第94話「新村長就任」
了司との戦いから数日たった後、清志たちはまたククリたちのいる森人の森へと向かった。というのも今日は森人の村における村長就任の儀式があるのだという。健也の襲撃によって壊滅的な被害があった村であるが、村人の総力を持って修繕し生活も元に戻りつつあるという。以前は木々が絡まり家になっていたが、今村の家の造形もあまり変化がない。しかしその色はカラフルな蛍光色で、少し目に痛かった。これはククリたち神樹の魔法使いによって生み出された魔力でできた木で、本当の木になるにはしばらく時間がかかるらしい。しかし復興が進んでいることがわかり清志たちはほっと胸をなでおろした。
「これより、神樹の御子就任の儀を行う。ククリ、前へ。」
「はい。」
すでに儀式は始まっていた。本来神樹の魔法使いが複数存在する場合、選別の儀が行われ誰が村長になるか決めるのだが、今回はキララが辞退したことでククリが正式な村長となるという。清志たちは見ていないのだが、健也が再度森人の森を攻めてきた時、ククリがそれを倒したらしい。その功績が大きいとのことだ。倒された健也がどうなったのかは聞かなかったが、あれから彼の姿を見たものは誰もいない。
「なんていうか、すごく様になってるねククリさん。」
「だな。」
祭祀服に身を包んだククリの姿は日本神話の神のような、神秘的な雰囲気をまとっていた。健也との戦いを経てきっと大きく成長下であろう彼にもはや初めて会った時のような情けなさは感じない。ククリは魔導王からもらった魔道具の鉾「アシラ」を手に、神樹ククノチのある神域へと足を踏み入れていく。神樹に認められたものでなければ入った瞬間消えてしまうという恐ろしい場所。そこへゆっくりと入ったククリはさらに奥へと向かいしばらくして見えなくなった。もしや消えてしまったのではないかと心配になるも、それからさらにあと彼は戻ってきた。その姿を見て、村人たちが歓声を上げた。清志たちはその理由がいまいちわからず困惑するが、ふと彼の手にしていた鉾を見た。
「なんかデザイン変わった?」
ククリは壇上に上がると、その鉾を右手に立て言った。
「前村長、ククマが亡くなってから皆に不安な思いをさせたこと、改めてここに謝罪する。本当にすまなかった。」
ククリは頭を下げ、謝罪した。村人は沈黙を続け彼の言葉を待った。
「俺は未熟だ。魔導王様とその子らの力がなければ今この村は残っていなかった。これからこの場所に、幾度このような災禍が訪れるかも知れない。だが俺はもう二度とただ逃げることはしない。村長としてこの村のために、知恵と力を持って立ち向かい続けることを誓おう!しかしそれは俺一人では不可能だろう。どうか皆の力を貸してほしい。」
「もちろんだべ!」
「何度森が燃えたって!」
「おらたちは何度も立ち上がれるだ!」
村人たちがククリに向かって様々な声援をあげる。その言葉を聞いてククリは微笑んだ。
「共に進もう、この村の未来のために。」
「「「「おおー!!!」」」」
新村長の就任を宣言しククリは鉾を空高く掲げた。そしてまた歓声が上がる。その姿はまさにファンタジーの一ページで、精霊の王のようであった。
「あああああああ!緊張しただよおおおおお!」
あの時の感動を返してほしい。就任式が終わった後のククリを見て清志たちはそう思った。先ほどまであんなにも凛々しかった村長の姿はどこにもなく、そこにいたのはいつものククリだった。
「あんなにたくさんの人の前に出るなんて、うえ、思い出すだけで口から中身が出そう。あああああ!」
「お前な…。」
「僕はちょっと安心したかも。いつものククリさんだ。」
どうやらククリはエピックウェポンを使用しているときは、一種の興奮状態になって性格が少々変わってしまうらしい。その時のことを思い出すと、恥ずかしいやら怖いやらでこうして悶えているのだという。
「まったく、この後祭りなんだからしゃんとしろ。村長!」
「今日はもういいだよおおお。」
「ほら、ずく出せククリー!」
「なよなよしてんじゃねえのですよ!」
自らの姉や年下であろう瞳たちに怒られる情けなさ、こいつが本当に尊重で大丈夫かと誰もが思うだろう。だけどこれがククリだとそう思う。清志と皆夫は、その醜態を肴にお茶を楽しむことにした。
日も暮れ始めると、村には灯りがつき始めた。手の半分くらいの大きさをした光の玉が、様々飛び交い村を照らしている。それは蛍のようで、美しかった。村が焼けてからそれほど時間がたっていないというのに、村人たちはそこで御馳走をふるまい踊り歌い、笑顔を咲かせた。清志たちはその様子を眺めながらごちそうを堪能した。肉がないのが少々不満だが、どれも絶品で飽きさせない。ククリは祭祀姿で各地を回り、村人たちと対話をしていた。之も尊重としての大切な仕事なのだろう。それが終わると彼は清志の隣に腰かけた。
「ふえー。」
「終わったのか?」
「一応は。また明日からいろいろやらないといけないみたいだけどな。まったく老人たちは話が長くて困る。」
確かにエピックウェポンを起動しているククリの雰囲気や口調はどこか違う。わざとやっているということなのか、自己暗示の一種だろうか。ククリは果実酒を飲み一息ついたところで清志は話を切り出した。
「ククリ。」
「なんだ?」
「健也のこと悪かったな。押し付けちまったみたいで。」
健也は聖の仇だった。きっと決着をつけなければいけなかった。魔導王がいれば何とかなると思っていた。だがそれは結局他人に責任を押し付ける行為だった。
「了司と約束したけどさ、もしまたあいつにあったら今度こそ俺は、殺してしまったかもしれない。みんなが俺を想ってくれていたことを知ってたとしても、俺の意思は弱くてもろくて揺らぐから。また勘定に振り回されて間違えちまってたかもしれない。だけど、それは責任を放棄していい理由にはならない。」
「俺は押し付けられたなんて思ってない。健也は俺にそして村にとって必要な試練だった。平穏が脅かされたときどうすればいいのか、これから未来を担うためにどうすればいいのか。今までは考えもしてなかったからな。」
「そりゃ結果論じゃねえかよ。本当は俺が何とかしないといけなかったんだ。」
「今まで俺は争いなんてばからしいと思ってた。争うから傷ついて、何もかもうまくいかなくなるって。その結果村は燃えた。立ち向かっていったココたちの気持ちが今はわかる。」
「俺がもっと早く健也を何とかしていればあんなことにはならなかった。」
「だけど、必ずしも戦わなきゃいけないわけじゃないと思うんだよ。戦いは手段で、求める結果が手に入らないなら意味はない。今でもそう思う。俺たちは考え続けなきゃいけない。それでも間違えるかもしれない。」
「分かってるさ。もうどうしようもないって。だけど、考えちまうんだよ。もっといい方法があったんじゃないかって。これからまた間違えちまうんじゃないかって。」
「俺の間違いを正してくれたのはお前だよ清志。」
「え?」
ククリは清志に微笑みかけ、夜空を見上げた。少し恥ずかしそうに頭を掻きながら息を吐いて言葉を続ける。
「お前と魔導王様の戦いを見た。守るために戦おうとするその姿を見た。相手がどんなに強くても、最後の最後まで立ち向かったその姿を俺は決して忘れないだろう。考えなしに逃げ続けようとした俺の過ちを正してくれたのはお前で、村の兵士たちで、俺の姉ちゃんだ。だから俺は健也に立ち向かえたし、村のみんなの力で倒すことができた。いまこうして笑い合えるのは俺のおかげなんかじゃない。お前たちみんなが俺を正して、力を貸してくれたからだ。」
ククリは起き上がり、清志の頭を撫でた。
「だから押し付けたなんて思わなくていいんだよ。俺たちが間違えても、正してくれる仲間がいる。俺とお前も仲間だろう?みんなで勝ったんだ。」
清志は唇をかみしめうつむいた。目をぎゅっとつむりゆっくりと開きため息をつく。そして皮肉気に笑った。
「本当に性格変わるんだな。さっきまであんなに情けなかったくせに。」
「あー、だから今夜清志たちが帰るまではこの姿でいるよ。戻ったら絶対恥ずかしくて死ぬだろうからな。」
今からすでに憂鬱気になるククリを見て清志は笑った。之だけきざったらしいセリフを吐いたからにはそれこそとんでもなく恥ずかしい状態になるのだろうと想像すると横隔膜がはちきれそうになる。その笑いにククリが眉をひそめるが、一通り笑った清志は言った。
「サンキューククリ。俺もみんなのおかげで少しだけ前に進めた気がする。」
「こちらこそ。」
そうして二人は互いの腕を交差した。夜が更けはじめるも、村は明るい。その行く末を暗示するかのようにきらびやかで力強く。祭りの熱はまだ止まない。
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