第95話「最後の戦いのカウントダウン」
その日清志は墓参りに向かった。ともに歩くのは了司と洋子、そして楓だった。実をいうと、清志はこうして墓参りに来るのは久しぶりだった。埋葬されているとはいえ、そこに聖がいるわけではないと思っていたし、思い出すことをしたくなかったのかもしれない。両親は聖のためにわざわざ墓石を用意し、家からそう遠くない場所に建てられている。彼らは何度ココに訪れたのだろうか。それはわからないが、ずいぶんと綺麗にされていた。
「花まで悪いな。別に気にしなくてよかったのに。」
「いいえ。私なりのけじめですから。」
楓はこの日のために造花の花束を用意してきていた。それを清志は申し訳なく思うが、彼女はそれに首を振った。四人は聖の墓石を掃除してから、線香をあげそれぞれ手を合わせた。洋子、楓、了司と順番に最後に清志が手を合わせた。
「人間って勝手だよな。こういう時ばかりは目の前に聖がいる気がする。そんなわけないのにさ。」
結局自己満足だ。だけどだからこそ言いたいことは全部言ってしまおうと思った。見上げた空は快晴だ。そういう日を選んだから当然だ。浮かぶ雲を眺めながら、清志は話始める。
「墓参りあんまり来なくて悪かった。でも今日は聖の友達も来てくれたんだ。造花なんてすっげえ気が利いてるだろ?洋子が連れてきてくれたんだ。お前のことずっと思ってくれてたんだよ。ほんと、感謝しとけよ。そうだ、おふくろの奴今まで入院してたけど、そろそろ退院できそうなんだ。まだ面会で来てねえけど、まあ何とかなるさ。親父の奴は毎夜毎夜飲んだくれてるけど、そろそろ歳だろ?本格的に禁酒させようと思ってんだ。どうしたらいいかな。まあ何とかするよ。だからそっちは心配しなくていい。俺は…まあ大丈夫だ。ばかやっていろんな奴に怒られてるけど、最終的には何とかなってる。適当スギって言うなよ。要するに心配いらねえって話。今まで情けないとこ見せてたかもしれねえけど、もう大丈夫だから。大丈夫。」
清志は意外に言葉が出てくるものだと思った。偶像へ語り掛ける姿のなんと滑稽なことかと、あざ笑う気持ちもある。だがそれ以上に伝えたいことがたくさんあった。
「聖。私たちもう中学生になったのです。制服、一緒に着たかったですね。一緒にいれなくて…ごめんなさい。もっと、もっと一緒に遊びたかったです。もっとずっと…。」
「ごめんね聖。私、聖のこと嫌いになんてなってないよ。大好きだよ。なのに逃げてごめんなさい。本当にごめんなさい!」
洋子と楓がすすり泣く声が聞こえる。二人も聖に伝えたいことがたくさんあったのだろう。聖の死から数年間ため込んできた思いがたくさんあったのだろう。改めてこれが死というものなのかと理解した。誰かの死はその人にかかわった多くの人々に影響を及ぼす。聖の死はきっと彼女たちの心をずっと縛り付けてきた。人の命はそれほど重いのだ。あの醜悪な健也ですら、その死を嘆く人がいるのだろうか。
「やっぱ、簡単には死ねねえな。聖、しばらく待たせるけど、約束はきっと守る。後、知ってるかもしれないけどちゃんと報告しとくよ。」
風がなびいている。この風は紡いだ音を天まで届けてくれるだろうか。これはけじめだ。そして別れだ。ずっと聖の死と向き合えなかった自分との別れ。辛くて唇がこわばるが、精いっぱい頬を引き上げた。
「お兄ちゃん勝ったよ。みんなのおかげで、聖のおかげで。やっと弱い自分に勝てた。ありがとう。大好きだ。」
こんなに空は晴れ渡っているというのに、少し頬が濡れた。袖で顔をぬぐい立ち上がって振り向くと、珍しく了司がほほ笑んでいた。
「ちゃんとお別れできたかよ。兄弟。」
「ああ。みっともねえとこ見せたな。」
「んなわけあるかよ。連れてきてくれてありがとよ。」
「こちらこそ。みんな来てくれてありがとう。」
それから楓は引きこもることをやめ、保健室登校から徐々に中学へ通う準備をすることになった。洋子もそのサポートをするという。了司は今まで流してきた清志の悪評を虚偽であったとクラスメイトに説明し謝罪した。別に何か大きく変わるわけではないが、少しはクラスにいやすくなりそうだ。白夜はというと、病院の検査で頭に腫瘍が見つかり意識不明になったりと一時は大騒ぎになったのだが、なぜかその腫瘍が消えてしまったという。結局、レントゲン検査の誤りを早とちりしただけらしい。意識不明になったのは働きづめの疲れが出たのだろう。もう完全に回復し、仕事に復帰するらしい。再婚予定の麻里佳にはもっと体を大切にするようにといろいろ念を押されたようだが。まあ彼女がいれば白夜は大丈夫だろう。
「んで、わざわざみんな集めて何の用だよ。魔導王?」
「私もしばらくは働かないぞ。まだイチゴ大福貰ってないし。」
「あれ清ちゃん、まだ買ってないの?」
「いや、この時期イチゴ大福って売ってなくてさ。まずイチゴの時期じゃねえし。」
「冷凍のものなら探せばあるんじゃないですか?」
「えー、それはやだな。」
『そんなものは自分で作れ。さて本題だ。そろそろ最終決戦だからな。お前たちの武器を最終更新する。』
「「「「最終決戦?」」」」
魔導王がいきなり清志たち四人を呼び出したかと思えば急にそのようなことを言ってきた。最終決戦というのはいきなり過ぎてどういうことかまるで分らない。
『そう時間はないだろう。死にたくなければ、武器の最大スペック、すべて引き出せるようになることだ。』
いつの間にかカウントダウンが始まっていたようだ。
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