第91話「暴走」
互いの思いをぶつけあいながら、戦う二人を見て瞳はどちらも正しくて間違ったところがあるのだろうと感じた。また鬼気迫る勢いではあるが、以前話したときのような理由のない恐怖を了司から感じなくなっていた。それどころか、妙に納得している自分がいた。
「あの二人似てるんだな。性格とか好みとかそういう部分じゃなくて、もっと深いところでとても似ている気がする。」
「だからこそ、ああやってぶつかっちゃうんだろうね。それが一番いいってたぶん二人ともわかってるんだよ。ううん、わかったからこうなったわけで。」
人は自分の考えを曲げることは難しい、意志が強いものならなおさらだ。心を殺して曲げる人間も多いけれど、それでは納得できない。あの二人にとってこの戦いは納得するためのものなのだ。そう理解したからこそ、皆夫と瞳は手を出そうとは思わなかった。
「らちが明かねえな。クソが。」
「この一年で少しはやるようになったじゃねえか。だが体力はもう限界か?」
「たった一年で追いつかれるとは、ずいぶん怠けてたんじゃねえのかよ。それとも才能がないってか?」
「口ばっかり回るのは変わんねえな。そういう言葉は俺に一撃でも当ててからにしろよ。」
「んだとコラ?」
剣を交えながら、二人は話を続ける。互いに青筋を立て、仕留める機会を狙っていた。
「使いたきゃ使えよ。お前の能力、正直どんな能力なのか全くわかんねえけど。」
「…ハンデに教えてやるよ。俺の能力は「何でもあり」だ。」
「はあ?」
「エピックウェポンは心に根差した能力が発現する。なら心を変化させれば隙に能力がいじれるだろうがよ。てめえと違って心を律するなんざわけねえ。こんな感じにな、
錫杖からたちの立ち上るように突風が発生し、清志を襲う。体が浮きそうになるのを必死にこらえた。
「その割にはずいぶん単純な能力ばっかじゃねえか。あの幻覚魔法のほうが厄介そうだけどな。」
「てめえにゃこれで十分だろうがよ。」
「なめんな!」
清志は足場を創り出し、加速して了司を攻撃する。受け止めようとした了司の錫杖をすり抜けさらに二度跳躍し、頭上から刀を振り下ろした。
「な、くう!」
かろうじて錫杖を両手で抑えガードに成功するが、腕が強くしびれる。予測が外れていれば、守り切ることなどできなかった。
「俺の能力は見えない足場だ。弾性があるから、お前のすっとろい動きじゃあ追えねえよ。」
「そのすっとろい動きでガード出来るんなら、大した能力じゃねえな。ツーか地味。」
「地味なのは関係ねーだろうが!」
あんなに言い合いをしながら戦う清志を見たことがなかった。瞳は二人を眺めてあることに気づいた。
「笑ってる。」
罵り合いながら、喧嘩しながらあれほど激しく戦っているというのに笑っている。それを見て瞳と皆夫もあきれながら笑ってしまった。之ならきっと大丈夫だ。このまま良い方向に向かってくれるはずだ。だが、その思いは突然裏切られることとなった。
「息上がってんじゃねえか。そろそろ終わりにしてやろうか?」
「ざけんな、てめえに言われたくねえんだよ。まだこっちには奥の手が…。!?」
「っ!…何か聞こえる?」
「え、どうしたの瞳ちゃん?」
耳鳴りのように甲高い音が聞こえ、瞳は耳をふさいだ。だが、皆夫たちには聞こえていないらしい。その後何か声のようなものが聞こえだした。それと同時に、了司の様子が変化する。
『…は…で…ころ…。』
「うるせえ…黙ってろ!」
「おい了司どうしたんだ!?」
了司の尋常じゃない様子に、清志も動揺する。頭を押さえるように苦しむ了司の錫杖から邪悪で黒いオーラが噴き出し始めていた。あの武器が何かをしていると感じた清志は急いで、錫杖を取り上げようと走った。
「うわっ!」
しかし了司の腕にはねのけられてしまう。
「てめめめめええをころrすすす!それっががそれでえええもどるるrr!」
言葉にならない叫びをあげ、しばらくの間もだえていた了司だったが、突然静かになる。そして目を開いた了司の目には以前のような激しい憎悪が宿っていた。
「そうだ。てめえがいなくならねえと何も取り戻せねえ。てめえだけは殺さないと…!」
「お、おい了司?」
「うるせえ!てめえはココで殺す!絶対に、絶対にな!変身!」
錫杖から黒い光が放たれ、巻き付くように了司の体に広がっていく。そして現れたのはさび付いたような銀色の鎧と、狼のような鉄兜。錫杖は騎馬のような東洋刀に変化していた。
「何でもありって、まさかレグルスの鎧迄模倣できるのか!?」
「さっさと死ねよ、殺人者がよ!それがてめえにできる最後の贖罪だ!」
振出しに戻った。いや状況は悪化したといっていい。突然豹変し変身した了司の身体能力は大幅に上昇し、清志は防戦一方な状況へと追い込まれた。足場を使い空中を逃げ回らなければ、岩に足をからめとられる。近づけば大量の水で身動きを封じられ、飛べば風で行動を制限された。その上攻撃を受ければ炎で体が焼けていく。単純な能力だが、そのエネルギーが大きければどれも強大な脅威だ。
「清ちゃん変身しなきゃやられちゃうよ!」
皆夫に言われた通り、変身しなければやられてしまう。だが、もし変身したら殺し合いになってしまう。清志と了司の実力はそれほどに拮抗していた。
「だめだ…そんなことしたらどちらかが死んじまう!」
「今更偽善者気取りか?てめえは今までも殺そうとしたじゃねえかよ!戦え!てめえが死ぬか、俺が死ぬか、それだけがこの戦いを終わらせる方法だろうがよ!」
了司は力任せに清志に攻撃を加え続ける。まるで気が狂った狼のようだ。清志がいまだ持ちこたえているのは、それによって動きが単調になっているから、ただそれだけの理由だ。だが両手からは煙が出そうなほど焼けただれ始め、腕は刀を持つこともできなくなってきた。
「駄目だ。お前を殺すなんて…。」
「俺を殺せるつもりかよ!?ずいぶん舐め腐ってやがる!」
了司の刀が清志の脳天に向かって振り下ろされる。清志がガードするが、すでに両手は限界だった。抑えきれず、炎をまとった刀が清志の肩をえぐった。
「ぐあああ!」
「清志君!」
了司の暴走はもはや止まらない。
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