#007: 「咄嗟に出た言葉」の危うさと強さ

 ある対談でマツコ・デラックスさんが「咄嗟に出た言葉」というフレーズを使っていた。


 マツコさんは「咄嗟に出た言葉には書いた言葉より自分の気持ちが乗っている」と語っていた。マツコさんは文章も書くし、もちろん喋りの仕事も多くこなしている。「書く」仕事から「喋る」仕事へと展開していったそうだが、「喋る」仕事を始めた頃に「あっ、私こっちの方が向いているかも」と思ったそうだ。


 書いた文章は何度も推敲できるが故に、気になるところを繰り返し直していると最初に伝えたかった意味がぼんやりと形を変えてしまうことがある。きれいな言葉で飾り立て、不必要な説明を加えると、本当の意味にベールが掛かって見えにくくなる。一方、咄嗟に出た喋り言葉はその時の思いが真っ直ぐ外に出てきたものなので、無駄な飾りや説明がない。良くも悪くも伝えたかった意味がそのまま伝わる。


 喋った言葉は取り消すことができないという危うさがある。誰かを傷つけたり怒りを買ったりするかもしれない。つまり、失言になる可能性があるということ。マツコさんの凄いところは、失言にならないギリギリのところを攻めていることと反応の速さだと思う。人を傷つけない毒舌というか、愛ある毒舌。そして、打てば響く受け答えの中にユーモアがあるところ。失言にならずユーモアある受け答えを瞬時に行うには頭の回転の速さはもちろん、毒舌であろうと人の気持ちを思いやる気遣いも必要。マツコさんにはその両方があるので、彼女(彼?)のトークは聞いていて楽しい。


 咄嗟に出た言葉にはその瞬間の気持ちが乗っているからこそ力強く届く。その危うさと強さを理解した上で発した言葉が引き起こす結果を潔く受け止めるマツコさんの喋り言葉コミュニケーション術は素晴らしい。

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