第81話「犯行準備」
白夜が病院に搬送されたと知り、麻里佳はすぐにそこへ向かった。階段で転倒し頭部を強打したのだという。
「先生白夜は、白夜は大丈夫なんですか!?」
「落ち着いてください。横転した時に何か鋭いもので頭部の皮膚を切ったようで、出血こそしましたがそれ以上のけがはありませんでした。意識も正常です。今応急処置を終えて、検査を行っています。」
「そう、ですか。よかった。」
「しかしCT検査を行ったところ、少々気になることがありました。しばらくは入院していただく必要が有るかもしれません。」
白夜が入院してから、クラスは完全に地獄になっていた。ほとんどの人間からすれば娯楽場だったのかもしれない。しかし私にとっては地獄でしかなかった。
「おはよう清志く…なんだよこれ?」
「おはよう瞳。いつも通りだろ。さっさと行こうぜ。」
下駄箱前で清志君に挨拶した。彼の下駄箱には靴とともに土と鼠の死骸が詰めてあった。
すたすたと足早に教室に行く彼に追いつくこともできない。走りたくとも、先ほどの衝撃のせいで力が入らなかった。なぜあんなにむごいことができるのかわからない。鼠の死骸を庭に埋める彼の姿が頭から離れなかった。
教室につけば、彼は既に席について本を読んでいた。その机には油性ペンで「人殺し」「根暗」「生ゴミ」など様々な誹謗中傷が描かれている。そんな異常な空間だというのに私以外の全員が平然としていた。
「あごめーん手が滑った~www」
ざばっ
そんな彼の頭上から大量の水が降り注がれた。健也がバケツの水を真上から浴びせたのだ。その様子をクラスメイト達がさも愉快そうに笑う。そんな人たちじゃなかったはずなのに。
「ずいぶん暇なんだな。」
清志君は顔についた水をぬぐいながら、何の問題もないかのように言う。それに健也は一度顔をゆがめるもすぐに笑い始めた。
「くっさ!こいつ小便のにおいがするwwあごめん、これトイレのバケツだったわww」
私は耐えられなくなって立ち上がろうとした、あのにやけ面を一度ひっぱたかなければ気が済まない。だというのに、彼はにらむんだ。
『手を出すな。邪魔すんなよ瞳。』
どうしていいのかわからなくなってしまった。
放課後、クレイジー・ノイジー・シティに入ると、すでに皆夫が待っていた。清志君は今日も来れないらしい。
「瞳ちゃんこれ。」
「…コーラ?」
「ひどい顔だよ。少しリフレッシュできるんじゃないかな。」
「どうしてそんな平然としていられるんだ?清志君が…あんな目に遭ってるんだぞ。」
「…清ちゃんには何か考えがあるんだよ。僕はそれを邪魔できない。瞳ちゃんだってわかってるはずだよね。」
「わかってるさ。でも…でもさ。見てられないあんまりだよ。」
手を伸ばせば止められるかもしれない。たとえそれができなかったとしても苦しみを分け合うことくらいはできるはずだ。それもできずただ見ているのは心が張り裂けそうな心地がした。
「清ちゃんは妹さんが亡くなってから、ずっとこんな気持ちで生きてきたのかもしれないね。何年も毎日ずっと…そして今は妹さんが受けてきたかもしれない苦痛を自分も受けようとしてるんだと思う。」
「そんなことして何になるっていうんだ。このままじゃきっと心が壊れてしまう。もう嫌だ。」
「過去の後悔を乗り越えるため…とかかな。清ちゃんにとっては必要なことなんだよきっと。」
皆夫はすべて分かったように言う。彼と清志君は親友だ。きっと私以上に彼のことを理解しているのだろう。それがうらやましくもあり、腹立たしくもあった。
「皆夫は強いな。どうやっても私にはそんな考え方できない。」
「そんなことないよ。理由をでっちあげてるだけなんだ。僕は今清ちゃんのためにできることをやるしかないから。清ちゃんが過去を乗り越えられるって信じるんだ。瞳ちゃんは清ちゃんが信じられない?」
「意地が悪い質問だな。わかったよ。もう少しだけ我慢する。」
この一週間地獄のような日々だった。これがまだ続くのかと思えば泣きたくなる。だけど今までの彼を知っているから信じたいと心から思うのだ。
「だけど、僕も心配なんだ。今回のことで清ちゃんにとって大事な何かが壊れてしまうんじゃないかって。」
そして事件は起こった。
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