第88話 真実
「げほっ、げほっ、な、なにを言っているのですかフェナ……!?」
アンドレアは大きく咳き込んだ後、目を見開いて言った。
「だから! 赤ちゃんの作り方を教えて欲しいって言ってるの! お姉ちゃんは知らなそうだから答えなくていいわよ!」
「…………私のこと、一体何だと思っているのかしら……」
ため息混じりに呟くアンドレア。
「あっそう。知ってるんなら、別にお姉ちゃんが教えてくれてもいいけど?」
「そ、それは……その……」
アンドレアは、顔を真っ赤にしたままうつむき、黙り込んでしまった。
「――ふん、やっぱり知らないんじゃない。デネボラ様教えて!」
フェナはデネボラの方へ歩み寄りながら、そうお願いする。
「…………そうですわね。フェナくらいの歳なら、知らない方がおかしいですわ」
「で、デネボラお嬢様!?」
「だってそうでしょうアンドレア。遠ざけすぎるのも、教育上よろしくないですわ」
「確かにそうかもしれませんが……!」
「わたくしにお任せなさい。ばっちりフェナを教育して差し上げますわ」
「……で、ではお任せします」
アンドレアはそう言って引き下がった。しかし未だに動揺が隠しきれていない様子で、カップを持つ手がありえないくらい震えている。
「良くわかんないけど、結局教えてくれるの?」
「ええ。……私の側へ来てくださるかしらフェナ?」
「わかったわ! さすがはデネボラ様ね!」
「耳を貸してちょうだい」
「うん!」
デネボラは覚悟を決めてから、赤ちゃんの作り方についてフェナにこそこそと耳打ちした。
初めは興味津々で聞いていたフェナだったが、次第に驚いたような表情になり、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「――と、いうわけですわ」
「そんな……! キスしたら鳥さんが運んできてくれるんじゃ……!」
「その話は全てまやかしですわね。誰から聞いたのかは知りませんけれど」
「だって……お●●●にお●●●●を●●●なんて……!」
「あまり大声で言うのは良くありませんわよ」
真実を伝えられたことによって、フェナの中にあった幻想ががらがらと音を立てて崩れ落ちる。
「わ、私、お夕飯の支度をしてきますっ!」
そしてたまらず、フェナは逃げるようにデネボラの部屋を後にするのだった。
✳︎
逃げるようにして船内の厨房までやってきたフェナは、どさりとその場に座り込む。
「こんな話……マルクにできるわけないじゃない…………!」
フェナは頭を抱え込んでうずくまった。
一体、マルクに何と話せば良いのか、考えても思い浮かばない。
「し、仕方ないわ……! これは後で考えるとして、今は夕飯の支度をしましょう!」
結果、全て投げ出して料理を作ることにしたのだった。
「えーと……今日は私を入れて…………九人分作らなきゃいけないのね。これは骨が折れそうだわ!」
先ほどから、誰もいないのに大声で話しているのは、余計なことを考えないようにするためである。
気分を紛らわせるために、いつもよりも素早い動きで調理器具の準備をしていくフェナ。
「……後は食材だけね!」
そんなことを言いながら、厨房の隣にある食糧庫へ足を踏み入れた時、ふとある物が目にとまった。
「あれ……この箱は……何かしら?」
頼んだ覚えが無い箱が置いてあるのを見て、好奇心からそれを開けてみるフェナ。
「………………?」
箱の中には袋が入っていて、更にその袋の中には、何かの粉末が入っていた。
「何の調味料かしら……?」
フェナは勇敢にも、その得体のしれない粉末を一口舐めて味を確認する。
「な、なんだか独特な味だけど、力が湧いてくる気がするわ……! よ、よし、今日はこれを隠し味に使ってみましょう!」
かくして、今晩皆に振舞われる料理に、媚薬がぶち込まれることが確定したのだった。
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