第85話「三度目」
刀を向けられ、しりもちをつきながら這いずる健也は引きつった笑みを浮かべた。
「い、いいのかよ卑怯者め!仲間が来たからって調子乗りやがって、それがお前のやり方かよだっせえなあ!いいのか、こんな勝ち方して?恥ずかしくねえのかよ!?」
「ああ、自分でも情けない限りだよ。結局魔導王たちに頼り切っちまって、みじめ極まりないぜ。」
「そうだろう?それに心も痛むはずだ。なんせ複数人で一人をいたぶるなんて卑劣な行為だもんなあ?今の俺ってかわいそうだろ?なあ!?」
「確かに、弱い者いじめって見ているだけで心が痛むよ。特に複数人で痛めつけるなんて本当に可哀想だ。」
「ひひひ!何悠長にしゃべくってんだよバーカ!」
健也は会話の間にアンノウンを呼び寄せ、一斉に清志へ攻撃させた。小型だが、戦闘に特化した個体だ。これで一気に形勢逆転…。そう思い笑っていた健也の顔はすぐにゆがむことになる。
「ただし、お前の場合は全然心が痛まねえ。」
清志を囲むようにして攻撃を加えたアンノウンたちだが、その攻撃が清志に届くことはなかった。一瞬で上空に跳躍したことで彼らの攻撃は互いに食らうこととなる。そして上空から落下した清志によってまとめて破壊される。
「な、なんなんだよお前!ダンジョンのボスクラスのアンノウンだぞ!そこらの雑魚じゃないんだただのプレイヤーのくせに!来い、早く来いってんだよウスノロが!」
「ずっと考えてたんだ。どうやってお前は大量のアンノウンに逐次命令を与えていたのか、ある程度は自動で動かせるみたいだけど何かを媒体にして命令を出していたはずだ。」
「な、なんでなんで来ないんだよ!」
健也は仲間を呼ぼうと何度も叫ぶが、これ以上アンノウンが健也の元へ集まることはなかった。その理由を清志は見下しながら推測する。
「操っているアンノウンやプレイヤー、それらを媒介して命令を出してたんじゃないか?つまりある一定以上の密度で隊列を保たなければ、遠くまで命令は出せない。いまのお前の周り、見てみろよ。」
「は?」
あたりを見回しても燃える木々と荒野のみ、健也の周りには誰もいなかった。目の前の男を除いては。腰が引けながら健也は鞭を振るった。アンノウンたちにはダメージにもなったのかもしれないが、レグルスの鎧にとってはかすり傷にすらならない。
「ひい…ひいいいい!」
「死ね。」
清志は刀を振り下ろした。
ガキン!
「え…?はえ?」
無様に失禁した健也に刃が当たることはなかった。ぎちぎちと金属同士がぶつかりこすれ合う音が聞こえる。清志の刀はその男の錫杖で受け止められていた。
「これで三度目だ、邪魔すんのもいい加減にしろよ了司!」
「…失せろゴミが。」
そこにいたのは赤い髪に神父服、そして鬼の面どれもみたことがある。男は健也を蹴飛ばし、逃がしてしまった。以前アーマーンと名乗り清志を襲い、魔導王を倒すべく銀たちとともに現れた和服姿に鬼の面をした男、そのどちらもが同一人物であることを今完全に確信した。
「逃がすか!」
「
逃げた健也を仕留めようとするも、了司によって作り出された岩の壁に阻まれる。
「了司、前に言わなかったか?邪魔すんならぶち殺すと!」
「ああそうだな。殺すだろうよてめえはよお。あの一撃は健也を殺せる威力だったぜ。やっと得心がいった。てめえはそういうやつだ。」
「何が言いてえんだよ!?」
了司は面を外し親指を下に立てた。
「ここで死ねよ殺人者がよ。やはりてめえは地獄がお似合いだ。」
「そうかよ。ならお前が先に行け!」
そうして再度、刀と錫杖がぶつかり合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます