第89話 襲撃


「うん……?」


 マルクは、真っ暗な部屋の中で目覚める。どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


 外はすっかり夜で、明かりをつけていないせいで暗くて周りがほとんど見えない。


「ずいぶん寝ちゃいました……」


 そう言いながらベッドから起き上がり、手探りで明かりをつけようとしたその時。


「わっ!?」


 突然、何者かに腕を掴まれ、押し倒されてしまった。


「や、やめて、放してくださいっ!」

「ちょっと、そんなに暴れないでよっ……!」

「その声は……フェナさん……?」

「……そうよ」


 理由は不明だが、どうやらフェナがマルクの部屋に侵入していたようである。


 マルクは次第に目が慣れてきて、ぼんやりとフェナの姿を視認できるようになった。


「はぁ、はぁ……!」

「あの、どうかしたんですか? 随分と息が荒い気がしますけど……」

「気にしないでいいわよ……!」

「そんな言い方されると、余計に気になります。そもそも、どうして僕の部屋に?」

「さっきから……うっさいわね……」


 フェナはそう言うと、マルクの上に馬乗りになる。


「ちょ、ちょっとフェナさん……?」

「――今から教えてあげるわ、赤ちゃんの作り方」

「あの、様子が変ですよ……!?」


 明らかに、普通ではないフェナ。


 マルクの今までの経験が、間近に迫った危険を知らせていた。


「デネボラ様に教えてもらったから、ばっちりよ。あれから……体が火照って仕方ないの……」

「な、何の話をしてるんですか?」

「今から、実際にヤるわね……!」


 そう言って、マルクにまたがったまま着ている服を脱ぎ、下着姿になるフェナ。


「なっ、何してるんですか! やめてくださいフェナさんっ!」

「ほら、あんたも脱ぎなさい……! 赤ちゃんはそうやって作るの……!」

「意味がわかりません!」


 手足をばたばたと動かして、必死に抵抗するマルク。


しかし、無慈悲にも押さえ込まれてしまう。


「大人しくしなさいっ!」

「んむっ…………!?」


 さらに、マルクはフェナに唇を奪われてしまった。


 あまりに突然のことに、足をぴんと伸ばして体を硬直させるマルク。


しばらくの間、フェナの柔らかい唇が押し当てられ、やがてゆっくりと離れていく。


「あ…………そんな、酷すぎます……っ!」


一方的に弄ばれたマルクは、涙目になりながら言った。


「女の人っていつもそうですよね……!僕のこと何だと思ってるんですか!」

「元はと言えば……あんたが言い出したことでしょ? 赤ちゃんの作り方が知りたいって!」

「それとこれと、何の関係があるって言うんですかっ!」

「大人しくしてれば……すぐ終わるから……」


 そう言いながら、抵抗するマルクの着ている服のボタンを、ゆっくりと外し始めるフェナ。


 彼女はもはや、完全に正気を失っていた。


「いい加減にしないと、怒りますよっ!」

「ハァ、ハァ……! 大丈夫よ、滅茶苦茶にしてあげるから……っ!」

「――マナドレインっ!」


 まるで聞く耳を持たないフェナに対し、マルクはとうとう魔法を放つのだった。


「いやあああああああああああああああああああああんっ!」


 一気に魔力を吸い取られたフェナは、悲鳴とも嬌声ともとれる叫び声を上げながら、マルクに覆いかぶさるようにしてベッドの上へ倒れ込む。


 フェナの素肌は、汗でじっとりと濡れていた。


「これに懲りたら、もう二度としないでください!」

「なにこれ……きもちい……! あたま、真っ白になるっ!」

「だめだ……全然聞いてません……」


マルクはそう言いながら、フェナをどかして起き上がる。


そして部屋の明かりをつけて、脱がされかけた服を着なおした。


こうして、ひとまず危機は去ったのである。

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