第96話「第三回バトルロワイヤル最終戦」

『ヘイヘイこの町も人が少なくなって寂しいぜこん畜生!だが俺の熱いビートはまだ止まねえ!今日も元気に実況するぜえええ!黄金の指輪を持つのはこれであと二人!指輪をそろえて黄金の果実へ到達するのはいったい誰だ!? わくわくが止まらないぜえええ!』


 Djトルティーヤのやかましく内容の薄い実況を聞き流し、泉武はセントラルのビルのような建物に着けられたモニターを眺めていた。そこはセントラルのほぼ中心にある公園広間で、もはや人など存在しない。敗北したプレイヤーはもちろん、徐々に人が減少していくこの場所を恐れたプレイヤーたちも戻ってくることはなくなった。武はエピックウェポンのハンマーを片手に空を見上げた。


『どうして…?こんな…。』


『今までの協力感謝する。だけどこれで終わりだ。お前たちはもう戦う必要はない。』


 仲間たちのエピックウェポンはすべて破壊した。レオニダスの反応が消え、残り二人になった時点でこうすることは決めていた。大切な仲間たちだ。彼らがいなければ多くのプレイヤーがこのふざけた世界で命を落としていただろう。清志たちの知らない武たちの冒険の思い出があった。はぐくまれた友情があった。だからこそ仲間たちは武の行動が理解できなかった。武器を失い同時に着も失った彼らに武は再度頭を下げた。ほかのプレイヤーたちがそうであるように、武器を失った彼らはこの異界で起こった出来事をすべて忘れてしまうだろう。冒険の思い出も友情も。だがそれでいい。何の憂いもなく戦いの場に立てるからだ。


「来たか、御手洗宗次。」


「お前はたしかあ。泉武か。」


 御手洗宗次、この異界の戦いの中で数多くのプレイヤーを殺害し、その力を奪ってきた狂人だ。この数か月間たって一人であまたのプレイヤーを誇ってきたこの男の実力はほとんど最強といってよいのだろう。しかしその事実と比較してあまりに不自然な体の線の細さと小汚い格好だ。まるで死にかけの入院患者がそのまま外に出てきたかのような、亡霊のような不気味さがある。


「はああ。お前はつまんないよ。戦う気もしねえし、指輪だけおいて帰れば?」


 以前目撃した時のような高いテンションとは打って変わって低血圧のような話しぶりだ。どうやら自分はお気に召さないらしい。それは好都合だと武は皮肉気に笑った。


「あいにくお前のような下種を喜ばせる気はさらさらない。そちらこそ、武器を置いて投降したらどうだ?命だけは助けてやる。」


 その言葉を聞いた宗次は怒り心頭といった風に唇をかみ武を睨め付けた。


「てめえはやっぱ気に入らねえええええ!」


「奇遇だな。俺もお前が気に食わん!」


 宗次が突進し、拳で殴りかかってきた。まるで宇宙空間を直進するかのように素早い突進だ。それを武はハンマーで受け止めた。重い、とても素手とは思えない威力だ。武も攻撃を当てようとハンマーを振るがからぶった。そして背後より打撃が加えられ、武は膝をついた。それを冷たい目で宗次は見下した。


「が…は。」


 高速移動では断じてない。まるで操られたかのようにハンマーは宗次からそれていった。これは能力によるもので間違いない。その上あのすさまじいスピードとパワーの攻撃だ。エピックウェポンの能力は一人一つ。いったいどのような能力ならばこの二つの状況を両立できるのか。


「ふんっ!」


 持ち前の腕力で岩を投げつける。宗次はつまらなそうにそれをよけた。さすがにこの程度では能力は使ってくれないらしい。


「もういいだろ。つまんねえんだって。お前。勝てねえってわかんないかな。」


「ずいぶんと勝負から逃げたがるんだな。あれだけ殺しておいて、俺とはやりたくない?ずいぶん臆病になったものだ。」


「臆病?違う。やる気も起きねえんだよ。お前みたいな人形野郎はさ。」


「人形?生まれてこの方、そんなかわいらしいものに例えられたことはないな。」


「はあ。もういい。死んでくれ。」


 会話をするのもおっくうなのか、宗次は強引に話を中断し攻撃を再開した。すさまじい加速とともに突進した宗次のこぶしをよけようと足を動かすが、まるで避ける方向を予知していたかのようにそのこぶしは向かってきた。あまたのプレイヤーを屠ってきたそのこぶしが体に直撃すれば、おそらく肉がそげ突き抜けるだろう。ガードも間に合わない、よけることも不可能だ。


「あ…?」


 宗次が武の首を切り裂こうというその瞬間、宗次の腕から血が噴き出した。完全な意識の外、二人をはさむその真横から一直線に、何かが飛び出し宗次を貫いた。


「石?」


 それは一センチにも満たないコンクリートのかけらだ。宗次がそれに気を取られている間に、武はハンマーを振り下ろした。宗次はかろうじて両腕でガードするが苦悶の表情を浮かべた。


「ぐっ…!?」


「よそ見とはずいぶん余裕だな狂人。心配しなくてもここにいるのは俺とお前の二人だけだ。」


「仕込みやがったのか。」


 忌々しそうににらむ宗次を今度は武が見下ろした。古人は言った、戦いとは始まる前にすでに決していると。故に武もそれに順じただけだ。


「手を抜いて殺せるほど俺は甘くない。全身全霊でかかってこい!」


 第三回バトルロワイヤル、最終戦が今始まった。

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