第79話「最悪の再会」
清志は武とともにクレイジー・ノイジー・シティのセントラルに来ていた。建物は依然と同じように近未来的な都市のようであるが、人は以前よりも圧倒的に少なくなっていた。
『ヘイヘイへイ!今日も元気かお前たち!?みんなのDJトルティーヤ様だぜ!今日も指輪の持ち主は変わってない見てえだな~。だが安心してくれ全員にチャンスがあるぞ!指輪の持ち主に近づけば居場所がわかる!急いで集めるもよし、よそで争わせて横からかっさらうのも何でもありだ!黄金の林檎を手に入れるために頑張れよ!いええええやあああああああ!』
トルティーヤのやかましい放送に懐かしさを覚えつつも眉をひそめた。
「武はいろいろココを調査してんだろ?そろそろあいつの居場所われねえかな?一発殴りたい。」
「…気持ちはわかるが押さえろ。すべての建物をしらみつぶしともいかないから難しいな。」
「残念だ。それで今日は何しにセントラルに…。」
そこでなぜか数少ないはずのセントラルにいたプレイヤーたちが何人かこちらを凝視し、武器を構えた。
「は?」
「来るぞ。迎撃する。」
武もハンマーを構えた。状況が理解できないまま清志も刀を構える。
「死ねやああああ!」
そんな雄たけびを上げながらプレイヤーたちに襲い掛かられる。そのすべてを倒すのに数分かかった。
「え?何?セントラルって戦闘禁止じゃなかったっけ?」
「プレイヤー同士の戦闘は許可されたようだ。蟲毒も最終段階に来たということか。この指輪を持っているものはほかのプレイヤーに狙われ攻撃される。」
「郊外だとそんなことなかったけどな。」
「このものたちでは郊外ではやりようがないのさ。レオニダスのおかげでな。故にセントラルに来た指輪の所持者を狙っている。」
「とりあえず洋子はこっちに連れてこれねえな。んで問題はレオニダスのほうだろ?」
「そうだ。まずは落ち着ける場所に行くぞ。」
そうして武が案内したのはセントラルに残る数少ない店の一つだった。人がほとんどいない地下の酒場のような場所で、森人が給仕を行っていた。その中に見知った森人が一人いた。
「ノノ?」
「これは清志様、まさかこちらで会うことになろうとは。それに武殿もしばらくぶりです。」
「個室で頼む。」
「かしこまりました。こちらへどうぞ。」
ノノに案内され個室へ入る。武に促されノノも席に着くと話を始めた。
「レオニダスはプレイヤーを多数配下に置き、おそらくこの異界において最も巨大な勢力となっている。それがレオニダスが狙われない理由だな。清志、お前はレオニダスに遭遇したことはあるか?」」
「いいやまだだ。徒党を組むってのはわかるけどさ、そのメリットってなんだよ。バトルロワイアルの賞品が黄金の林檎だとして、メンバー全員にもらえるもんなのか?」
「それは違う。奴らはおそらくそんな人道的合意を持って集まった集団ではない。それは出会えばわかるはずだ。そしてもう一つ奴らの勢力で侮れないのは配下にアンノウンを従えていることだ。」
「アンノウンを!?」
「はい。私もこの目で見ました。あの凶暴なアンノウンを多数、それもどの個体も巨大で強力なものばかりでした。」
「ノノは隠密に優れた戦士ゆえに見つからずに済んだが、セントラルの行き来の中で少なくない森人がエルフ狩りで命を落としている。見過ごすことはできん。しかし俺たちだけでは戦力が足りないのだ。」
「武の仲間ってリクと一緒にいた…正直数を見ないとわからないけどさ、俺たちは四人しかいない。戦力的には大した足しになんないんじゃねえかな。」
「そうとも言えん。…我々もいまだ敵の全貌を把握しきれてはいないから確実なことは言えないが、これだけは宣言しておきたかったのだ。俺たちはレオニダスと戦うつもりだ。協力するかどうかしばらく考えておいてほしい。」
「分かった。こっちでもできる限りレオニダスについて調べてみる。できる限りの情報が欲しい。」
「分かった。こちらが持ち得る情報を渡そう。」
清志たちの話はそれからしばらく続いた。
それからしばらくたったある日、清志は授業も終わり休み時間に入ったので教科書もしまわず窓の外を眺めていた。レオニダスの出没時間はほとんど決まっており、午後五時から夜までに限定されている。基本郊外でプレイヤー、アンノウンなどを襲撃している。しかし最近は現れない日もたびたびあるようで、監視を行っている武の仲間も困惑しているという。
『指輪の持ち主は人を殺すほどアンノウンを倒すこととは比較にならない力を得られるようだ。御手洗とレオニダスはそれによって俺たちの想像以上に強大な存在となっている。』
武の話を考えれば、人殺しは積極的に行うほど彼らにメリットがあるようだ。結局清志たちは幸か不幸かレオニダスに遭遇していない。本当にそんな大それたことが起きているのか確信が持てなかった。そしてもう一つ武が言っていたことこれがとても重要だった。
『異界で死んだ者はその存在ごと元の世界からは抹消されるようだ。以前の催眠術師のようにデータや遺品が残っていても存在しなかったと認識してしまう。またエピックウェポンを失えば、それを持っていたころの記憶はしばらくすればすべて消えることがわかっている。奴らの情報統制のためだろう。』
席の数は30人の数も同じ、依然行方不明になったクラスメイトも戻ってきたようだ。あれからこのクラスで行方不明になったものはいないはずだ。異界にいるプレイヤーはほとんどが中学から高校生程度の年齢のものだけ、そんなプレイヤーが何人も死んでいるはずなのに、この場所は特に変化がない。
「…杞憂ならいいんだけどな。」
皆夫たちにレオニダス討伐の話はできなかった。藪をつついて毒蛇にかまれたら本当に命が危ないかもしれない。武やククリたちには悪いが慎重に判断しなければならなかった。
思慮にふけながら席に座り頬杖をついていると、ぐしゃりと神がつぶれる音がした。
「先輩何黄昏てんスか?きもいんだけどww!」
先輩といわれるのは環以来だろうか。しかしその口調は人を小ばかにしたいやらしいもので、聞いていて不快だ。机を見ると清志の開かれた教科書のページが片手で握りつぶされ大きく破けていた。
「何すんだ。」
「何怒ってんの?ウケるww」
顔をあげその男の顔を見た。中学生だというのに髪を金色に染め、襟足が長く、ピアスを付けたその姿はチンピラのようで着崩した制服にすら似合っていない風貌だ。にやにやと笑いながらこちらを見下すその顔は清志にとって忘れたくても忘れられないものだった。
「てめえ!」
とっさに机をひっくり返しながら立ち上がり清志はこぶしを振り上げた。清志が急に叫んだことでクラスの女子生徒が何人か悲鳴を上げた。そんなことを清志が気にしていられるはずもなかった。殴らずにはいられないその姿を見ながら男はにやにやと未だ笑っていた。殴ることができないと知っていたからだろうか、清志の振り上げたこぶしはある男によって止められてしまったのだ。
「了司…!」
「調子に乗んなよ。」
清志のクラスメイトの一人、経澤了司だ。清志は彼を焼き頃山河ばかりに睨みつけた。それもそのはずだ清志の前でいやらしい笑みを浮かべている男は清志の妹、聖を自殺に追いやったいじめグループの一人、
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