第8話 蘆屋満 後編
放課後体育館裏に呼び出されたと思ったら、突然勝負を申し込まれた。
しかも俺の事を
まあ確かにそうも読めるけどさ〜
そういや中学の時、そのネタでからかわれた事も有ったけ。
高校生にもなって、また言われるとは正直思わなかったよ。
しかも今日会ったばかりの、下級生の女子に……
隣を見れば、
うん俺も同じ気持ちだけど、そこまで露骨な表情をすのはどうかと思うぞ?
「ふっどうしたの
さあ! 返事を聞かせなさい!」
やたらと芝居掛かった言い回しと、先程までのバレバレな虚勢が嘘のような堂々たる態度で迫る蘆屋。
「いや確かに驚いたけど、なんで初対面のお前さんと勝負せにゃならんのだ?」
「何を言っているのよ、私と貴方は終生のライバル同士。勝負するのは当たり前なのよ!」
えぇ〜、と助けを求めて横を見ると、顎に手を当て思案顔でぶつぶつ呟く麗美が目に入る。
「
「なんか分かったのか?」
「ええ、じゃあ私は帰るから。後はお二人でごゆっくり……」
何やら納得した顔の麗美はそれだけ言うと、二人に背を向けさっさと立ち去ろうとする。
「ちょちょちょ帰るのかよ! せめてどう言うことか教えてくれ!」
晴明の悲痛な叫びに心底面倒臭そうに振り向いた麗美は、はぁ……と一つため息を付くと……
「
「そうよ! そして私は
ますます調子に乗ってきた蘆屋は、興奮した面持ちで捲し立てる。
そんな彼女を
「これはつまり……」
「ええ、間違い無いわ……」
「「厨二病か(ね)」」
そんな二人の呟きも、冷め切った視線すら蘆屋には届かず。
未だ一人で延々と過去の因縁がなんたら、運命がどうたらと上気した顔で語っていた。
最初の無表情キャラは、一体何処へ行ったのやら……
「あー蘆屋、お前の言いたい事は何となくだが分かった」
半ばトリップ気味の蘆屋は放って置いてそのまま帰っても良かったのだが、後々付き纏われたりと面倒な事になりそう、それにそれでは余りにも哀れと思い声を掛ける。
「やっと理解したか
「いや、しないよ?」
「なんでですか!」
素になると敬語なのか、根は良い子そうなのに……
「大体
「大丈夫です、簡単なゲームみたいな物ですから」
蘆屋はそう言うと、校舎の陰に置いてあったデカイ肩掛けカバンを引っ張り出し、中からネットに入ったミカンと箱を取り出す。
「ここに10個のミカンが有ります。その内いくつかを箱に入れ、何個入っているか当てる。それを交互に繰り返して……三点先取でどうです?」
成る程、それなら知力体力は関係無いほぼ運勝負な訳だ。
範囲は0〜10個の11通り……三点先取って結構勝負長引かないか?
麗美と食事の約束も有るし、さっさと終わらせたいんだが……
「言っておきますが、私には霊感が有ります。
なので運だけの勝負では有りませんよ?」
霊感って……その設定まだ引っ張るのか、なら。
「俺はまだ
だから三回も当てるのは難しいと思う、そこで提案なんだが勝負は一回にしよう。
で、ピッタリじゃ無くても数字が近ければそれで勝ち、差が同じなら引き分けってのはどうだ?」
相手の設定にもある程度乗った上で、短時間で終わらせる方向に誘導する。
俺にとっては最大限の譲歩だ。
「私も鬼じゃ無い、良いだろう
道満口調で言い放つ蘆屋に、
まあこれで満足してくれるなら御の字だな。別に負けたからって何がある訳でも無いし……
等と考えていると、肩をポンっと叩かれる。
振り向けば悪戯っ子の様な目をした麗美の顔。
そして顔を寄せると、二言三言何やら
うお! 耳元で話されると結構ゾクゾクする……
じゃ、無くて……え? マジ?
顔を離した麗美に目で問いかけると、
? ……まあここは麗美を信じるか。
「相談は終わったのか?
「いや、俺が先に問いを出す。構わないだろ?」
「ふむ、良いだろう」
そう言うと蘆屋は箱とミカンを俺に手渡し、数歩離れると後ろを向く。
後から当てた方がインパクトが有ると言う麗美の言葉に従ったが、本当に大丈夫なのか?
さて、適当にそうだな……
「こっちを向いて良いぜ」
「ところで蘆屋さん、勝負に勝ったらどうするつもり?
もしかして、この男を弟子にでもするつもりかしら」
麗美の方をチラリと見た蘆屋だったが、すぐに箱へ視線を移す。
「私が勝ったら教えてやろう」
それだけ言うと真剣な顔で箱を睨み付ける。
眉間に皺を寄せ、まるで箱の中身を透視でもしようとしてるかの様だ。
そして……
「6個、箱の中身はミカンが6個だ」
おお! 凄いな一発でピタリと当てやがった。
「さすがだな道満」
箱を開け中身を見せる
「ふふ、箱を見た瞬間脳裏に中身の映像が映し出されたぞ。
どうだ
得意げな蘆屋に箱とミカンを返し、同じ様に数歩離れて背を向ける
「こちらを見るなよ? ……よし、良いぞ!」
どうやら準備出来たようだが、本当に
横に視線を向けると、麗美は蘆屋に視線を向けたままうっすらと笑いを浮かべていた。
まあ良いか……
「どうした? さあ答えを言え!」
「あ〜と、箱の中身は……ネズミが十五匹だ」
「なっ! 何をバカな……いや、まさか……」
恐る恐る箱を開ける蘆屋だったが、蓋を開けた途端ガクガクと震え出したかと思うと、白目をむきフラリと倒れそうになる。
「蘆屋!」
異変を察知した
「これで勝負は勝ちね。さあ帰りましょ」
「いや、このままにしとけないだろ。って言うか何をしたんだ?」
「ちょっとした幻覚を見せただけ。その子には、箱から十五匹のネズミが飛び出した様に見えたはず。
因みに最初の答えも、私が
そう言って怪しく微笑む麗美を見て、
✳︎
「うう……あれ、ここは……」
「おう、目を覚ましたか。大丈夫か?」
ガバッと起き上がる蘆屋は辺りを見回し、自分が置かれている状況を把握している。
「保健室?」
「ああ、急に気を失っちまったから連れて来た。
倒れる前に受け止めたが、どっか痛い所とか無いか?」
蘆屋は下を向き黙ったかと思うと、ポツリポツリ呟き始める。
「勝負は私の負けです……さすが
のわ! 泣き始めちまった!
どうすんのこれ……どうすんの!
ボロボロと涙を流して泣く蘆屋。
それを見てアタフタするばかりの
何ともカオスな状況に、痺れを切らした麗美が割って入る。
「何故勝負なんか持ちかけたの? その涙は負けて悔しいだけじゃ無いでしょ?
理由を聞かせなさい」
麗美的には極力相手を萎縮させないように言っていたつもりだが、最終的には苛立ちが勝ちどうしても語尾がキツくなっている。
蘆屋は麗美の言葉に一瞬ビクリと肩を震わせると、グズグズと鼻を鳴らしながらも説明を始めた。
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