幕間 空腹のライム
「リタ……どこ行っちゃったんだろう……」
先ほどまで一緒に追いかけっこをしていたリタを見失ったライムは、そう呟きながら船内を歩き回る。
そのついでに、マルクも遊びに誘おうと部屋を覗いたが、ベッドの上で寝ていたので、仕方なく布団をかけ直して立ち去った。
「勝手にねちゃうなんてひどい……」
そんなことを呟きながらしばらくうろついていると、どこからともなく良い匂いが漂ってくる。
「おなかすいた…………」
そしてライムは匂いにつられるようにして、フェナの居る厨房に入り込んだのだった。
*
「……よし、これで下ごしらえは大体終わったわね」
食材の仕込みを終えたフェナは、一息つきながら言った。
「あとはこれを――「食べていいの?」
「きゃあっ!?」
突然背後から声をかけられ、悲鳴を上げて飛び上がるフェナ。
「これ、食べていいの?」
「あんた……確かライムって名前だったわよね。びっくりさせないでよ!」
「ねえ、食べていいの?」
「うっさいわね! まだダメに決まってるでしょ! あんたそれしか言えないわけ?!」
フェナに怒られ、しょんぼりと肩を落として萎れるライム。
「……ごめんなさい」
ライムは、涙目になってお腹を鳴らしながら謝った。
「い、色々と感情が忙しいわねあんた。別に泣くことないじゃない……」
「だって……怒らせちゃったから……」
「私もいきなり怒鳴って悪かったわ。だからほら、泣かないで」
その場でしゃがんで、ライムの涙を拭くフェナ。
「わかった。――迷惑かけたから、ライムちゃん味見手伝う」
「図々しいわねあんた……」
フェナは小さくため息をついた後、続けた。
「まあいいわ。誰かに味見してもらいたいとは思ってたし。それじゃ、お願いね」
「まかせて!」
それから、ライムはフェナの隣につきっきりで立っていて、たまに料理を手伝わされたり、味見をお願いされたりした。
そうこうしているうちに、やがて料理が出来上がる。
「よし、これで完成ね!」
「すごくいいにおい……これ、なんていうの?」
「カレーよ。……もしかして知らないの!?」
「ライムちゃん、食べたことない」
「食べたことすらないなんて驚いたわね……よく考えたらあんた、マルクと同じくらいの歳で冒険者だし……一体何者なの?」
「ライムちゃんはスライムだよ」
「真面目に聞いた私がバカだったわ……」
フェナは、ライムの言ったことを全く信じなかった。
「ほんとだもん……」
「はいはい、わかったわかった。とにかく料理もできたから、みんなの部屋に運ぶわよ」
「集まって食べないの?」
「今日は皆んな早起きして疲れてるだろうから、会食はなしだってさ。デネボラ様の計らいよ」
「ふーん…………」
少し考えるような素振りをしてから、ライムは続ける。
「マルクは寝てたから、運ばなくていいかも。起こすのはかわいい……じゃなくて、かわいそう」
「……そうなの?だったら、マルクの分は残しておいた方がいいわね」
「ううん、ライムちゃんが代わりに食べる。寝てる方がわるい」
「あんた、優しいのか血も涙もないのかよく分かんないわね……」
「あめとむち! じゃくにくきょーしょく!」
遊びに誘おうとしたのに眠っていたマルクに少しだけ怒っていたライムは、きっぱりとそう言い放った。
「使い方、それで合ってるのかしら……?」
かくして、ライムはフェナを手伝い、皆の元へ料理を配膳することになったのだった。
「なんかいい匂いがする……それ何?」
厨房から出たその時、匂いにつられてリタが姿を現す。
「今日のばんごはん。リタのとこにも運ぶ」
「やったー! ……あれ、もしかしてライム、今まで料理を手伝ってたの?」
「そう」
「じゃあ……ボクが今まで隠れていた時間は一体……?」
「リタのこと、忘れてた。ごめん。でも今つかまえたから、追いかけっこは終わり」
「………………………………………………」
遊びに付き合っていたつもりだったのに軽くあしらわれて、驚いたような表情で固まるリタ。
こうしてライムは、配膳のついでにリタを見つけて、追いかけっこも無事に終わらせることができたのだった。
それからも、フェナと二人で手分けして配膳を済ませたライムは、再び厨房に集まっていた。
「――さてと、後はあんたと私とマルクの分だけなんだけど……本当に二人分食べるつもり?」
「マルク、まだ寝てた。名前呼んでも起きない」
「私はどうなってもしらないわよ……!」
「ライムちゃんはたくさんカレーが食べたい」
「あんた、どんだけお腹空いてんのよ……」
呆れたように呟くフェナ。
「こんなことなら、多めに作っておくべきだったわね……。まだ子供だと思って、あんたの食欲を侮ってたわ……」
「つぎから気を付けて」
「…………あんたに言われるとなんかムカつくわね」
そう言って、フェナはライムのほおを両側から引っ張った。
「いたい…………」
「まあいいわ。あんたもお腹空いてるだろうし、早いとこ食べましょ」
「いっしょに食べる?」
「……付き合ってやってもいいわよ」
「ライムちゃん、うれしい!」
食い意地の張っているライムは、この後二人前の媚薬入りカレーを綺麗に平らげたのだった。
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