#012:「Home」ってどこにある?

 あなたには自信を持って「Home」と呼べる場所がありますか?


 まずはあなたにとって「Home」とは何なのかを知る必要がある。生まれ育った場所? 今生活している場所? 大切な人がいる場所? 居心地のいい場所? 自分が自分でいられる場所?


 私は今までの人生で大きく分けて3つの場所で生活をしてきた。

 最初の場所は生まれ育った田舎町。これは私の意志とはまったく関係なく、両親が生活していた家が私の最初のHomeとなった。この最初のHomeで誕生から高校卒業まで暮らした。この頃は「早くここから離れたい、束縛から逃れたい、自由になりたい」とばかり考えていた。私の居場所は絶対にここではないといつも思っていた。


 次に移り住んだのは東京。大学進学を機に東京に移った。それまで住んでいた田舎町とは違って圧倒的な人口密度の高さに驚き、お金さえあればありとあらゆるものが手に入る都会に魅了された。それと同時に親元を離れ一人暮らしを始めて思い知ったことも多い。自由には責任が付いてくることを知った。

 大学卒業後就職したのも東京だった。何度か転職と引っ越しをしたが、すべて東京都内。東京での生活は私の肌に合っていた。プライベートに無理やり踏み込んで来ない心地よい距離感も好きだったし、世界でも屈指の都市に住んでいるという自己満足にも浸れた。でも、「ここより他に自分に合った場所が必ずあるはず」とも思っていた。

 東京で暮らした年数が生まれ育った田舎町で暮らした年数を超えてしばらくたった頃、東京から次の場所に移る機会を得た。


 その場所はなんとニューヨーク。ついに日本を飛び出した!

 日本では当たり前のことが国や文化が変われば当たり前ではなくなり、日本では問題にならない行動や言動が、異国・異文化では人を不快にさせたり攻撃と受け取られたりすることがあるということを学んだ。

 言葉の壁があったにも関わらずニューヨークでの生活は東京でのそれよりも快適に思えた。移民の国であるという歴史から個を尊重する文化が根付いていて、日本ほど他人を気にすることがない。日本では枠から外れないように和を乱さないように行動することにストレスを感じていたが、ニューヨークではそのストレスがなくなった。現在はコロナによるアジア系に対する差別が激化しているが、私が住んでいた頃は差別はそれほどひどくはなかった。差別のない完璧な世界は存在しないので何らかの差別は常に存在していたけれど、個人的には危害を加えられることはなかった。


 数年が経ち、ニューヨークでの生活にも慣れ、アメリカ国内でもっと冒険をしてみたいと思い始めた頃、母の訃報が届いた。

 一時帰国のつもりで急遽帰国したのだが、年老いた父が病気になり一人暮らしが難しくなったためやむを得ず同居することにした。ニューヨークでの生活は私の意志とは関係なく打ち切られてしまった。結局、生まれ育った田舎町に戻ってきたのだが、すごろくの「振り出しに戻る」を引いてしまった感じだ。


 これまでの人生で「ああ、ここが私のHome!」と呼べる場所にはまだ出会えていない。居心地のいい場所はあったが、何かが足りないという感覚がいつもついて回っていた。

 私にとってHomeとは、自分の意志で選び、自分で作り上げるもの。人に用意してもらうものではない。その場所を私はまだ作れていないが諦めたわけでもない。私が私でいることができ、大切な人たちが周りにいて、楽に呼吸ができる場所を必ず作るぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る