第87話「私の正義」
瞳は了司の前に立ちふさがった。無視して通り過ぎようとする了司に瞳は能力を使用する。
「
「なに!?」
瞳のエピックウェポン「アンゲルス」の能力。対象の注意を強制的に引き自らにひきつける技だ。誰かを守るためには必須の力だと魔導王に作らせたのだ。応用性のかけらもないが、それゆえに強制力は圧倒的だ。その例にもれず了司も瞳から目を離すことができなくなる。
「てめえ…!」
「ホーリーヒール!」
それと同時に瞳は清志に回復をかけた。しかし放心状態の清志は動くことができないようだった。
「…後悔すんじゃねえぞ!」
そう言って了司は瞳の顔をこぶしで殴りつけた。そのこぶしは瞳の左頬に直撃する。すでに二つの能力を同時に使っている瞳にそれを防ぐ手段はなかった。
「案外甘ちゃんなんだな。軽いこぶしだ。飲んだくれの父親のほうが痛かったかな。」
「ぬかせ!」
何度も何度も了司はこぶしを振るった。そこには焦りと恐怖すらにじんでいるように見える。八方美人の女学生など一度ぶてば、泣いて逃げると思っていたのだ。だというのに目の前の瞳は鼻血を垂らしながらよろけるも決して倒れず、不敵に笑っていた。
「やめ、やめろ!」
正気に戻ったのか、清志が叫ぶ。それでも体は動かなかった。悲痛な叫びがあたりに響いた。
「なんなんだよてめえはよ!なぜそこまであいつをかばう!?てめえにとって清志は数か月前に話し始めた程度のただの他人だろうが。」
「そうだな。付き合いは君よりも短いかもしれない。だけど私にも知っている彼がいるんだ。」
アンゲルスを起動しているとはいえ、鍛えられた了司の打撃がいたくないはずがない。魅了かホーリーヒールどちらかをやめれば、身を守ることもできるだろうに人海はそうしなかった。
「清志君ははゲームに目がなくて、一直線で、たまに考えなしだ。たくさん失敗して結構心が折れる。だけど必ず立ち上がって、どんな相手にも立ち向かえる強い魂を持っている。私が知っている清志君はそういうやつだ。」
「くっ!倒れろ!」
了司のこぶしが顎に入り脳が揺れた。しかしふらつきながらも大地を踏みしめ立ち続ける。
「間違いはあったのかもしれない。これまでもこれからも間違うことはあるんだろう。だけど、それを正せる正義の心を彼は持っている。私はそれを確信している。」
「倒れろって言ってんだよ!」
「私は彼の味方だ。君の言っている彼は知らない。だが今の彼を知っているから守りたいと思う。清志君を信じ続ける。」
了司の攻撃が腹部に命中した。瞳は目を見開き血交じりの胃液を吐いた。
「それが私の正義だ。」
気を失う瞬間まで瞳は倒れることがなかった。そんな瞳を受け止め、了司は罰が悪そうに舌打ちをした。
「クソが、興がそがれた。今日はここまでにしてやる。」
了司は米俵を持つように肩に瞳を抱え、にらみつける清志に言った。
「一日待ってやる。明日セントラルの中心、コンサートホールにこいよ。そこでてめえを殺してやる。こいつはそれまでの人質だ。」
そう言って了司はその場所からいなくなった。それと同時に清志の意識も限界を迎え完全に消失したのだった。あたりには未だ消え切っていない炎のじりじりとした音だけがやけにうるさく響いていた。
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