏らして、封筒の封を乱暴に開けてしまった。そして、小さく咳払い。何事もなかったかのよう封筒から、折りたたまれた便箋を取り出した。
「えー、ここにぃ、ご褒美の内容が書かれていますぅ。それをこれより発表することにしましょう」
姫乙はそこでわざとらしく言葉を切り、そして周囲を見回しつつ、もったいぶるかのような時間をかけて便箋を開いた。ずっと「どぅるどぅるどぅるどぅる」と、呟いているのはドラムロールのつもりなのか。いいや「じゃん!」と最後に言って顔を上げた辺り、完全にドラムロールだったのであろう。
「もし、アベンジャーが諸君らを
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