第78話「エルフ狩り」

「大樹にやどりし霊光よ大地に清涼なる恵みをもたらせ!凍結樹!」


 キララが呪文を唱えると彼女の足元から青白く光る木の根が現れ、湖の水を吸い上げるように持ち上げ凍らせた。そしてつくられた氷の花は巨大で美しいかった。


「すごいです!これが神樹の魔法なのですね!」


「道具も何も持ってないってのいうのにどこからともなく根っこが現れたな。それにしてもこんな芸術的な氷を一瞬で作れるなんてすごいぞキララ!」


「練習しましたので。」


「もっと見せてもらっていいですか!?」


 瞳と洋子はたびたびこうしてキララと会うようになっていた。もはや情報を引き出そうなどという考えもなく単純に友人として瞳たちは彼女と交流を深めたくなったのだ。今日は彼女の魔法を見学していた。


「お二人のそのエピックウェポン、というものは魔導王様がお造りなった魔道具なのですよね。」


「そうだよ。なんだっけな、魔術で作り上げたとかなんとか。魔術と魔法って何が違うんだろうな?」


「それについては前に聞いたことがあるのです。確か魔術は技術で魔法は才能だとといっていました。」


 魔術と魔法に共通するのは魔力と呼ばれる特殊なエネルギーを用いることである。マナはこの魔力を結晶化させたものだ。この二つは結果が似ていても過程が大きく異なる。魔術とは魔力をどのように扱えばどのような結果が生じるか研究し、それを魔道具に応用する学問的技術である。この扱いとは魔術回路と呼ばれる電子回路のような陣を道具に刻むことであり、そこに魔力を通すことで様々な現象を得ることができる。魔力を持つ人々は筆や枝などを用いてこの魔術回路を描くことができ、様々な魔道具を創り出す。これを魔術師という。一方魔法は生物が生まれながらまたは後天的に持つことのある特殊能力である。基本的に一人一能力で応用力、出力には限界があるが魔術では再現できないような事象を起こす能力も存在する。魔術師の中にはこの魔法が生体に描かれた生まれながらの魔術回路を持つ人間とみなすものもいるが、身体的欠損をしながらも能力は正常に行使できる魔法使いも存在することから未だ議論が行われている。


「っていう感じみたいなのですよ。また魔力を持っていても魔法使いではない人が大半らしいですね。」


「…つまり私も魔術師にはなれるのか?」


「私たちに魔力はないみたいですよ。新陳代謝によって生成されるエネルギーを魔力変換しているって言っていたのです。」


「そうなのか。ちょっと残念。」


「魔導王様は我々の部族に五つの魔道具を授けてくださったと聞いています。一つはククリ様が持っていますが、残りの四つはクルルさまが管理されています。恐らくその中の一つはクルル様のものになるでしょう。その所有権についても現在村の中で大きな問題になっているのです。」


 キララは呪文を唱えると燃え盛る木の根が現れ、氷の花を溶かした。


「キキトおじい様は魔道具を独占されることで自分たちの地位が危ういのではないかと危惧しています。私の魔法だけでは不安なのでしょう。」


「派閥の問題ということでしょうか。…そこらへんは何とも口の出しづらいところですね。」


「はい。そしてもう一つ問題があります。」



 ククリは気絶していた、皆夫主導で行うククリ強化訓練を終え気が抜けたようだ。ククリが逃げることのできない竜巻の折の中でひたすら皆夫に攻撃を打ち込むという単純明快な鍛錬だったが、それでも彼脆弱な精神では負担が大きかった。もう気絶することにも慣れた皆夫は平然としながら見守っていたここに手を振った。そこに差し入れを持ったクルルがやってくる。


「いつもありがとうね。これ口に合うかわからねえけんど、差し入れのおむすびだよ。」


「わあありがとうございます!」


「喜んでもらえるとうれしいだ。ククリはまた伸びてるだか?情けねえべ。」


「お言葉ですがクルル様、皆夫様の創り出すあの暴風の中で鍛錬というのは私でも精神的につらいですだ。…はい。」


「ココがいうならそうなんだろうね。前言撤回するだ。皆夫ちゃんは疲れてないだか?」


「僕はマナを使ってるので割とダイジョブですよ。」


「マナにはそんな使い方もあるだね。知らなかっただよ。」


「そういえば、クルルさんたちもマナを集めてましたけど、あれって何のために集めていたんですか?」


「ああ、それはね…。」


 森人たちの村は神樹の力によって成り立っている。しかしその恵みを十分に得るには神樹に認められた神樹の魔法使いがいなければならない。今現在、神樹に認められた魔法使いが存在しないため森は十分な機能を果たせていなかった。


「このマナを使えば、神樹様の加護がなくてもある程度森に力を与えることができるだよ。おらたちも最初その話を聞いたときは半信半疑だったけども、論より証拠だ。今ではこのマナがおらたちの生命線なんだ。」


「…でもお店閉めちゃったんですよね?」


「実はまだちょっとだけ残ってるだよ。といってもそれも問題なんだ。村の外がおっかねえからな。」


「エルフ狩りですか。」


 黄金蛇の指輪を持つプレイヤーの一人レオニダスは、多くの仲間を集めエルフ狩りを行うと声明を出した。セントラル以外において彼らが森人族を見つければすぐに襲い掛かってくる。物資の輸送中に襲われ命を落とす森人もすでに出ているようだ。


「プレイヤーたちがほとんどいなくなる夜間に移動するようになってからはほとんど被害は出なくなったけど、みんな不安なんだ。セントラルに行きたがらねえ森人も多くなっているし、マナもこれ以上は調達できねえかもしれねえ。村長が決まればこんな問題は出なくなるんだけど…。」


「いまはココが見つかっていないから襲われていないですけど、これからも大丈夫とはいいがたいですよね。」


「…魔導王様から授かった魔道具を使えばこの状況を打破できるのではないですか?」


 ココの提案にクルルは首を振る。


「キキト老をはじめとした老人たちは力があればすぐにでもプレイヤーたちを一掃しようと考えるはずだ。戦争になったら勝てたとしてもどれだけ犠牲が出るかわからないべ。やり過ごせるならこのままのほうがいいはずだ。」


「クルルさんが魔道具を分配していないのはその理由からなんですね。…でもそううまくいくのかな?」


「…簡単にはいかないだよ。こんな時お父様がいてくれたら…。」


 重苦しい雰囲気の会話が続く中ククリはいまだ気絶し続けるのであった。


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